魔術との戦い

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 ──魔術との戦い



 ソーサラーリザードマンの頭にシャーリーの放った徹甲榴弾がめり込む。


 ソーサラーリザードマンの頭が爆散し、アーマードリザードマンたちの間に混乱が広がる。何が起きたのか、彼らには理解する余裕すらなかった。


 次から次に銃弾が浴びせられ、アーマードリザードマンたちが蜂の巣される。


 振動で的矢たちに気づいたアーマードリザードマンが突入してくるが、時すでに遅し。数を減らしていたアーマードリザードマンたちは一掃された。


『クリア』


『クリア』


 そして、信濃と的矢がフロアの制圧を宣言する。


『一先ずは片付いたな。先手必勝とは言ったものだ』


 的矢の言葉にシャーリーは静かに頷いている。


『この調子で進むぞ。アルファ・スリー、行け』


『あいよ』


 信濃が先頭に立って73階層を掃討する。アーマードリザードマン10体、グレーターワイバーン12体と追加で交戦することになったが、なんとかこれを排除。


 アーマードリザードマンとグレーターワイバーンが同時に来るのは不味いということはこの時点でよく分かっていた。アーマードリザードマンはグレーターワイバーンの火炎放射なと気にせず進んでくる。連中は熱に強いのだ。


 グレーターワイバーンの火炎放射が吹き荒れる中、アーマードリザードマンと交戦することになったら地獄である。吹き荒れる炎を中を突き進んでくるアーマードリザードマンとグレーターワイバーンを同時に相手するなどぞっとさせられる。


 今は幸いそのような事態は起きていないが、起きた場合について考えておくのが、指揮官としての役割である。的矢は地形を念入りに観察し、いざという場合について考えを巡らせる。


『あの、ボス。グレーターワイバーンと戦っているときにアーマードリザードマンが乱入しそうになることあるじゃないですか。あのときにソーサラーリザードマンが混じってたら不味くないですか?』


『不味いな。非常にまずい。だが、それをどうにかするのが俺たちの仕事だ』


『うへえですよー』


 椎葉が露骨に嫌そうな声を出す。


 正確には声は出していない。口の中の動きからAIが自動補正した音声だ。


 今の音声のAI補正技術は素晴らしく、口の中の不明瞭な動きだけで、喜怒哀楽を表現してくれる。それもその人物の音声で。世の中にもはや不可能なことなどないかのように思われていた。


 それがこの有様だ。人類は突如として出没したダンジョンを未だに解明できていない。どうやって地下施設にダンジョンが“寄生”したのか、分かることはなかった。ただ、恐らくはこの熊本ダンジョンの最下層にその原因があるのではないかと思われるだけだった。つまりはいるかもしれないダンジョンマスターに。


 ダンジョンマスターについては妙な憶測が飛び交っていた。いるだの、いないだの、悪魔の使いだの、天使の使いだの。どれもスピリチュアル過ぎて、的矢は最初はあまり信じる気にならなかったが、ダンジョン内ではスピリチュアルなことも地下になると知って、ダンジョンマスターは存在するかもしれないと思うようになった。


 だが、確証性はあまり高くはなかった。正直、知的な存在ならばもっと狙うべきターゲットがあるだろうにもかかわらず、ペンタゴンダンジョンは地下20階層で、池袋ダンジョンは地下50階層なのだ。どう考えても優先度が違う。


 もしダンジョンマスターが存在し、それが知的な生命体であったならば、もっと徹底的に地球の政府の政経中枢を潰しにかかるだろう。そういう意味ではダンジョンマスターが存在するという可能性は高くはなかった。


『機材の設置完了』


『了解』


 ブラボー・セルからの連絡に的矢が頷く。


『アルファ・スリー。前進を継続するぞ。次は74階層だ。景気よくぶち抜け』


『あいあい』


 信濃のだらしない声もAIで補正されて響き、的矢たちはダンジョンを潜っていく。


 74階層。


『畜生。いきなりグレーターワイバーンの歓迎だ』


『気を付けろ。アーマードリザードマンもいる。グレーターワイバーンのせいでこっちに気づいている。クソッタレ。ソーサラーリザードマンも混じってやがる』


『どうする、アルファ・リーダー?』


『どうもこうもあるか。押し通るだけだ』


 的矢が状況を整理する。


『アルファ・ツーとアルファ・フォーはアーマードリザードマンを叩け。残りはグレーターワイバーンを最優先で排除。アルファ・ツーとアルファ・フォーはソーサラーリザードマンを最優先で狙え。魔術師戦の鉄則だ。何かを起こされる前に仕留めろ』


『了解』


 陸奥が遮蔽物に隠れて重機関銃を設置し、椎葉がその援護に就く。的矢たちも遮蔽物に隠れ、外にいるワイバーンたちを狙う。


『目標マーク』


『割り振った。射撃開始』


 一斉に発砲が始まる。


 グレーターワイバーン18体に向けて的矢たちが銃弾を叩き込み、アーマードリザードマン14体を相手に陸奥たちが弾幕を展開する。


 的矢たちはグレーターワイバーンの火炎放射の中で確実にグレーターワイバーンを撃墜していき、陸奥たちはアーマードリザードマンの中からソーサラーリザードマンを探し出して蜂の巣にする。


 ソーサラーリザードマンはアーマードリザードマンの社会性を示すものなのか、通常は群れに中に1体しかいない。稀に2体いることもあるが、それ以上は増えることはない。故に1体のソーサラーリザードマンが何かをする前に撃破できたならば、後は消化試合だ。アーマードリザードマンに50口径のライフル弾をたらふくお見舞いしてやればいい。


 陸奥たちは既にソーサラーリザードマン1体を撃破し、他にソーサラーリザードマンがいないことを確認して、残ったアーマードリザードマンに銃弾を叩き込む


 空薬莢が金属音を立てて転がり、銃弾が放たれ続ける。


 アーマードリザードマンの残党は手に持った武器を放り投げ、投げ槍の代わりにする。地面に金属音を立てて突き刺さったそれは、アーマードリザードマンの危険を示すのに十分であった。


 接近を阻止するべく、陸奥が弾幕を張る。


 グレーターワイバーンとの戦いも死闘を極めていた。


 グレーターワイバーンが火炎放射を浴びせる中を、安全を確保しながら遮蔽物から身を乗り出して射撃する。ちょっと間違えば丸焦げだ。それでも的矢たちは必死にグレーターワイバーンを撃墜していっていた。


 幸いにして、当たれば落ちる。50口径の徹甲榴弾の威力は抜群だ。


『撃て、撃て、撃て。化け物を殺せ。醜い化け物を殺せ』


 この時、的矢は一切のストレスを感じていなかった。


 愉快な戦場。化け物を殺し放題。これでストレスがたまるはずはないと彼は思う。


 確かに自分は病気なのかもしれない。だが、世の中の役に立つ病気だ。ダンジョンという名の肥溜めを掃除するという役割を果たせる病気だ。決して、絶対に社会に害のある病気ではない。


 このまま景気よく殺し続けよう。化け物を殺し続けよう。そう的矢は思う。


 殺して、殺して、殺す。


 化け物どもを、ダンジョンカルトどもを、殺し続ける。


 それこそが世界のためだと思いながら。


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