ワイバーンスレイヤー
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──ワイバーンスレイヤー
影森と仙台大将が話している間にも的矢たちは作戦を遂行中だった。
彼らは新しく大口径ライフル弾を使用する自動小銃を受け取り、それを持ってダンジョンの41階層に対してリターンマッチを挑んだ。
皆、次こそはとやる気になっている。
『アルファ・スリー。マイクロドローンに外を探らせろ』
『あいよ』
マイクロドローンが窓から外に向けて飛行し、様子を探る。
ワイバーンが5、6体。城塞の外を飛行している。
『目標マーク』
『振り分けた。射撃準備』
AIが自動的に各員の位置から理想的な目標を振り分け、それと同時に全員が遮蔽物に隠れる。これで射撃準備は完了だ。
『射撃開始』
サプレッサー──この50口径のライフル弾を使用する化け物みたいな自動小銃にもあるのだ──が抑制した微かな銃声が響く。
ワイバーンの腹部や喉を狙った攻撃は効果を発揮し、50口径のライフル弾──その上、強装弾──を食らって、ワイバーンが撃墜されて行く。
ワイバーンは今度は火炎放放射を浴びせる暇もなく、全てが葬られた。
『クリア』
『クリア』
信濃と的矢が周囲を確認してそう報告する。
『いいぞ。これならいける。このまま進むぞ』
新しい玩具はとても有効な武器だった。
そして、的矢たちは塔に巻き付くように螺旋状になった階段を降りていく。
全てが歪み切っている。本来の桜町ジオフロントでは41階層から50階層は居住区、汚水処理、自家発電設備のある場所だった。それがパイプは歪み、ヘビのようにのたうち、錆びた鉄の色をした壁に覆われ、少し霧がかかったような景色になっている。
霧だ。毒ガスではなく、スモッグでもなく、ただの霧だ。
『前方にワイバーン2体。外に12体』
『クソッタレのクソトカゲめ。建物内にいやがる。瞬時に片付けるぞ。建物内には碌な遮蔽物がない。目標をマークしろ』
『目標マーク』
『振り分けた。前の2体に対して速やかに攻撃。外のはそれからだ』
最優先目標として曲がり角を曲がった先にいるワイバーン2体がマークされる。
『いくぞ。射撃開始』
的矢たちは瞬時に飛び出し、銃弾を浴びせる。
2体のワイバーンは一瞬でミンチにされ、外のワイバーンたちが逸れに気づき火炎放射を浴びせる。フレンドリーファイアという概念はないらしく、仲間がいようがいまいが、お構いなしに炎を浴びせてくる。
『畜生。他は外だけだな?』
『待ってくれ。もう2体、近づてきてる。建物内だ』
『忌々しい化け物どもめ』
火炎放射が何度も叩き込まれる。
『前方から迫っている2体をマークしろ。最優先でそっちから片付ける。それまでは耐えろ。クソが詰まったような状況だが、どうにかなる。外の連中がこの壁を破壊するまでは、な。そうならないことをそれぞれの神に祈れ』
『了解。目標マーク』
『叩き込むぞ』
前方からワイバーンが前足と一体化した翼を広げて突撃してくるのに、的矢たちが銃弾で歓迎する。ワイバーンの顔面が崩れ、腹部に穴が開き、内臓をライフル弾が描き乱しながら体内に留まる。
流石のワイバーンもこれには耐えられず、大きな魔石を残して灰になっていく。
その間にも火炎放射は続いており、壁はもはや接触不可能な温度になっていた。
『外の連中をぶちのめすぞ。各自、タイミングを見て撃て』
的矢はマイクロドローンの映像を見ながら、ワイバーンが火炎放射を終えたタイミングで窓の外に向けて射撃する。弾丸はワイバーンを貫き、抉り、撃墜する。次のワイバーンを狙う前に一度退避する。すぐさま火炎放射が叩き込まれた。
『ブレスには厳重に注意しろ。火葬場に行くまでもなく丸焼きにされるからな』
『ひー。こんなの死に覚えゲーより酷いですよ』
『アルファ・フォー。文句を言うな。鉛玉をお見舞いして黙らせろ』
再び的矢が窓の外の目標を射抜く。ワイバーンが腹部に数発食らって、落下していった。そして、また火炎放射。
化け物どもめ。ざまあみろ。所詮お前たちは空飛ぶトカゲに過ぎないんだよ。くたばりやがれ。死ね。殺してやる。
《君の闘志に火が付いたようだね》
今は黙ってろ。忙しいんだ。
《だろうね。同情するよ。けど、君たちはワイバーンの上位種すら殺せる武器を手にした。科学の進歩というのは恐ろしくなるよ。ボクたち化け物を人間は軽々と上回ってくる。どんなものよりも恐ろしいのは人間の適応力だろうね》
うるさい。忙しいんだ。
《やれやれ。精神的な余裕のなさは指揮に影響を及ぼすよ?》
ああ。だろうな。だから、話しかけるな。
《もうじきワイバーンが突っ込んでくるよ。彼らは壁を君たちが縦にしていることを理解しているから。顔を突っ込んで中にブレスだ。だが、それが最大の攻撃のチャンスでもある。1体に対して集中的に攻撃できるからね》
本当か?
《言っただろう。君には死んでほしくないんだ。君のことが好きだから》
そうかい。じゃあ、試してやるよ。
『全員、ワイバーンの突撃に警戒しろ。首を突っ込んできたら銃弾を浴びせてやれ』
『了解。死にそうだぜ』
火炎放射の熱のせいで建物内はサウナのような暑さだ。
『──来た。射撃準備』
マイクロドローンがワイバーンが突っ込んでくるのを捉える。
『撃て』
ワイバーンが窓から首を突っ込んだと同時に銃弾の嵐に歓迎された。タングステンの銃弾がワイバーンの顔面をミンチのように滅茶苦茶にし、ワイバーンは力なくうなだれると、地面に向けて落下していく。
《どうだい? 当たりだっただろう?》
ああ。どういう風の吹き回しだ?
《君に生き延びてほしいだけさ。ボクは君のことが好きなんだよ? 嘘はついてない。ボクは本当に君のことが好きだ。大好きなんだ。君はボクのためならば、地獄にだって来てくれるんだろう?》
ああ。悪夢がそれで終わるならな。
《悪夢ほど酷くはないさ》
どうだかな。
『クリア』
『クリア』
ワイバーンが一掃されたことを的矢と信濃が確認する。
『これで先に進めるぞ。まあ、またワイバーンだがな』
『楽しい狩りとサウナの時間だな』
『冗談が言えると言うことはまだ余裕そうだな、アルファ・スリー。きびきび進め』
『了解』
マイクロドローンを先頭に的矢たちは進んでいく。
しかし、ラルヴァンダードは何を考えて助言などしたのだろうか。本当に的矢に死なれたら困るというわけだろうか。あいつの舌を信頼する気にはなれないが、有効な助言もあるということか。
元々ダンジョンに君臨していた化け物の中の化け物だ。それが信頼できてダンジョンのことならお任せ、というわけならば助言はありがたいのだが。
《ボクのことは是非とも信頼してくれたまえよ。ボクはいつだって君の力になる準備があるよ。君が死んでしまうと悲しいからね》
嘘吐きめ。何か企んでいるのはお見通しだ。
《傷つくな。そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか。君の一番の理解者はボクなんだからね? サイコパスで、サディストで、ウォーモンガーな君の唯一の理解者》
くたばれ。
的矢はそうラルヴァンダードに吐き捨てて次の階層へと螺旋階段を降りていく。
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