第50話 伏線

「おいおい、2日続きで遅刻かよ。テスト前に随分と余裕じゃねぇか。」


「……またお前か小林。お前の顔はそろそろ見飽きたんだが。」


「そりゃだってお前、俺が絡んでやらなきゃ1人で寂しいやつだろ?」


「そう思うなら、俺に友達でも紹介してくれ。」


「……いや、残念ながらお前と仲良くなれそうなやつは俺の周りにはいないな。」


「あっそ。」


現在、ウザ絡みに来た小林を適当にあしらい、俺は教室の自席でお弁当を食べていた。


お弁当というのは、昨日心音が作ってくれたオムライスのことで、もし良ければということで今日のお昼分も、作り置きしてくれていたのだ。


……普通に美味い。


最近は、ちょくちょく昼飯を摂るようになった俺だが、少し前までは、昼ごはんを抜いていた身としては、知り合いが作ってくれた物を昼飯として食えることに、ちょっとばかし感動する。


……それに、なんか懐かしんだよな。この味。


このオムライスを初めて食した時も、似たような感想を述べたが、疲れた身に染みる安心できる味というか、なんと言うか。


実際の母にオムライスを作って貰ったことは無いが、作って貰えたなら、きっとこれと似たような暖かい味になるんじゃないだろうか。


「あっ、そうそう!昨日帰った後さ、お前に勧められてた小説読んだんだぜ!」


オムライスの味にそのような感想を抱きながら、黙々と食べていると、小林は思い出したかのように、そう声を上げた。


「……あー、あれか、どうだった?」


かなり前のことだが、小林にとある小説を読むように勧めていたことを思い出し、俺はそう聞き返す。


「いやー、最後、主人公が神様になっちまうのには急展開で驚いたけど、なかなか楽しめたな!」


「……まぁ、あれはシリーズ物だからな。過去作とか次の作品とか読んでないと、微妙に話が理解できないところとかがあるかもな。」


「おう、だから、全作読んでからまたお前に感想言ってやるよ。」


「……いや、別に構わないが。」


「まぁ、そう言うなって!勧めてきたのお前だし、最後まで付き合えよ!」


「……はぁ。」


興奮したかのような口調でそう言ってくる小林。


そう言えば、小林の戦闘狂というヤバすぎる性格に隠れてはいたが、元々、俺がこいつと絡むようになったのは、小林が案外、小説好きだったというのもある。


話していると、意外と楽しくて、そのまま仲良くなったような気がする。


小学生の頃は小林に対して、謎に絡んでくる嫌なやつ。という認識を持っていたが、今では、あの時があったおかげで、1人寂しく孤独になった『俺』という存在が生まれなかったのではないかと思えるまでになった。


……1人が嫌な訳じゃないけど、やっぱり1人は寂しいからな。


「でさー、次読もうと思ってるのが吸血鬼のやつなんだけどさー。」


快活にそう語る小林。


いつもに増して元気そうな様子の小林に疑問を抱いたが、ふと、思い当たる節を思い出し、それを本人に尋ねた。


「今日はやけに元気そうだが、ゆうちゃんの調子が良いのか?」


「男の娘……へ?なんで分かったんだ?」


すると小林は、驚いた顔で俺を見る。


俺は、小林の言いかけた内容がかなり気になったが、そこは抑えて小林の疑問に答えた。


「お前って、昔からあの子が調子良さげな時は、楽しそうにしてたし。……それとお前、シスコンだし。」


「誰がシスコンじゃい。ただ妹のことを愛してるだけだ。」


「……その歳で愛してるは、重いんだよなぁ。」


……【小林遊】。小林一茶の実の妹で、幼少期の頃から難しい病気らしい。


俺も何度か数える程、会ったことはあるが、ほとんどは病院で、俺と話す時も空元気で振舞っていた姿が印象に残っている。


兄である小林一茶のことはよく慕っていたようだったし、兄妹仲は悪くないようだった。


……というか、むしろ良すぎるくらいだったような気がしなくもないが。


「ちょっと前までは体調が悪い日ばかりだったんだが、ここ最近は、ちゃんとご飯も食べれてるんだ。」


自分のことのように、嬉しそうにそう語る小林。


それを見ていると、なんだかこっちまで和やかな気持ちになってくる。


……なんだかんだ言って、こいつが色々なやつに好かれるのは、こういう所なのかもしれないな。


人のために喜び、人のために怒り、人のために悲しむ。


俺が、一生かかっても習得できなさそうな代物である。


「……まぁ、小説も良いけど、お前の言った通り、テスト前なんだから勉強しろよ。妹さんも、お前が学校の勉強についていけてるか心配だって言ってたぞ。」


……もう数年前のことだがな。


「なに?あいつが?うーむ。……真面目に勉強するか。」


妹という言葉に反応し、うーん。と悩みだす小林。


その様子を眺めながら、俺は昼飯のオムライスを完食するのだった。

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