桜町臨時拠点

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 ──桜町臨時拠点



 北熊本駐屯地からヘリで桜町臨時拠点に移動する。


 桜町ジオフロントというなの商業、住宅、観光のコンプレックス複合体がダンジョンに寄生されて以来、日本陸軍はその出入口に兵站などを行うための拠点を作っていた。それが桜町臨時拠点である。


 ヘリポートも増設されており、的矢たちを乗せたヘリはヘリポートに着陸する。


「ここが日本最後のダンジョンですか」


「ああ。らしいな。他に未確認のダンジョンがなければ、の話だが」


 ダンジョンの存在については日本情報軍隷下空間情報軍団が戦略級超大型ドローンと偵察衛星を使って徹底的に調べており、またダンジョンを発見した際には国に報告するように義務付けられてる。違反すれば戦時下に設置することの定められた特別臨時法廷よって──ダンジョンの出現は戦時と同等と見做された──最大で10年の禁固刑だ。


 過去に違反した人間は容赦なく刑務所にぶち込まれたし、包丁でダンジョンを探索しようとした中学生グループはあの世に行っている。


 そういう点からしてここが最後のダンジョンだという日本情報軍、いや日本国防四軍の判断は正しいのだろう。


「ボス、ボス。結構立派な街じゃないですか」


「そうか? 駅からも遠ければ、まともな店があるわけでもない。絵にかいたような都市計画の失敗例みたいな街だぞ」


 椎葉が言うのに、的矢は肩をすくめた。


「全員、指揮所に集まれとのことだ」


「了解」


 的矢たちはAR拡張現実の道案内に従い、同時にARで階級と所属、姓名を閲覧資格のある桜町臨時拠点を防衛する日本陸軍の野戦憲兵に表示しながら、的矢たちは桜町臨時拠点の指揮所に入った。


「的矢陸翔情報軍大尉、出頭しました」


「ご苦労」


 指揮所には先に到着していた羽地大佐と日本陸軍中将がいた。名前は今村一和とある。日本情報軍と違って日本陸軍はオープンらしい。


「さて、“グリムリーパー作戦”は予定通りに行われる。君たちにはまず15階層までの民間人の有無を確認してもらう手はずになっている。分かっているね?」


「ええ。今回は市街地にもかかわらず、随分と派手にやるようで」


「状況が状況だからね」


 “グリムリーパー作戦”第一、第二段階。ダンジョンを10階層まで大穴を開けて吹き飛ばす。これが日本陸海空情報軍の日本国防四軍が合同で作戦を行わなければならない理由だった。作戦には陸軍の砲兵はもとより、巡航ミサイルを搭載した海軍の艦艇、高性能地中貫通弾──バンカーバスターMK.IIIを搭載した空軍の爆撃機も参加するのだ。


「市ヶ谷のブリーフィングでは聞いていませんでしたが、当然ながら10階層のエリアボスは排除してあるのですよね?」


「まだだ」


「何ですって? 陸軍はこの2ヵ月の間、何をしていたんです?」


 的矢は見るからに不機嫌になる。


「我々陸軍は民間人の救出が最優先課題だった。桜町ジオフロントは商業、住宅、観光の複合施設だ。中に閉じ込められている住民は7000名以上だ。それを救出していたのだ。我々が守るべきは日本国民なのだ」


 それは大変ご立派なことで。だが、エリアボスを片づけてからでも救出活動は行えただろうと的矢は思う。


「では、15階層までの捜索でエリアボスもついでに片付けてこい、と」


「そういうことになるな。幸い、情報はある。敵はミノタウロスだ。諸君らにとってはクソみたいに──失礼、退屈するほど殺してきた敵だろう?」


 羽地大佐がそう言う。


「ただ、ちょっとばかり予定が変更になった」


「と言いますと?」


「アメリカが参加すると言い出してきた」


 羽地のその言葉にその場にいた全員が渋い顔をする。


「アメリカが? ここが第三世界なら分かりますが、ここは日本ですよ。もう日米安保がごり押しされる時代じゃない。それなのにアメリカが?」


「まあ、彼らとしても気づいているのだろう。この熊本ダンジョンが世界で最初に生まれたダンジョンであることに」


 確かにアメリカ航空宇宙軍は世界中の地上情報をリアルタイムで常に把握している。熊本ダンジョンが世界で最初に生まれたダンジョンであることに日本情報軍が気づいたならば、アメリカも同じように気づくだろう。


「素人ではないでしょうね?」


「アメリカ情報軍インディゴ特殊作戦群だ。ペンタゴンダンジョンを攻略した人間たちだと聞いている。少なくとも我々が受け入れを認めた2名は」


 2名か。それならお荷物にはならないだろう。


「その2名も15階層までの探索に参加を?」


「いいや。“グリムリーパー作戦”の第一段階は救助任務だ。彼らは参加しない。我々だけでやる。問題はないだろう?」


「むしろよそ者がいない方がやりやすいですね」


「結構。アメリカは今でも我々の友邦だ。利益を完全に分かち合うとまでは言わないが、情報共有ぐらいはしておいて損はないだろう」


 国家に真の友人はいないともいうが、と羽地は付け加える。


「それでは作戦準備に入ってくれ。この桜町臨時拠点の兵站施設は一時撤退予定だが、まだ15階層まで探索が行われるまでは存在する。好きな武器を使ってくれ。君たち好みの武器である7.62x51ミリNATO弾の強装弾を使用可能な銃もあるぞ」


「それは実にいいことで」


 それでいて弾がタングステンを使った徹甲弾なら言うことなし。


 化け物というのは実に強固なものがいたりするもので、通常の5.56x45ミリNATO弾では豆鉄砲になる可能性がある。そのため的矢たちの第777統合特殊任務部隊特別情報アルファ・セルでは7.62ミリ弾を使うのが当り前のようになっていた。


「それでは“グリムリーパー作戦”第一段階を始めよう。ブラボー・セルは既に待機している。いつでも君たちの救援や応援に応えられる体制を整えてある」


「了解」


 第777統合特殊任務部隊特別情報小隊はアルファ・セルとブラボー・セルからなる。アルファ・セルがダンジョンを潰すのだが、ブラボー・セルもダンジョン内の兵站線の確保から、アルファ・セルのサポートまで幅広い任務を行っている。


「聞いたな。全員、装備を行いダンジョン出入口にて待機」


「了解」


 的矢が命じ、陸奥たちが頷く。


「それでは失礼します、大佐、中将閣下」


「健闘を祈る」


 それから的矢たちは武器と熱光学迷彩、戦闘糧食などの装備を纏める。


 武器は7.62ミリ強装弾の30連マガジンを使用可能なドイツ製自動小銃。ARで残弾数と照準が行える優れものだ。日本陸軍が装備しいてる国産小銃にも同じ機能があるが、日本陸軍は完全に自動小銃の銃弾を5.56ミリで纏めてしまっている。


 確かに人間を殺すならば5.56ミリで事足りる。マークスマン・ライフルのために7,62ミリ弾は残っているが、ダンジョン内で狙撃が必要だということは滅多なことではない。


「全員、準備はできたか? ハンカチとティッシュは持ったな?」


「万事オーケーですよ、大尉」


 そう答える陸奥は12.7x99ミリNATO弾を使用するM906重機関銃を背負っている。基礎設計はM2重機関銃とほぼ変わりないが、材料技術の進歩と弾薬の進歩によって更新された重機関銃である。


「結構。敵はミノタウロスで10階層までは大した敵はいない。キメラもアンデッドもなし。いつも通りの鉛玉で殺せる化け物どもだけだ。さて、諸君。軽快に殺していこう。化け物に鉛玉をくれてやれ」


「了解」


 そして、的矢たちは熊本ダンジョンに足を踏み入れた。


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