高火力、重装甲

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 ──高火力、重装甲



 4体の“火竜”が熱光学迷彩状態で前進する。


 “火竜”はタフな兵器だ。


 それと同時にスマートな武器でもある。


 ひとりの操縦者によって“火竜”4体が同時に動かせるのだ。


 仮想小隊システムというもので最大で36体の“火竜”をひとりの操縦者が動かせる。もちろん、自律型致死性兵器システム規制条約というAIに殺人を犯させてはならないという条約に引っかからないようになっている。AIはあくまでアシストに留まり、引き金を引く選択をするのは人間だ。


 今は3体が仮想小隊システムで動いていた。1体の“火竜”の操縦士が他の“火竜”を機動させる。そのような状況でその後方から的矢たちは進んでいた。


『これなら全部“火竜”で倒してもらえるんじゃないですか?』


『馬鹿言え、アルファ・フォー。戦闘を行うのは俺たちだ。あくまで火竜はバックアップ。今は盾にして進んでいるが、戦闘になったら“火竜”は退避だ。大事な装甲戦力だからな。不必要な危険にさらしたくない』


 また“火竜”を破損して、装甲戦力がいざという時にいないのはよくない。


『ええー……。せっかく楽ができると思ったんですがー……』


『俺たちに楽という言葉はない。常に俺たちは崖っぷちを進むんだ』


 特殊作戦部隊のオペレーターというものはそういうものである。


 楽をするな。常に自分に最大の負荷がかかる道を行け。そうすれば自ずと勝利が手に入る。特殊作戦部隊のオペレーターたちは危険な道を進む。それが敵に予想されにくいから、それが敵の不意を突けるから、それが勝利に繋がっているから。


 ダンジョンでも楽はしない。“火竜”という装甲戦力があろうとも、それに頼り切ったことはしない。あくまでバックアップ。“火竜”の武器弾薬も無尽蔵にあるわけではないのだ。それに以前レッドドラゴンからの攻撃で破壊されたように、“火竜”は無敵の存在というわけでもない。


 限られたリソースを効率よく行使することが求められる。


 そう考えるならば、下手に火竜を緒戦から投入するよりも、モンスターハウスのような場所で活躍してもらう方がありがたい。グレーターワイバーンの10体程度、アーマードリザードマンの20体程度ならば、的矢たちで相手できるのだから。


『振動探知センサーに反応あり。AIの分析によればグレーターワイバーン8体とアーマードリザードマン15体だ』


『了解。全員遮蔽物を確保しろ。前方には“火竜”を展開。アーマードリザードマンの投げ槍からの遮蔽物にする』


 そしてゆっくりと的矢たちが進む。


『目標マーク』


『割り振った。射撃開始』


 それぞれが遮蔽物からグレーターワイバーンを攻撃する。50口径の徹甲榴弾を前にしては、8体のグレーターワイバーンもなすすべなく撃墜された。


 だが、グレーターワイバーンの動きでアーマードリザードマンが侵入者に気づく。


 アーマードリザードマンの中にはソーサラーリザードマンが混じっており、それが魔術攻撃を展開する。魔術攻撃は“火竜”の壁をすり抜け、的矢たちを狙う。


『アルファ・シックス。ソーサラーリザードマンを排除しろ。他はアーマードリザードマンの相手だ。撃ちまくれ』


 火竜を遮蔽物にアーマードリザードマンに向けて射撃を実施する。


 シャーリーが無言でソーサラーリザードマンを撃ち抜き、魔術攻撃が止まってしまえばこちらのものだ。アーマードリザードマンの投げ槍による攻撃は機関砲の射撃にも耐えられる“火竜”の正面装甲を抜けず、弾かれるだけ。


 そんな“火竜”を遮蔽物にして的矢たちはアーマードリザードマンに集中砲火を浴びせかける。瞬く間にアーマードリザードマンは撃破され、灰と魔石だけを残す。


『前進再開。この調子で進むぞ』


 アーマードリザードマンの攻撃には“火竜”を、グレーターワイバーンの攻撃には他の遮蔽物を。巧みに切り替えながら、的矢たちは前進していく。


 そして、続いてグレーターワイバーン18体とアーマードリザードマン36体というちょっとしたモンスターハウスに遭遇した。


『ボス。流石に“火竜”の手を借りますよね?』


『畜生。そうだな。借りざるを得まい。“火竜”、援護を要請する』


 椎葉が尋ねるのに、的矢がそう命じる。


『了解。派手にかますぞ』


『こちらも援護する。グレーターワイバーンを最優先で排除してくれ。あんたの脅威になるのはそれだ』


 軍隊での基本。狙いを定めるのは一番脅威となる目標から。


『グレーターワイバーンが気づいた』


『射撃開始、射撃開始』


 目標は既にマークされており、グレーターワイバーンへの集中砲火が始まる。


 一部のグレーターワイバーンが火炎放射で応戦するが、正面装甲で難なくそれを受け流し、“火竜”はグレーターワイバーンを撃墜していく。


『グレーターワイバーン、全て排除』


『続いてアーマードリザードマン。目標を割り振った。撃て、撃て』


 アーマードリザードマンの群れに集中砲火が浴びせられる。


 ソーサラーリザードマンは先ほどのようにシャーリーが排除し、他は“火竜”と的矢たちが排除してしまった。


『“火竜”。残弾はどうだ?』


『流石にまだ余裕はある。行けるぞ』


『よし。このまま前進だ』


 それから“火竜”は活躍した。


 20ミリ機関砲と40ミリ自動擲弾銃から放たれる火力は絶大なものであり、一瞬で敵を撃滅する。モンスターハウス染みた大部隊は75階層のあちこちにおり、予想よりも的矢たちは“火竜”に頼ることになってしまった。


『畜生。“火竜”を持ち出した途端、こんな歓迎会とはな。嫌がらせか?』


『いやーな予感がしますね』


 的矢と椎葉がそう言葉を交わす。


『予感ってのは学習の結果だ。俺も嫌な予感がする』


 信濃を先頭に進む続け、次は76階層に降りる。


『ああ。畜生』


『どうした、アルファ・スリー』


『グレーターワイバーンとアーマードリザードマンが300体以上検出された。ここから先はフロアそのものがモンスターハウスだ』


 嫌な予感は的中した。


『“火竜”。行けるか?』


『なんとかしてご覧に入れましょう』


『頼むぞ』


 流石に“火竜”を当てにせざるを得ない状況だ。


 これまでのように火竜を盾にするだけでは突破不可能だ。


『敵を殲滅し、前進経路を切り開く。前進』


 “火竜”を前方に的矢たちが前進していく。


 溢れんばかりの化け物の巣窟。


『目標マーク』


『射撃開始』


 信濃がグレーターワイバーンからアーマードリザードマン、ソーサラーリザードマンをマークすると、一斉に射撃が始まった。


 “火竜”は70ミリロケット弾まで使用している。対戦車榴弾が炸裂し、アーマードリザードマンの群れが薙ぎ倒される。


 空の目標であるグレーターワイバーンに向けても射撃が続く。


 だが、ブレスをかなり浴び、4番機が脱落。続いて3番機も兵装が使用不能になる。


『“火竜”! まだ大丈夫か!』


『大丈夫だ。突破して見せる!』


 高火力、重装甲。そして、75階層での戦闘は本格化した。


……………………

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