レッド・ヴィクター
……………………
──レッド・ヴィクター
鮮血と鋼鉄の嵐が吹き荒れた。
ダンジョンカルトたちは薙ぎ払われ、吸血鬼は椎葉によって撃ち抜かれた。
あとは群がるゾンビどもを屠ってしまうだけ。
お神酒で祝福された退魔の銃弾が突き抜け、ゾンビたちが撃ち抜かれて行く。
『殺せ。化け物どもを殺せ。皆殺しにしろ』
的矢はゾンビどもに銃弾を叩き込んでいく。
『クリア』
『クリア』
そして、全てが片付いた。
『化け物どもは他にはいないな?』
『ここまで派手にやって寄ってこないということはいないんでしょう。化け物どもで待ち伏せの概念があるのはごく一部の化け物だけです』
『よろしい。では、いよいよ30階層だ』
30階層に向かう階段に向かう。
階段の位置が階層ごとに異なっている時点で、ダンジョンの寄生による影響が出ている。一気に地下までは降りれない。必ず1階層ずつ掃討することが求められるのだ。
『30階層ってレッド・ヴィクターですよね……』
『そうだ。厄介な相手になる』
椎葉が呟くと、的矢がそう言う。
『確実に潰しに行くぞ。レッド・ヴィクターの他に吸血鬼、ダンジョンカルトの存在が予想される。慎重かつ大胆に、だ。銃弾を連中に確実に叩き込め』
『了解』
そして、的矢たちは30階層に降りる。
ラルヴァンダードは黙ってついてきていた。何かを言うような様子はない。
30階層は大きな運動場があるはずだったか、一変していた。
劇場のような客席があり、広いステージがあるというそういう光景に変わっていた。
うっすらと照明が灯っている。的矢たちは慎重にまずはマイクロドローンを偵察に送り込む。マイクロドローンの映像が表示され、客席にはダンジョンカルトがステージには吸血鬼がいることが確認できた。
『レッド・ヴィクターがいない』
『隠れてやがるな。しかし、奇襲で仕留められないのは面倒だ』
ステージ上では生存者と思しき人物が吸血鬼たちに貪られている。
生存者は檻のような構造物に閉じ込められ、そこから連れ出されては食い殺されている様子だった。時間が経てば経つほど、生存者は殺されて行くことになる。
迅速な対応が求められていた。
『レッド・ヴィクターの姿が確認できないのは問題だが、あまり時間もない。最初に奇襲を仕掛けて、吸血鬼とダンジョンカルトを排除する。それからレッド・ヴィクターが出現し次第、鉛玉を叩き込め』
『了解』
的矢たちは密かに配置に付き、陸奥がM906重機関銃を据え付ける。
『アルファ・スリー。俺と同時にスタングレネードと手榴弾をお見舞いするぞ。準備はいいか?』
『オーケー』
『よろしい。3カウント』
3、2、1。
『スタングレネード』
強襲制圧用スタングレネードが投擲され、爆発的な閃光と轟音を響かせる。
『手榴弾』
続いて手榴弾が投擲され、ダンジョンカルトたちを引き裂く。
『撃て、撃て、撃て。皆殺しにしろ』
陸奥の操る重機関銃が重々しい銃声を響かせて銃弾を相手に叩き込み、それによってダンジョンカルトたちが薙ぎ払われる。
『こんにゃろー!』
椎葉も的確に吸血鬼を仕留めていく。
『レッド・ヴィクターの出現に警戒。撃ち続けながら、相互の背中を守れ』
陸奥の背中は信濃が守り、椎葉の背中は的矢が守る。ネイトの背中はシャーリーが。
銃弾をばら撒きながらも、未だに姿を見せない敵に警戒する。
『レッド・ヴィクター出現、レッド・ヴィクター出現!』
『来たか』
椎葉が報告するのに的矢が彼女の視界を共有する。
レッド・ヴィクター──真祖吸血鬼はまるで獣のような動きをしながら、霧状の形態から形のある形態へと変化して現れつつあった。吸血鬼に抱く、ハンサムで、高貴な雰囲気などない。髪の毛は長く伸ばし、鋭い爪と牙、そして恐ろしい肉食獣のような形相。まさにそれは鬼であった。
『火力をレッド・ヴィクターに集中! 叩きのめせ!』
『了解!』
銃火器が全て真祖吸血鬼に向けられ、銃弾の嵐が吹き荒れる。
だが、真祖吸血鬼はそのようなことにはまるで構わず、霧となって攻撃を躱し、近くにいたダンジョンカルトのメンバーに牙を突き立てる。
すると、そのダンジョンカルトのメンバーが吸血鬼になる。
『クソッタレ、クソッタレ、クソッタレ。あのクソ野郎。長期戦になればなるほど面倒なことになるぞ。火力を集中しろ。特にアルファ・フォー。椎葉はレッド・ヴィクターだけを狙え。他はいい』
『了解、ボス』
椎葉の射撃が真祖吸血鬼を襲う。彼女の射撃だけには真祖吸血鬼は反応を示した。
『アルファ・ツー、アルファ・スリー。アルファ・フォーを援護しろ。アルファ・フォーに敵を近づけるな』
『了解、アルファ・リーダー』
重機関銃と自動小銃が火を噴き、グレネード弾や手榴弾が放り込まれる。
『畜生。本当に長期戦は不利だな』
ダンジョンカルトの生き残りがまた吸血鬼に変えられたのを見て的矢が毒づく。
『撃ち続けろ。弾はある。ここで使い切ってしまって構わない。とにかく撃て』
的矢たちの放った銃弾が吸血鬼の心臓を貫き、吸血鬼が倒れ、灰になる。
椎葉はひたすら真祖吸血鬼を狙った射撃を繰り返していた。だが、真祖吸血鬼は不愉快そうな反応を示すものの、霧となって銃弾を躱し、そして瞬時に移動して椎葉に迫る。
『アルファ・フォーに近づけさせるな。撃ちまくれ』
真祖吸血鬼と言えども鬼は鬼だ。お神酒で祝福された退魔の銃弾は有効なはずである。効果が薄いのは信仰心が薄い故かと的矢は思う。
『てやー!』
椎葉の放った銃弾が真祖吸血鬼の眼球を抉るダメージを与えた。
だが、その傷も瞬く間に塞がっていく。
『効いてないです、ボス!』
『構うな。撃ち続けろ』
『りょ、了解』
椎葉がとにかく真祖吸血鬼に銃弾を叩き込み続ける。
だが、霧化して躱されるか、命中しても効果がないかのどちらかだ。
《君の虎の子も大したことはないね》
黙ってろ。
《ことアンデッドとの戦闘において重要なのは信仰心だ。彼女はそれをまだ発揮できていない。お神酒だけで不十分。神職の血筋というだけでは不十分。だとすると、信仰心を示すために必要なのはなんだろうね?》
巫女さんの格好でもしろってのか?
《神職に必要なことは何だと思う? 信仰心。当然だね。そして、その信仰心を示すのに必要な物は何だと思う? 昔からいうじゃないか。信仰心を示すには祈りの言葉を唱えろって。そう、儀式が必要なのさ》
ここで玉串でも持ってこいってのか。馬鹿馬鹿しい。
《いいや。言ったじゃないか。祈りの言葉が重要だって》
ああ。なるほどな。
的矢はようやく混乱した戦況の中でなすべきことを理解した。
『アルファ・フォー。何でもいいから祝詞を唱えて、銃弾を叩き込め。なるべく、気合を入れて唱えろ。お前の祝詞にこの戦いの勝敗がかかっていると言ってもおかしくないんだ。徹底的にやれ』
『本気ですか、ボス? 私、巫女のバイトしただけですよ?』
『じゃあ、祝詞の一個ぐらい知ってるだろ。やれ』
『了解』
そして、マガジンが好感され、お神酒を滴らせたそれが装填され、初弾がチャンバーに装填される。
『やります』
椎葉の放つ空気が変わった。
……………………
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