鱗の部屋
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──鱗の部屋
74階層の初戦を的矢たちは乗り切った。
グレーターワイバーン、アーマードリザードマン。ともに撃破。
これで一段落かと思えばそうでもない。
『振動探知センサーが大規模な物体の移動を検出している。恐らくはモンスターハウスだ。どうする、アルファ・リーダー?』
『畜生。面倒なことをしてくれる』
モンスターハウス。それもアーマードリザードマンの。
当然ソーサラーリザードマンもいるだろう。だが、鱗の壁に守られていて、攻撃するのは難しいはずだ。前のようにシャーリーが狙撃して排除し、前進するというのはまず不可能だろう。
となると、ありったけの爆薬を放り込んで混乱を呼び込み、攪乱した末に突入ということになるだろう。スタングレネードも、梱包爆薬も、グレネード弾も初手でぶちかます。それで敵のソーサラーリザードマンが排除できれば御の字。
それからは手当たり次第に大虐殺だ。
ワイバーンと違ってリザードマンはブレスは吹かない。今のところ、投げ槍だけが最大の脅威だが、相手にはこちらの姿が見えていない。
なんとかやれるなと的矢は思った。
『突っ込むぞ。爆薬を全員叩き込めるだけ叩き込め』
『また空軍の爆弾を使った方がよくないか?』
『ここは70階層だぞ。爆弾を運ぶだけでダンジョンが再構成されかねない。強行突破だ。準備しろ。叩き込んで、突破する』
『了解』
全員がそれぞれ爆薬を手にする。
『放り込め』
梱包爆薬、サーモバリックグレネード弾、手榴弾、強襲制圧用スタングレネードが一斉に投擲される。それは轟音を響き渡らせ、中にいるリザードマンたちに大混乱を呼び込むことに成功した。
『突入、突入。ソーサラーリザードマンを探して片付けろ』
爆薬で開けた通路に的矢たちが突入する。
大虐殺。
手当たり次第にアーマードリザードマンが撃ち抜けれ、肉片を飛び散らせる。徹甲榴弾の効果は抜群で、ターゲットを片っ端から始末する。銃声こそしないが、銃弾の飛翔音は響き、アーマードリザードマンたちの叫び声も響く。
『殺せ。殺せ。皆殺しにしろ』
些かハイになりながらも、的矢は冷静にソーサラーリザードマンを探していた。
奴がどこかに潜んでいる可能性は高いと思っていたのだ。
そして、見つけた。
ソーサラーリザードマンを。
ソーサラーリザードマンは杖を的矢たちの方向に向け、爆発を引き起こす。
だが、見えてない目標に攻撃を命中させるのは難しい。
的矢はソーサラーリザードマンの頭を射抜く。ソーサラーリザードマンの頭部がはじけ飛び、ぐらりと体が崩れ落ち、灰に変わっていく。
『ソーサラーリザードマンの排除を確認』
『了解』
『もう1体いる可能性がある。探せ』
的矢はアーマードリザードマンに銃弾を叩き込みながら、不自然な動きがないかを探った。アーマードリザードマンが不自然に集まっているところがあれば、そこにソーサラーリザードマンが隠れている可能性がある。
銃弾を嵐が吹き荒れる中、的矢は目標を見つけた。
ソーサラーリザードマン。アーマードリザードマンに守られている。
『アルファ・ツー。援護しろ』
『了解』
陸奥の射撃が加わり、アーマードリザードマンの鱗と肉の盾が剥がれ、ソーサラーリザードマンが露になる。そこに的矢が銃弾を叩き込む。ソーサラーリザードマンの頭が吹っ飛び、首から上がなくなったソーサラーリザードマンが倒れる。
『さあ、残敵掃討だ』
アーマードリザードマンはおおよその位置に向けて槍を投げるが当たりはしない。的矢たちは銃弾をとにかく叩き込み続け、アーマードリザードマンは数を減らしていく。
アーマードリザードマンたちも自分たちの不利を悟ったのか、逃亡を試みるが、的矢たちは逃がさず皆殺しにした。
だが、ここで厄介な乱入者が現れる。
グレーターワイバーンだ。
グレーターワイバーンが4体。的矢たちに向けて火炎放射を放つ。
的矢たちは遮蔽物に隠れ、グレーターワイバーンを狙って射撃する。だが、同時にグレーターワイバーンの動きで的矢たちの位置を知ったアーマードリザードマンたちが逆襲だとばかりに襲い掛かってくる。
『どうする、アルファ・リーダー?』
『皆殺しだ。化け物どもを1体も生かしておくな』
まずはグレーターワイバーンの排除。的矢たちは火力をグレーターワイバーンに集中する。肉片が飛び散り、血が飛び散り、グレーターワイバーンの体がはじけ飛ぶ。1体、2体、3体、4体。全て撃破。
続いて押し寄せてくるアーマードリザードマン。
投げ槍を遮蔽物で回避しながら、銃弾を浴びせる。
戦闘は30分ほど続いただろう。
そして、全てのアーマードリザードマンが全滅した。
戦闘報告では97体のアーマードリザードマンと4体のグレーターワイバーンを撃破したとある。モンスターハウスは貫かれたのだ。
『突破できただろう?』
『あんた、イカれてるぜ』
『言ってろ。俺は病気かもしれないが、戦場では俺の方がまともだ』
心底疲れた様子で信濃が言うのに、的矢はそう返した。
やはりストレスは感じなかった。爽快感だけがある。化け物がくたばって、綺麗さっぱりいなくなったということへの爽快感だけがある。
実に満たされた気分だ。
《君は確かに病気かもしれない。だけど、だけどだよ。時には君のような人間が求められることもある。今回のときのような場合にね。君は取り乱さず、冷静で、戦況に適切に対応した。凄いじゃないか》
別に褒められたくてやっているわけじゃない。俺自身が化け物を、化け物どもを殺したいからやっているだけだ。化け物どもは1体残らずくたばるべきだ。例外はない。
《そういうところが必要とされている。どんな状況でも君は化け物を殺すことに熱心だ。それはいいことだよ。化け物は殺さなければならない。化け物は死ぬべきだ。でも、ボクのことはちょっとは受け入れていくれたかな?》
ああ。お前は例外だ、ラル。地獄まで一緒にいくんだろう。
《うん。楽しみにしてるよ》
楽しみしておけ。
そこで的矢は全員を見る。
『次に進むぞ。残弾はどうだ?』
『不足しています。具申しますが、ここで一度戻った方がいいかと』
『そうか。とりあえずこの階層をクリアにしたら、引き上げよう』
それからモンスターハウスの外にいたグレーターワイバーン8体とアーマードリザードマン10体を撃破し、的矢たちは74階層を一掃した。ブラボー・セルに通信機材の設置を依頼し、的矢たちは上層に戻る。
「的矢大尉。頼もしい助っ人が来たぞ」
「“火竜”ですか?」
「ああ。4体だ。今度はスカーレット・デルタに破壊されないように扱ってくれ」
「努力します」
畜生。モンスターハウスに突っ込む前にこいつがあったら楽だったんだけどなと的矢は思うのであった。
まあ、援軍が来ただけでも御の字と思っておかなければ。こういうものが全くない環境でも的矢たちは戦ってきたのだ。なければ、ないで知恵を火力を絞るだけだ。火力は戦場において何ものにも勝る。
「全員、弾薬を補充したら、飯を食って来ていいぞ。今回は楽に進みそうだ」
「了解」
部下を休養させることも上官の役目。
的矢は部下たちに休養を命じ、自分は地下の構造を映したものをしっかりと見ておく。どんな軍隊でも士官が休むのは最後だ。
準備をと整えたら、再び地下に進む。
今回は4体の“火竜”が一緒だ。
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