第303特殊環境作戦群
……………………
──第303特殊環境作戦群
確かに日本陸軍の部隊は訓練されていた。
8名編成で4名ずつに分かれてダンジョン内を掃討。手早いし、効率的。それから彼らはレイスによる幻覚の影響を受けていないようだった。
どういうことかと尋ねると『この熱光学迷彩は第7世代のそれであり、シジウィック発火現象による探知も避ける』とのことであった。
なるほど。シジウィック発火現象を読まれなければ、レイスも幻覚を投影できないってことかと的矢は納得する。
それと同時にどうしてそういう最新装備が前線部隊ではなく、日本陸軍のこれまで仕事していなかった連中に与えられたのだと憤る。
まあ、腹を立ててもしょうがない。
日本国防軍統合参謀本部の命令だ。従うしかない。
所詮、的矢たちは駒に過ぎないのだから。駒がプレイヤーの意志に反してはいけないのだから。駒は駒らしく、命令に従順であらねばならないのだから。
第303特殊環境作戦群は順調にダンジョンを掃討していく。
通信機材の設置も陸軍の工兵が行っている。ブラボー・セルも任務から外されたらしい。北上も腹を立てていることだろう。
羽地大佐は受け入れたのだろうか? と的矢は思う。彼は自分たちの部下の損害が少なくならば受け入れそうでもあるし、これまで危険を犯してきたのは自分たちの部下だというのにトンビに油揚げをさらわれるような行為に腹を立てているかもしれない。
実際のところ、的矢もなんで今になってと思う気持ちはあった。日本陸軍の援軍は遅すぎたし、それも共同作戦ではなく完全に作戦の主導権を奪うという屈辱的な行為だ。このようなことが許されていいのかと思う。
だが、そう駒だ。駒が文句を言ってはいけない。
何か上には考えがあるのだろうと的矢たちは思うことにした。
順調に進んでいた第303特殊環境作戦群の足が急に遅くなる。
ゾンビと出くわしたらしい。
ゾンビごとき、お神酒で祝福した退魔の銃弾があればあっさりと蹴散らせるだろうに、何を手間取っているのかと思ったら、第303特殊環境作戦群はゾンビを倒すのに必死に頭部を狙っていた。
『連中、お神酒を使ってないぞ』
『わあ。本当ですね。あれじゃあ、時間かかりますよ』
『ったく。ダンジョンが再構成されるまでには片付けてほしいが』
第303特殊環境作戦群はどうやら凝集性エネルギーフィールド分解弾しか与えられていないようで、ゾンビを倒すのに必死に頭部を狙っていた。5体程度のゾンビならば、それでいいだろうが相手は20、30体のゾンビだ。
第303特殊環境作戦群は足を進めるどころか、後退を始めた。
『代わってやろうか?』
『余計なことはするな。こちらで対処する』
『そうかい。ダンジョンが再構成されるまでには突破してくれよ』
知らないならば、わざわざお神酒について教えてやる必要もない。
それに相手は頑なに的矢たちとの共同戦線を拒否している。そんな相手をわざわざ気にしてやる必要もないだろう。
ゾンビで全滅したらジョークにもならんがなと思いつつ、的矢たちは第303特殊環境作戦群の戦いぶりを眺める。彼らは必死に戦い、何とかゾンビを押し返し、そして前進を再開した。
だが、ゾンビがいれば、また足は止まる。
78階層、79階層でかなり時間を食いつつも、なんとか第303特殊環境作戦群はエリアボスのいる80階層に到達した。
『いよいよエリアボスだが、俺たちは79階層からお手並み拝見といこう』
『ボス。支援しなくてもいいんですか?』
『連中がするなと言っているんだ。無理に押しかけるわけにもいかないだろう』
『そうですよねー』
第303特殊環境作戦群が80階層に潜っていくのをマイクロドローンで追いかける。マイクロドローンの映像は全員に共有される。
『おっと。バイオレット・リマとブラック・デルタのご出陣だぞ』
日本国防軍コード:バイオレット・リマ──グレーターリッチーである。リッチーよりもさらに強力な魔術を行使し、敵を薙ぎ払う。まともに相手すれば大損害は避けられないだろう。
日本国防軍コード:ブラック・デルタ──デュラハンだ。馬に乗った機動性の高いアンデッドで、いくら銃弾を当てても馬が止まることはない。倒すには騎手を祈りを込めた銃弾で撃ち抜くしかない。
どちらもアンデッドダンジョンのエリアボスを務めるのに相応しいがそれが2体。
第303特殊環境作戦群がこいつらを撃破できるだろうかと的矢は思う。
『交戦、交戦。機動目標を最優先で排除せよ』
『了解』
第303特殊環境作戦群は最初にデュラハンに目を付けた。そして、銃弾を浴びせかける。だが、デュラハンはまるで動じた様子がない。それもそうだ。第303特殊環境作戦群が装備しているのは、ただの凝集性エネルギーフィールド分解弾に過ぎないのだ。
いくら銃弾を浴びせたところで上位のアンデッドであるデュラハンが倒れるはずがない。ましてゾンビに苦戦した連中には無理難題だ。
『このまま弾切れか?』
『いえ。反撃に出るようですよ』
仲間内のチャットモードで的矢たちが会話する。
『反撃って、おい。ブラック・デルタがかよ』
デュラハンは槍を構えて突撃を開始する。
シジウィック発火現象を隠し完全に姿を消しているはずの第303特殊環境作戦群が捉えられ、槍による突撃を浴びて殺される。真っ赤な血が流れ、負傷した戦友を引きずって離脱しようとする兵士にデュラハンが再度突撃。
こうなるともう総崩れだ。
グレーターリッチーの攻撃も加わり、第303特殊環境作戦群は次々にやられていく。指揮官がやられ、悲鳴が響き、次々に隊員たちが失われて行く。最後のひとりは脱出を試みたが、デュラハンに串刺しにされて壊滅した。
『全滅だ』
的矢がそう宣言する。
『助けた方がよかったんじゃないですか?』
『共同作戦を拒んだのは向こうだ。自業自得だ。さて、連中が壊滅したら俺たちのターンだ。ブラック・デルタも、バイオレット・リマも、両方叩きのめすぞ。お前にかかっているからな、椎葉』
『了解』
椎葉が頷く。
『各員、突入準備。ブラック・デルタを最優先で攻撃しつつ、アルファ・ツーとアルファ・シックスはバイオレット・リマを牽制。奴に攻撃を行わせるな。トドメは椎葉が刺す。恐らくバイオレット・リマにはお神酒で祝福した退魔の弾丸も通用しない』
『了解』
真祖吸血鬼にも退魔の銃弾だけでは通用しなかった。椎葉の祈りを込めた一撃があったからこそ撃破できたのである。
『では、行くぞ』
的矢たちは80階層に降りていく。
先に全滅した第303特殊環境作戦群の死体がある。なすすべもなく全滅した連中だ。
《哀れな駒。できないことをやれと言われて投入され、その結果こうなった。彼らのような駒にはなりたくないものだね。できることならばプレイヤーの立場でありたいものだ。そう思わないかい?》
どうだろうな。プレイヤーにはプレイヤーの責任がある。これだけの損害を出して、はいそうですかで済まされるほど軍隊は甘くない。
《そういうものか》
そういうものだ。
そして、的矢たちは80階層に降り立った。
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます