蹴り破ってやれ
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──蹴り破ってやれ
45階層。
モンスターハウスの入り口にマイクロドローンを飛ばす。
『よし。羽付きトカゲどもは大人しくしてる。ローダーを突っ込ませるぞ』
ローダーが随伴モードから遠隔操作モードに入り、金属音を立てながら前進していく。この金属音でワイバーンどもが出て来ないといいのだが、と的矢は思う。
《やっぱり花火はゆっくり見たいからね。せかせかしながらってのは風情がない》
ああ。派手な花火をゆっくりと見学だ。
《ボクも楽しみにしているよ》
同族がくたばるのにか?
《化け物が化け物を殺し食う、そう共食いするのは散々見て来ただろう? ボクたちに仲間意識なんてものはないんだよ》
そうだったな。お前たちは本当にクソ化け物だよ。
《そうさ。ボクたちは化け物さ。最高にクソッタレのね》
そう言ってラルヴァンダードはにやにやと笑った。
『よし。いいぞ。侵入ルートに問題なし。羽付きトカゲどもがようやく気づいて、近づいてきている。一気に突っ込ませるぞ』
『うーん。なんだか可哀そうじゃないですか? 健気に爆弾を運んで来たのに化け物と一緒に吹き飛ばされるなんて。爆弾だけ放り投げられません?』
『無理だ。暴発の危険がある』
『あんなに可愛いのに……』
椎葉はそう呟く。
『可愛い……』
『シャーリーさんもそう思います?』
『思う。健気で、足がもそもそしてて可愛い』
『ですよね、ですよね』
ローダーのどこに可愛さを見出しているんだ、こいつらはと思いつつも、的矢はミュールボットが自分についてくるのが楽しくて駆けまわっていた椎葉を思い出した。もう立派な大人のはずなのだが、精神が子供だ。
最近の若い連中はと思いつつ、的矢は準備を整えた。
『突撃』
いきなり突っ込んできた未知の存在に驚いてワイバーンたちが飛びのく。そのままマイクロドローンで中心部まで爆弾が運ばれたのを確認すると、的矢は爆弾に取り付けていた遠隔起爆装置のスイッチを押した。
電子が励起状態──エネルギーを高めた状態──のまま合成された爆薬が爆発する際のエネルギーはまさに革命的だった。励起炭素で合成されたベンゼン環──亀の甲状の炭素と水素の輪──にニトロ基が付いた化学物質は起爆信号と同時にそのエネルギーを全て解放した。
轟音が鳴り響く。爆風がモンスターハウスの入り口から火炎放射のように吹き出し、党全体がぐらぐらと揺れる。だが、やはり倒壊などはしなかった。
『や、やりましたか?』
『待ってろ、アルファ・ツー。マイクロドローンで確認する』
皆がそわそわする中、的矢がマイクロドローンを再びモンスターハウスの入り口に飛ばす。そして、その映像を全員で共有する。
モンスターハウスにもう化け物は存在しなかった。
ダンジョンの構造は部分的に破壊されたが通行不能ではなく、あれだけいたワイバーンは残らず灰になってしまっている。
『クリアだ』
『ローダー君のおかげですね』
『空軍のおかげだろう』
的矢と椎葉はそう言葉を交わすと、モンスターハウスに降りて行った。
もう残っているものは何もない。纏めて完全に消し飛んでいる。
『このまま46階層に潜るぞ。歩みを止めるな』
再び信濃が先頭に立ち、マイクロドローンを先行させつつ、着実に進んでいく。
だが、ここで厄介なことが起きる。
先ほどの塔を揺さぶるほどの爆発を受けて、ワイバーンたちが軒並み臨戦態勢に入ったばかりか、45階層に向けて飛行してきたのである。
『クソッタレ。撃て、撃て。羽付きトカゲをぶち殺せ』
『分かってるよ。撃たなきゃ殺される』
信濃が言い返し、全員がそれぞれの目標に火力を振りまく。
窓の外からの火炎放射。塔の内部を進んでくるワイバーン。全てに対応しなければならない。的矢たちは銃身が焼けこげんばかりに射撃するが、新しい合金で出来た銃身は熱で歪むことなく、銃弾をワイバーンに叩き込む。
『前方のワイバーンに火力を集中。アルファ・ツー、重機関銃も使え』
『了解』
陸奥の重機関銃も投入され、一気に戦場がやかましくなる。これまでのワイバーンの雄叫びや断末魔の叫びに加えて、重機関銃のけたたましい銃声が加わる。ワイバーンがが薙ぎ倒されては次から次に押し寄せる。
『グレネード弾』
混乱を引き起こすべく的矢が前方から迫るワイバーンの集団に向けて空中炸裂型グレネード弾を叩き込んだ。狙いは成功。ワイバーンたちが押し合いへし合いの大混乱に陥り、重機関銃によって薙ぎ倒される。
『ブレスに注意しろ。外にもうようよしてるからな』
火炎放射が窓からひっきりなしに飛び込む。おかげで真夏のような暑さだ。
『前方集団、片付いた』
『クリアです』
信濃と陸奥がそう報告する。
『じゃあ、今度は窓の外だな。ブレスに気を付けて攻撃を叩き込め』
火炎放射が続けざまに打ちこまれてくるのに、的矢が全員の攻撃目標をマイクロドローンでマークし、戦術脳神経ネットワーク上の分析AIによって自動的に割り振る。
『繰り返すがブレスには気を付けろ。ここで火葬になったら死体は持ち帰らんぞ』
『ひでえや』
軽口を叩きながら、隙を見て窓から身を乗り出し、ワイバーンに向けて弾丸を叩き込む。ワイバーンが攻撃態勢にあったものが爆発を起こし他のワイバーンを混乱させる。その隙にさらに攻撃を重ねる。
だが、焦りすぎてはならない。
火炎放射はまだまだ飛んでくる。
完全なワイバーン対人間の撃ち合いだ。撃って、撃たれて、撃って。
『気がどうにかなりそうだ』
『しっかしろ、
ネイトが音を上げるのに的矢がそう返す。
撃ち合いの勝敗は、確実にアルファ・セルの方に傾きつつあった。
相手を一撃で葬れる火炎放射も当たらなければ意味がない。そして、ワイバーンたちはホバリングした状態で攻撃しており、絶好の的だ。的矢たちはからとにかく銃弾を叩き込めるし、徹甲榴弾は命中すれば甚大な被害を及ぼす。
的矢たちは確実に1体ずつ仕留め、ついにワイバーンたちは撤退を始めた。
『どうにか凌いだな』
『頭がどうにかなりそうです……』
椎葉がふらふらした様子でそう言う。
『しっかりしろ。46階層に降りるぞ。各員、残弾は?』
『まだまだいけます』
『よろしい。潜り続けるぞ』
的矢たちは46階層に降りていく。
46階層は比較的化け物は少ないと思われていた。さっきあれだけ殺したのだ。少なくなってしかるべきだ。それともダンジョンはまだまだ恐ろしい化け物を隠し持っているというのだろうか?
分からない。ダンジョンは未だ人類にとって未知の存在だ。分かっているのはいくつかのルールと化け物の殺し方。だが、ここにきてダンジョンは新しいワイバーンを繰り出して来た。まだまだ人類の知らない化け物もいるのだろう。
それとも他の国のダンジョンには出没しているが、発表されていないだけか。あり得なくもない。アメリカとて同盟国に化け物の情報を提供し、同時に受け取っているが、彼らが本当に全ての化け物の情報を開示しているとは限らないのだ。
真相は謎。恐らく明らかにされることはない。
日本情報軍がこのダンジョンでやろうとしていることも。
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