呆気ない結末

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 ──呆気ない結末



 数百体ものグレーターワイバーンに、アーマードリザードマン。


 “火竜”は既に2機脱落。残る2機が懸命に戦線を支えている。


 的矢たちも殺しに殺し続け、既にキルカウントは150体にもなっている。


『撃て、撃て、撃て。ぶち殺せ。俺たちの行く手を遮らせるな』


 激しい銃火の中をグレーターワイバーンとアーマードリザードマンが押し寄せてくる。彼らは爆発にも砲声にも危機感を覚えないようであり、突撃を繰り返しては全滅する。どうかしてると思うような衝撃的な状況が続いていた。


 的矢たちは銃身が焼けただれそうになるまで撃ち続け、梱包爆薬を使い、グレネード弾を使い、手榴弾を使う。


 それでもグレーターワイバーンもアーマードリザードマンも底が見えないほど湧いてくる。まるで地獄の蓋が開いたような有様だ。


 とにかく火力を叩き込み続け、道を切り開く。敵を殲滅する。


 そして、ようやく道が開けた。


 敵が殲滅されたのだ。


『“火竜”。どうだ?』


『どの兵装も弾切れ。残念だが、ここでお別れだ』


『分かった。ブラボー・セルに回収を要請する』


『頼んだ』


 的矢はブラボー・セルに連絡を取り、通信機材の設置と“火竜”の回収を要請した。


『俺たちも残弾不足だ。引き上げるぞ』


『了解』


 的矢たちも76階層の激戦にて弾薬不足に陥っていた。ミドルスパイダーボットを連れて弾薬の補充に戻る。


「的矢大尉。“火竜”が2機、撃破されたと聞いたが」


「ええ。残り2機も残弾なし。“火竜”がいてくれて助かりました。いなかったら引き返さなければならなかったでしょう」


「しかし、随分と無茶をしたものだ」


 羽地大佐はそう言う。


 2機の“火竜”の損害。2機の弾薬欠乏。


「羽地大佐。残り2機もメンテナンスが必要だそうです」


「ふうむ。悪い傾向だな。この先、化け物が増え続ける可能性もあるわけだろう。それなのに火竜が使えないというのはな……」


 兵站将校が告げるのに羽地大佐が渋い顔をする。


「ですが、再構築が行われた場合、またあの大軍勢を相手にしなければなりません。今は真っすぐ地下に向かって進むしかありません。幸い、アーマードリザードマンには熱光学迷彩が有効です。グレーターワイバーンさえ先手を取って始末できれば」


「君たちは優秀なチームだ。失うことは大きな損害だ。本当にできるんだな?」


「やって見せましょう」


「よし。君に任せる。何としてもやり遂げてくれ」


「了解」


 下流のメンテナスを待っていてはそれだけダンジョンの再構築というタイムリミットに近づく。これからさらに多くの敵と交戦した場合、弾薬不足で途中帰還することが相次ぐだろう。そうなると時間というものはより重要になってくる。


 もちろん、的矢は成果を急いで部隊に損害を出したいとは思っていない。だが、放っておけば何ヵ月もかかりかねない作戦を遂行することになるのは、兵士にとっても損耗になる。いずれにせよ、潜らなければならないのだ。


「弾薬の補充はできたか?」


「ばっちりだ、大尉。いつでも潜れるぜ」


「よろしい。潜るぞ。“火竜”の支援はなしだ。“火竜”の支援を待っていたら、何ヵ月かかるか分からん。またあの数百体もの化け物が再構築されるのは最悪だ。よって、俺たちだけで攻略する」


「そいつはイカしてるぜ」


 ひゅーっと信濃が口笛を吹く。


「大丈夫なんですか、ボス。敵の数がまた馬鹿みたいに多かったら大変ですよ」


「小規模な交戦で数を減らしつつ、前進する方向で行く。グレーターワイバーンを真っ先に排除しこちらの動きを知られることなく進む。アーマードリザードマンたちには熱光学迷彩は有効だからな」


「ステルスですか?」


「それに近い」


 本来熱光学迷彩を装備した歩兵を捕捉するのは恐ろしく困難なのだ。シジウィック発火現象を捉えるというダンジョン特有の探知方法によってこれまで無力化されてきたが、本来の効果を発揮できれば一方的に相手を攻撃できる。


 それによって勝利は得られるだろう。


 とにかくシジウィック発火現象で探知してくるグレーターワイバーンを真っ先に潰し、センサーを失ったアーマードリザードマンとソーサラーリザードマンを叩く。それだけのシンプルな作戦だ。


「準備ができたら、潜るぞ。準備はいいか?」


「オーケーです」


「じゃあ、出発だ」


 爆薬と銃弾をたんまりと持って的矢たちは77階層に潜る。


 しかし、広がっていたのは予想外の光景だった。


『何もいないな』


『振動探知センサーにも音響探知センサーにも反応なし。連中、寝てるのかね』


『化け物は眠らない』


『そうだったな』


 信濃が先頭に立って進むがまるで反応はない。


『クリア』


『クリア』


 そして、77階層では一度の交戦もなく、フロアが制圧された。


『とんだ拍子抜けだな』


『下の連中が上に上がってきてたのか?』


『そういうことは今まで前例がないんじゃなかったか?』


『全くないわけではないだろう』


 事実、77階層は化け物の一匹も存在しなかった。


 的矢たちはブラボー・セルを呼び通信機材を設置させ、78階層に潜る。


 78階層にはちゃんと化け物がいた。


 とはいっても数は非常に少ない。グレーターワイバーンが2体とアーマードリザードマンが5体。一方的な射撃で撃破された。


 呆気ない戦況であった。


 準備万端で突入して見たら、中身はまるで空のダンジョン。


 もしかすると、奇襲されるかもしれないと用心深く前進するが、敵はいない。本当に少数の敵がいただけで、それも一方的に撃破されてしまったのだ。


 79階層もグレーターワイバーンが6体とアーマードリザードマンが6体、ソーサラーリザードマンが1体という小ぢんまりとした規模の的だった。


 グレーターワイバーンを真っ先に潰し、それからシャーリーがソーサラーリザードマンを叩き、そして全員で残るアーマードリザードマンを叩いた。一方的な戦闘。虐殺と言ってすらよかった。いや、虐殺と言うには数が少なすぎる。


『どうします? このまま80階層に突入しますか?』


『ふうむ。これまでの連中が勢ぞろいでお出迎えという意可能性も無きにしも非ずだからな。困ったところだ。だが、弾薬の余裕はあるし、どの道火竜は使えない。80階層に突っ込むしかないだろう』


 的矢も流石に不安になり始めていた。


 敵が多すぎても心配だが、少なすぎることでも心配になるとは、と的矢は思う。


 80階層に手に負えない何かがいるのか。いるとすればどう対応するべきか。


《こればかりは行ってみないと分からないね。ダンジョンは恐らく76階層に到達するまで君たちの動きを見て、あの強襲重装殻というものについて知った。そして、対応するためにリソースのほとんどをつぎ込んだ。だが、突破された。そういう状況なら君ならば、どうするかな?》


 有用な予備戦力を動員して機動的に対処する。


《そう、それ。リソースを後方に溜め込むことにした。次に来る化け物は恐らくは面倒な相手だよ。警戒した方がいいね》


 全くだな。


 ダンジョンが自分たちの動きに合わせるなど考えたこともなかったが、それならば説明はつく。少なくとも敵は“火竜”を無力化した。


『行くぞ。80階層のエリアボスとご対面だ』


 そして、的矢たちは80階層に潜る。


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