鱗を貫く弾丸

……………………


 ──鱗を貫く弾丸



 群れるアーマードリザードマン。


 その映像は戦術脳神経ネットワークで共有された。


『敵のアーマードリザードマン視認。数6体。目標マーク』


『割り振った。攻撃開始』


 アーマードリザードマンは7.62ミリで倒すならば眼球や鱗の薄い腹部を狙わなければならない相手だった。だが、今回は50口径の徹甲榴弾だ。これがいい方向に左右してくれることを祈るしかない。


 全員が一斉に割り振られた目標に向けて射撃する。


 50口径のライフル弾の力は絶大だった。アーマードリザードマンが瞬く間に倒れる。腹部がはじけ飛び、頭がはじけ飛び、そして倒れたアーマードリザードマンが灰に変わっていく。次々に撃破されて灰に変わっていく。


『ちょろいな』


『油断するな。ここは71階層。そろそろ化け物どもも気合を入れてくるだろう。ワイバーンとアーマードリザードマンの両方に同時に襲撃されたら地獄だぞ』


『想像したくねえな』


 信濃はそう言いながら前進していく。


 71階層ではワイバーンは出没しなかった。アーマードリザードマンが“体験版”とでもいうようにいるだけだった。的矢たちはアーマードリザードマンを一掃し、ブラボー・セルを呼び出し、通信機材を設置させる。


『攻略できそうか?』


 機材の設置に来た北上が尋ねる。


『しなければならんだろう』


 そこでとんとんと北上が喉を叩いた。


『秘匿通話モード。内緒話か?』


『陸軍が特殊作戦部隊を動員している話は聞いたか?』


『聞いた。だが、ここに投入されると決まったわけじゃないだろう』


『どうも陸軍の“迷宮潰し”部隊らしい。前々からここに投入される予定だったとか。まあ、噂の範囲内だがな。だが、陸軍はかなり強引にこのダンジョンを情報軍に分捕られたらしい。報復の可能性はあるぞ』


『後ろから弾は飛んでこないと聞いていたんだがな』


『世の中何が起こるか分からないからな』


 北上はそう言って肩をすくめる。


『何かあったら、連絡を頼む。上層にいるお前たちなら気づくだろう』


『ああ。もちろんだ。じゃあ』


『秘匿通話、終了』


 的矢は北上と別れて、陸奥たちの方に戻る。


『通信機材にトラブルが?』


『ああ。ちょっとな。だが、もう問題ない。進むぞ』


『了解』


 そして、的矢たちは72階層に潜る。


『振動探知、音響探知両センサーが作動。アーマードリザードマンとワイバーンと分析。泣きたくなるほど嬉しい歓迎だぜ』


『進め、アルファ・スリー。化け物はぶち殺す。それが俺たちの仕事だ』


『了解』


 的矢たちは前進していく。


『外にワイバーン。数12体。目標マーク』


『確認した。割り振った。射撃開始』


 ブレスを避けるために遮蔽物に隠れ、射撃準備を整える。


『撃て、撃て』


 そして、的矢たちが発砲する。


 グレーターワイバーンが撃墜され、地面に向かって落下していく。以前は7.62ミリ弾や通常弾で相手していたから苦戦したが、今回は最初から50口径の徹甲榴弾を使用している。苦戦する要素は何もない。


『ああ。畜生。振動接近中。アーマードリザードマンどもだ』


『歓迎してやれ』


 グレーターワイバーンを片づけた的矢たちが次の狙いをアーマードリザードマンに定める。マイクロドローンが飛行し、その数を把握する。数は9体。全員が何かしらの武器で武装している。


『飛び道具を持った奴は?』


『あいつらの持ってるはどれも投げつけられたら飛道具になるぞ』


『そうだな。連中に投げる暇を与えるな。撃て』


 空薬莢が転がる音だけがし、アーマードリザードマンが何もできずに倒れていく。いや、あるものは持っている武器を投げた。それは的矢たちの前方に突き刺さり、そのアーマードリザードマンの腕力を思い知らせた。


『あいつらと白兵戦だけはしたくないな』


『こっちには銃があるんだ。連中の白兵戦に付き合ってやる必要などない』


 そして、72階層の掃討戦が始まる。


 グロテスクな死体のオブジェはダンジョンカルトが作ったのか、アーマードリザードマンが作ったのか分からない。アーマードリザードマンも自分が狩った獲物を誇るために死体のオブジェを作ることがあると報告されている。


 的矢たちは慎重に進み、アーマードリザードマンたちを先手必勝で撃破する。


 アーマードリザードマンの目標探知のための手段は、今のところ振動、音、目視だけが確認されている。それから随伴するワイバーンによる探知。ダンジョンでは化け物どもが結託して襲い掛かってくるのである。


『殺せ。殺せ。化け物どもを殺せ。皆殺しにしろ』


『ワイバーン──いや、グレーターワイバーンが接近中』


『叩き落とせ。地面の味を教えやれ』


 的矢は狂ったように生き生きと化け物たちを殺す。殺して、殺して、殺す。


『アルファ・リーダー。今ストレスを感じてるか?』


『いいや。至って絶好調だ』


『だろうな。あんた本当に病気だぜ』


 信濃がそう言ってけらけらと笑う。


『笑ってないで化け物をもっと殺せ。殺し続けろ』


 72階層では18体のワイバーンと28体のアーマードリザードマンと交戦。これら全てを殺害し、72階層を制圧した。


 徹甲榴弾のグレーターワイバーンとアーマードリザードマンへの殺傷力は抜群だった。装甲車の中の兵員を殺傷する目的で作られた弾薬は見事にその役割を果たした。グレーターワイバーンとアーマードリザードマンの鱗という走行を破って、中に臓器を滅茶苦茶にする。目標はほぼ確実に即死する。


『前進だ。前進を続けろ。進み続けろ』


 通信機材の設置が完了し、的矢たちは地下に潜る。


 次は73階層。


 また鱗が貫かれ、グレーターワイバーンとアーマードリザードマンが殺傷される。的矢はまるでこここそが彼の生きる場所だと言うように生き生きとしていた。彼はグレーターワイバーンとアーマードリザードマンを軽快に殺していく。


 だが、ここに来て厄介な敵に遭遇した。


『ありゃソーサラーリザードマンだぜ』


『畜生。飛道具持ちか。面倒だな』


 ソーサラーリザードマン。その名の通り魔術を使って来るリザードマンだ。アーマードリザードマンと同等の装甲とリッチーと同じ程度の事象改変現象を駆使してくる。こいつが厄介なのは的矢たちは以前のダンジョンで知っていた。


 大抵の場合、ソーサラーリザードマンを守るためにアーマードリザードマンが群がる。ソーサラーリザードマンは1体では行動せず、群れの中で行動する。そうであるが故に、連中をぶち殺すのは難しいのだ。


『私がやる』


『アルファ・シックス。何か算段があるのか?』


『敵が気づく前に目標をぶち抜く。頭を一発。任せて。射撃は得意だから』


『分かった。任せる。目標をマークしろ』


 的矢がシャーリーの申し出を受け入れ、信濃に指示する。


『目標マーク』


『割り振った。アルファ・シックスが目標排除後に突入』


『了解』


 そして、シャーリーは静かに銃を構えた。


……………………

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