PAGE4 得るモノ-失うモノ
最近店長が忙しい。というかあまり店先に顔を出さない。朝起きてご飯食べてからはずっとガレージにこもっているのだ。
「拓斗さんはなぜか分かりますか?」
「さあな、俺の愛車(過去編参照)に傷さえつけなきゃどーだって良いからな。」
「優希君は?」
「僕も分からない…。」
この始末である。つまり彼は誰にも何も言わず淡々と何かをしているのだ。そんなのが始まって1ヶ月くらい過ぎた頃…。
「今日から1人ここに住む人…いや、『モノ』が増えるから。」
「「「…は?」」」
目の前で立体化されていく人形のような何か。それは約10秒ほどで静火の横に出来上がった。
PCのディスプレイから光を放ち出てきたその『モノ』は…。
「…少女?」
そう。身長は160cmくらい、灰色のフード付きパーカーに黒のスカート、さらには腰近くまで長さがある赤髪の少女だったのだ。
「…え…。」
「これ…AI?」
隣で宮下も優希も唖然としている。そりゃそうだ、今まで見たこともない技術を目の当たりにして、自分の知り合いがそれを操っているのだから。
自分の隣に立体化された少女。その子は…
「そう、この子はAI。ティアラ、みんなに自己紹介してね。」
そういうとその少女…ティアラはコクリと頷き、話し出した。
「人物判別、特定完了。初めまして霧崎拓斗さん、霧崎優希さん、宮下紗南さん。私の名前はティアラ、アルファベットでは[TYAL]というコードネームになります。
生年月日は20○○年10月8日。設定精神年齢は19歳です。
一応私はコンピュータ等電子機器に内蔵される人工知能ですが、このように皆さんの前に立体化する事もあります。…というよりかは立体化している方が私は気持ちが落ち着くようです。バイタルの安定性も見られます。これからよろしくお願いします。」
そういうとティアラはペコッとお辞儀をした。
「え、えぇと…よろしくね。」
と宮下が手を差し伸べるとティアラはきっちり握手を返した。その瞬間宮下は驚愕する。
「体温を感じるっ?!」
「私は確かにAIですがほぼ人間と同じ扱いで結構ですよ。」
「い、痛みとかは感じるのか?」
「物理的な痛みは感じますが残念ながら精神的な痛みというのは私自身が感じるのは不可能です。が、想定することは可能です。」
ひとしきりティアラに質問が浴びせられる。区切りが着いた所で繰り出した。
「さて、本題に入ろう。」
静火の話によると2ヶ月ほど前、この時空の狭間にとある戦場の戦車部隊の隊長車両が、さ迷い込んだらしい。そこで静火は負傷兵の手当をして、送り返したらしいのだが、彼らは静火が万事屋ということを知り、勝利まで導くために、戦争の援助をするという依頼を高額報酬を条件に受けてしまったらしいのだ。
「だがそこで俺らが所有した車両出したら世界観、世界線壊れるのではないか?」
「だからティアラを開発したんだよ。」
「せめて生み出したって言ってください。調教されたみたいで嫌です。」
「あ、なんかすまん…。」
「それに俺らだけじゃ操縦できる車両は限られるぞ?」
「それの対策もバッチリだ。見て。」
そういうと静火はガレージへ俺らをいざなった。
「わぁ~…!」
思わず声が漏れる。だって元々静火兄や拓斗が使う車が入ってた狭いガレージ。今はもう車6台くらい入るサイズになっている。しかも、だ。
「あれは…戦車用のエレベーター?」
そう、戦車が1両あり、そこは車両用エレベーターになっているのだ。
「そう。地下にまだ沢山戦車あって、今回はそこから選んでもらうからね。」
すると拓斗が聞いた。
「お前、てことは戦車しかない感じか?」
すると静火兄は笑っていった。
「まさか。この際だから他も色々作ったから案内するよ。エレベーターに乗って。」
エレベーターに全員乗ったことを確認して、扉脇のB1というボタンを押す。すると扉が閉まりゆっくり降りていく。しばらく降りて止まり、扉が開いた。そこには50両を超える戦車が並んでいた。優希も拓斗も、紗南まで驚きを隠せない感じだ。
「んでこの車両なんだけど、中を色々変えてあるんだ。」
実際にハッチを開けて中を見せながら説明する。
「一応各車両1人乗りになっている。操縦、装填、砲撃、機関銃発砲…全部車長席にあるタッチパッドで出来るから。」
「なんか、ゲームみたいだな。」と拓斗。
「ゲームっぽいけど、死んだら復活出来ないし、HP制じゃないからね?当たりどころ悪かったら弾薬庫誘爆で大爆発を起こして死亡か、車長席に、もろ弾薬が直撃して死亡だから。気を引き締めてね。」
「エンジンとか燃料タンクで火災が発生することってないのかしら?」と宮下。
「一応各主要部品周りは強化してあるし、自動消火システムがあるから、1回は耐えれるよ。1回は、ね…。」
「そんじゃあ、各自乗る車両を決めてくれ。」
そういうとみんな車両を見に行った。
ちょこっと車両紹介(全て実在、または現役車両)
霧崎静火
74式中戦車
主砲:105mmライフル砲L7A1
副兵装:12.7mm機関銃M2
最高速度:70km/h (53+自己改造により17)
備考:日本国自衛隊の元主力戦車として開発、運用されていた車両。スピード重視の流線形の車形が特徴。また油圧サスペンションにより、前傾にする事が可能。また砲塔は楕円形、低車高であるが故、なかなか簡単に砲弾は貫通しない仕組みとなっている。
宮下紗南
fv215b183
主砲:183mmL4
副兵装:--
最高速度:45km/h(34+自己改造により11)
備考:紅茶の国ことイギリスで開発された対戦車駆逐戦車。その大口径による超火力は有名で巷では「アルティメット紅茶砲」と名前をつけられるほど。しかし代償として平均的に装甲が薄くなっているため、発砲後の砲弾装填時間を上手く稼ぎ、被弾を防がなければいけない。
霧崎優希
61式中戦車
主砲:61式52口径90mmライフル砲
副兵装:7.62mm機関銃M1919A4
最高速度:55km/h(45+自己改造により10)
備考:74式中戦車の先輩的存在である戦後初の国産自衛隊戦車。74式とは対照的に車高が高く、キューポラ(搭乗員出入口)にある通信装置が特徴である。なお、こちらには74式のような油圧サスペンションは搭載されていない。
霧崎拓斗
M41 walker bulldog
主砲:76.2mmライフル砲M32
副兵装:12.7mm重機関銃M2
最高速度:85km/h(75+自己改造により10)
備考:アメリカ合衆国産まれの軽戦車。愛称は『本家ブル』。万能な機動力、小口径ながら良好な速射性を持っている。しかし代償となるが全体的に装甲はかなり薄いため、榴弾(弾内に火薬が詰まっており、着弾すると爆発を起こす弾薬。貫通力は基本的に低い。)を被弾しただけでもかなり危ういため、ドライビングテクニックを求められる車両でもある。
ティアラ
TigerⅡ
主砲:8.8cm KwK43L/71
副兵装:7.92mm機関銃MG34
最高速度:40km/h(30+自己改造により10)
備考:ドイツで開発された超重戦車の一種。図体がデカく、正面の装甲はかなり硬い。主砲は巷で『アハトアハト』と言われる8.8cm。
「ここか…。」
対象空間。world1507。座標を指定して時空間の扉をくぐると、目の前には高原が広がった。その中に目を凝らしてやっと判別できるくらい徹底してカモフラージュされている軍事用キャンプ場。目的地はそこだった。近づくと番兵に停止させられた。
「この先は関係者以外立ち入り禁止区域です。」
「…ソン-メイ大隊長に用命を受けた、万事屋霧崎静火と、後ろにいるのは部下です。ご本人に確認を頂ければ分かるかと思いますが。」
すると番兵は、ハッとした顔をして慌てて道を開けた。事前に話を聞いていたのだろう。
「お待ちしておりました霧崎様。中へご案内します。…車両の方はこちらで移動させましょうか?」
「特殊かつ機密車両であるが故、我々で運びます。ガレージへ案内していただけますか?」
番兵に先導されて、ガレージへ車両を移動させる。後ろに宮下らの車両が付いてきた。やはり、こちらの世界の車両だからだろうか、兵士の視線を浴びるのを車内でも感じる。特に宮下の車両は大口径のため、かなりの視線を浴びている。また、彼女も注目を浴びて悪い気はしないのか、砲塔をゆっくり回して見せつけていた。
「ここか…。」
「…なるほど。」
ガレージに入るとそこには彼らが使用するであろう車両が沢山並んでいる。
「…ざっと見て、口径は75~85mm、装甲はそれなり、最高速度は40km/hくらいと言ったとこか。」
僕らがいた世界の現存したどの車両にも該当しない、完全オリジナル車両と言ったとこか。
「そういや自走砲ってあるんですかい?」
と拓斗。
「自走砲?」
「あぁ、砲弾を直に当てるんじゃなくて空に向けて撃って敵の上から砲弾を撃ち込む車両だよ。」
「…それに関してはまだ我々の国の軍部が研究中ですよ。なかなか射撃精度が悪くてですね…。」
そりゃそうだ。あれは大体の位置を予想して当てるものだから。
「ちなみにそのジソウホウとやらは、我々の軍部では対陸弓砲(たいりくきゅうほう)と呼んでいるのですよ。まあ、霧崎様たちは別の世界の方だから知らないでしょうけど。」
さて、と…。
「そろそろ本題行きたいから行こう。」
「私がソンメイと申します。一応このキャンプの総隊長であります。」
「おいおい…。総隊長様が俺らに敬語なんて使わんでも…。」
拓斗がビビっているのを見て笑いそうになる。
兵士が呼びに行くと彼はすぐに出てきてくれた。
「いえいえ、一応隊の者以外の方ですし、応援に来ていただいている側なので…。」
「んで隊長、今回の作戦と僕らがやれば良いことを教えてもらえます?」
「そうですね。」
そういうと彼は大きな地図をテーブルに広げた。2つの山脈の外側に平原が拡がっている。そして山脈の内側は熱帯雨林らしく、小さながら川もあるようだ。
「山脈の間の距離はどれくらいですかね?」
「戦車で1時間くらいで着くので大体20kmくらいですな。今我々は地図内で言うと南側の高原に居まして、敵は真逆、北の高原あたりにいると思われます。」
「なるほど…。敵に警戒しつつ反対側の平原を占領しに行く形だな。」
「以上で説明は終わりますが…。何かありますか?」
「そうだな…。敵の車両について何か情報はないか?」
「車両自体は総戦力的にも我々とほぼ互角と見て良いでしょう。」
「なるほど…。じゃあティアラのtigerⅡを先頭に三角形を作る形で陣を組んで行こう。」
「我々は如何なさいますか?」
「三角形の陣形の後ろから2列に並んで着いてきてくれ。」
先頭1両がティアラ、その左後ろに拓斗、右後ろに俺。そして俺の更に右後ろに優希、拓斗の左後ろに紗南がいる。もちろんこの順番にしたのも車両の特性を考えた上での判断だ。そしてこの後ろにソンメイ率いる戦車小隊総計20両が着いてくる感じとなった。
~作戦開始30分後~
「ここまでで大体半分てとこでしょうか。」
目の前の敵戦車の屍の山を眺めながらソンメイが言う。やはり陣形は効果抜群だったようで、彼らの小隊はほぼ被弾なし、そして俺ら含め全員生存していた。ティアラのtigerはそれなりに被弾したがさすが重戦車と言うべきか、1発も貫通されなかったようで、ティアラ本人もケロッとしている。
「ではあと大体半分、気を引き締めてまいりましょう。」
そう言い、ソンメイが車内に戻ろうとした時、何かの影が俺らの車両の上空を通ったと同時に空気を切り裂く音が聞こえた。
「な、なんだなんだ…?!」
次の瞬間、鼓膜が破れそうな轟音、そして地響きが鳴る。そしてそれが断続的に続いてきた。
慌てて全員車内に戻るとティアラから無線が入っていた。
「ティアラこれは一体」
『おそらく自走砲の類かと思われます。上空を通過したのはレーダー搭載のグライダーのようです。あくまで想像ですが、あのレーダーで砲弾を誘導しているのではないかと思われます。』
ソンメイの無線も割り込む。
『それって我々がまだ研究途中の』
『対陸弓砲でしょうね。いずれにせよこんなとこで停車していては的になります。森をかき分けながら進みましょう。』
「そうだな。陣形はくれぐれも崩さぬように着いてきてください。」
『了解です。』
さらに10分後…
森を突き進むと段々大きな発砲音が聞こえてきた。
「あれは…。」
何となく察してかき分けて進むと、1kmくらい前方にふた周りほど大きい戦車のような物と、回りにキャンプしている歩兵や停車中の敵戦車が見えた。
「よし、行くか。」
そう言い、皆で進もうとしたその時、中心で固まっていた巨大戦車が急発進した。
『バレています!しかもあの巨体であの速度…?!』
ティアラが驚くのも無理はない。なんせ始動10秒程で加速して軽戦車のような動きで砲弾回避機動に入ったのだから。
『背後につかれる前に撃破しなければ…。』
その時、俺は気づいていなかった。グライダーが自車両の真上からレーダーを照らして砲弾を誘導していた事を。そして誰よりもいつも俺を心配そうに見守っていた優希がそれに気づいていたことを。
『にいちゃっ…危ないっ!』
無線越しに優希の断末魔のような叫び声が聞こえた次の瞬間、俺は体が、いや車体が横に吹っ飛ばされる感覚を覚えた。次に来るのは酔いによる吐き気。視界が回転している。サスペンションだろうか。何かが折れる音も聞こえた。全身を叩きつけられるような痛み。しばらくすると視界も止まり、酔いも収まった。車体が止まったようだった。止まった直後、1つの発砲音と爆発音が外から聞こえた。
恐る恐る車外へ顔を出す。俺の74式は逆さまになって転がっていたようだ。ゆっくり外へ出て周りを眺めると…
優希の61式がエンジンや燃料タンクから火を噴いて焦げていた。
「っ…。」
少し離れたとこでは例の一回り大きい車両が撃破されていて、怪我をしているらしき搭乗員がゆっくり外へ出てきていた。ソン-メイが捕獲していた。彼らは固まっている俺に気づくとニヤニヤしながらゆっくり近づき俺に言った。
「運が良かったなぁ。庇ってくれる仲間がいて。」
次の瞬間俺はとてつもない怒りを覚え、次の瞬間そいつを拳で殴り飛ばしていた。ソンメ-イが慌てて俺とそいつを引き離す。
「…優希…。なんでだよ…。」
その時、燃えていた61式からひときわ大きい爆発音が聞こえた。どうやら炎が弾薬庫に到達して、中の弾薬が爆発を起こしたようだった。
霧崎らが戦闘に勝利、同時に優希を失ってから1ヶ月が経った。結局車両の残骸は戦争が終わってから片付ける事になり優希の車両はもちろん、他車両も放置されていた。そんな中だった。たまたま通りがかった小隊が固まっている残骸の中で唯一優希の61式がエンジン音さえださずに動いているのを発見したのは。
~そこから更に1ヶ月後の万事屋霧崎店にて~
「霧崎…。」
「宮下…まだ話しかけない方が良いかもだ。あれじゃ当分立ち直らない。」
そんな事を宮下と拓斗が言っていたその時だった。店上空からバラバラと大きなプロペラ音が聞こえてきた。
「なんだなんだ…。」
拓斗が溜息を着いて外へ出る。すると彼の視界にはパラシュートで投下されたらしき巨大コンテナが着地しているのが入ってきた。
「な、な、な…なんだっ、これ…。」
「アマ〇ンの速達便かしら?」
「なわけあるかっ!」
するとコンテナが開き、中から…。
「ただいまっ!」
なんと焼け爛れて本来動かないはずの61式と幽霊になって(しかし足はあるようだ)ふわふわ浮遊している優希が出てきた。それを見たティアラは呟いた。
「…。本当に人間の想いとは何を起こすか分からないです。奇跡としか…。AIには少なくとも解析も理解も出来ないですね…。」
この後優希と静火が再開してハイテンションになるのは言うまでもない。
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