群れている
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──群れている
43階層。
賢く、タフなミュールボットのおかげで未だに弾薬は尽きていない。
『徹甲榴弾が欲しいところだな』
『次で弾が切れるでしょう。そうしたら補給しに戻りましょう。まだ時間はあります』
『そうだな』
既に最初の41階層突入から14時間が経過しようとしている。食事は不味い戦闘糧食III型で済ませ、的矢たちは忌々しいワイバーンを殺し続けて、43階層を制覇しようとしていた。既に43階層に侵入してから15体のワイバーンを撃破。
だが、振動探知センサー、音響探知センサーの両センサーはまだまだここにワイバーンが存在することを知らせている。
『目標視認。クソ。群れだ。前方のホール状の空間にワイバーンが20体以上』
『やるしかないな、目標を全てマークしろ』
『やれるのか?』
『他に手段があるなら聞くぞ、曹長。魔法のランプに願い事でもして、ワイバーンを消してもらうか?』
『そりゃ無理そうだ。目標マーク』
『割り振った。射撃準備。遮蔽物を各自確保しろ』
元々は何かの施設だっただろう場所がローマのコロシアムのような地形に変わっており、そのせいで遮蔽物が生まれている。火炎放射の熱に耐えられるか分からないが、何かのタンクだった場所に信濃と的矢は隠れ、コロシアム中を窺う。
ワイバーンがワイバーンを食らっている。
ダンジョンの化け物は食事が必要なのかどうか分からないと学者たちは言っている。彼らは植物系ならば死体を苗床にするし、吸血鬼たちは血を吸う。だが、奴らはまた再構成されるのだ。無尽蔵に再構成され続ける生物が食事を必要とするか?
『射撃開始』
一斉に銃弾が放たれる。
この50口径ライフル弾を使用する自動小銃は単射と連射ができる。そして、羽地たちの肉体は連射に耐えられる。的矢と椎葉は第4世代の軍用人工筋肉で、信濃と陸奥は第5世代の軍用人工筋肉で機械化されているのだ。
第1世代の人工筋肉はごくごく普通の筋肉だった。民間用の義肢や一部の強化外骨格(エグゾ)に使われていたぐらいだ。
第2世代になると遺伝子組み換え技術の発達により、より強固な人工筋肉となる。軍用義肢や強化外骨格(エグゾ)に本格的に使われ始める。
第3世代の人工筋肉は遺伝子組み換えの発達とナノテクノロジーの発達により、衝撃にも強いものとなった。やはり、軍用義肢や強化外骨格(エグゾ)、そして強襲重装殻──アーマードスーツにも採用され始める。これが長年の人工筋肉のイメージとなった。
第4世代の人工筋肉は従来の海洋哺乳類の
第5世代の人工筋肉はより強固になった第4世代だ。決定的な違いはエネルギー効率がよくなり、より持続的に、より強力になった点だ。ここまで来ると筋肉というものではなく、完全に肉の形をした機械となる。この世代のものはまだ開発されたばかりで、普及はしていない。
よって、今の的矢たちは並外れた筋力を発揮できる。それこそ50口径のライフル弾をバイポッドなどで固定せずとも正確に連射できるほどに。
『グレネード弾』
火炎放射が来る寸前に的矢が空中炸裂型グレネード弾を発射する。
突如として自分たちの傍で炸裂したグレネード弾にワイバーンたちがパニックを起こす。火炎放射が味方に向かって飛び、ワイバーンがワイバーンを焼いてしまう。
『撃て、撃て。殺せ。ぶち殺せ。撃ち殺せ。とにかく殺せ。さもなければ殺されるぞ』
『どうかしてるぜ』
『どうかしてるのはこの世界だ』
ワイバーンたちが飛翔を始め、上空から炎放ってくる。
『わ、わわわわ』
椎葉が遮蔽物に身を隠しながら、射撃を続ける。
ラッキーショット。ワイバーンの眼球を貫き、ライフル弾がその頑丈な頭蓋骨の中で暴れまわり、ワイバーンが即死して地面に落下する。
だが、他はそうはいかない。
既に数を10体前後にまで減らしたワイバーンたちだったが、飛び回り始めてからが厄介だった。上空からの攻撃は塹壕を掘って神に祈るか、逃げ回るしかない。そして、ダンジョン内で神に祈るのは自由だったが、塹壕は掘れない。
結局のところ、複数のワイバーンに追い回されながら射撃を継続することになる。
『撃て、撃て、撃て。殺せ』
的矢は1体ずつワイバーンを仕留め、仕留める度に喜びが湧き出るのを感じた。
愉快だ。実に愉快だ。これほど愉快なこともない。
羽付きトカゲどもが必死に自分たちを追い回している中で致死的な一撃を叩き込んでやるのだ。連中が血肉を撒き散らして地上に落下していくのは愉快でたまらない。
《化け物を殺すのはそんなに楽しいかい?》
当り前だ。化け物はいくら殺しても心が痛まない。
《ホクを殺した時もそうだったよね》
だが、お前は死んでない。
《そう、死んでない。ダンジョンボスとしてのボクは死んだけど、悪魔としてのボクは生きている。そして、君と話している》
いつか殺してやる。
《地獄まで来てくれたら気が変わるかもしれないよ》
くたばれ、クソ化け物。
『残り5体だ。畳め、畳め』
『畜生。逃げながら撃つのって大変なんだぜ』
ワイバーンの飛行速度は決して早くはないが、逃げながら狙うとなると難しい。
とにかく弾幕を展開して当たるのを期待するしかないのが現状だ。
『1体やりました。残り4体』
『マークした目標に火力を集中しろ』
1体に対して6名で銃弾を浴びせる。
撃破。
ワイバーン側も余裕がなくなってきたのか飛び回る速度が早くなり、攻撃の精度が落ちていく。そうなると的矢たちも落ち着いて目標を狙うことができるようになる。
1体、また1体と撃破され、最後の1体が万歳突撃を仕掛けてくる。炎を口に蠢かせ、的矢に向けて突撃してくる。
『くたばれ』
的矢はワイバーンの頭に銃弾を叩き込んだ。
開いた口に突入した銃弾はワイバーンの脳に達し、同時に蠢いていた炎が爆発する。周囲にワイバーンだったものが散らばり、血の雨が降る。
『片付いたな』
『酷い格好だぜ、大尉』
『どうせ補給しに戻るんだ。構わん。それに勝利のためなら肥溜めにだろうと飛び込むのが軍人という奴だ』
そして、降り注いだワイバーンの血肉はさらさらと灰になっていった。
『クリーニング要らずで助かりますねえ』
『そうだな。では、補給のために一時基地に帰還する。この調子ならいけるだろう。さっきのがモンスターハウスだっただろうしな』
その後、43階層が完全にクリアになったのを確認してから、的矢たちは40階層に向けて戻っていった。
ワイバーンが昇ってくる様子はなく、40階層までの道のりは楽なものだった。問題があると言えば、銃弾の損耗が激しいのに加えて所持できる弾薬の量が少ないので、恐らくは何度も補給に戻らなければならないと言うことだ。
それ以外は万事順調。このまま50階層に到達できる。
その時はそう思われていた。
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