第63話 アナタの抱く『愛』

アナタは鏡に問い掛ける。


私のしていることは『正しいこと』なの?


鏡は何も応えない。


だから代わりに、ボクが応えてあげる。


もちろんだよ。


ボクってばホント優しいよね。


けれどアナタは、何やら浮かない様子。


仕方ないなぁ。話だけでも聞いてあげる。


感謝してよね。


……なになに?『私はあの人のことが好きだから、ちゃんとした方法でお付き合いしたい?』









































































……は?何言ってんの?

























……何それ、まるでボクがあの人のことを好きじゃないみたいな言い方するじゃん。


ふざけんなよ売女ばいたが。


阿婆擦あばずれの癖して調子乗ってんなよゴミが。




























……おっといけない。今の言葉遣いは、流石にはしたないよね☆


ボクとしたことが、ちょっと取り乱しちゃった。


こんなんじゃ、彼にも嫌われちゃうね。


……で、何だっけ?ちゃんとした方法で彼と付き合いたいだっけ?


……ちゃんとした方法って何?








……告白する?


ふーん。






























































……で?


えっ?嘘、何?それだけ?それで終わり?


嘘だよね?冗談だよね?流石に監禁はするよね?告白だけして終わりなんて、そんなことないよね?





……え?それだけ?もし断られたら、それで諦める?


……は?いやいや、笑えないよ。






彼が好きだからこそ、縛りたくない?自由でいて欲しい?


何それ、意味が分からないんだけど。


どうして諦められるの?アナタのあの人への愛はその程度なの?





……違う?


いや、違わないよ。


アナタはただ逃げてるだけ。


諦めずに告白し続けて、その度に振られるのが怖いんでしょ?


……結局は、自分が傷付きたくないだけなんでしょ?



…………。



……はぁ、アナタってホントバカだよね。


そんな真面目にしなくても良いじゃん。


監禁してしまえば、それで彼はもうアナタの物。


誰の邪魔も入らない、そんな、夢のようなお話。


いつかの『聖域サンクチュアリ』での暮らしの再現だよ?


呆れるほど長い年月の間、アナタが望んでやまなかった生活が、あと少しで手に入る。


それを、アナタ自身がみすみす手放すと言うの?







……じゃあ、もういいよ。


アナタって思っていたよりも腰抜けだったんだね。


いざ、己の願いが叶いそうになった途端に、怖くなって、尻すぼみしちゃうような腑抜けだったんだ。



…………。



……『アナタ白雲心音』のを信じた、ボクが間違いだったよ。





それじゃ、おやすみ。


























黒い世界が口端を裂き、白いアナタを呑み込んでいく。





























何をするの?って、そんなの決まってるじゃん。


……ボクが、アナタの望みを叶えてあげる。


弱虫なアナタの代わりに、ボクが彼を掌握するの。


上手くするからちゃんと見ててよ。

















ボクの中の良い子ちゃんが、やめてくれと喚き出す。


……今更何を言ったって、もう遅いよ。


ボクは迷わない。


怖気付いたりもしない。


『……あの人は、誰にも渡さない。』


ボクの決意は、ひび割れたアナタの心臓を深く突き刺し、アナタは苦悶の表情を浮かべる。


自身の無力を呪い、嘆くような。


泣き言のように、やめてくれ。と何度もボクに懇願する。


それは、見る者が見れば、可哀想な少女の悲哀にも見えたかもしれない。











































……ねぇ、










































けれど、ボクが一言そう零すと……


アナタはピタリと動きを止めた。


まるで、先程までの泣き言が、全部嘘だったかのように。


……アナタ白雲心音ボク白雲心音で、ボク白雲心音アナタ白雲心音なんだから。


どれだけアナタが表面を取り繕おうとも、アナタの心根はお見通し。


口には出さなくても、行動では見せなくても、心のどこかでは、結局それを願っている。


だからアナタはボク悪い子を消さないんでしょ?




…………。




……アナタは卑怯だね。


望みはするくせに、最後は人任せ。


誰かに代わりをしてもらわなきゃ、誰かを愛することも出来ないの?




…………。




アナタは問いには答えない。










だから、ボクは鏡に問い掛ける。


ボクのしていることは『正しいこと』でしょ?


そこに映る『ボクアナタ』は嗤い、こう答えた。

























『……もちろんだよ。』











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