第19話 広まる噂
「なぁ黒池、あの後輩の子とどういう関係なんだよ!」
「……だから、ただの知り合いだって。」
「嘘付け!あの子、俺が見に行った時はいつも無表情だし、お前と居た時みたいな活発さもなかったぞ!」
「……いや、あれについては俺も初めて見たって。」
「本当のこと言えよ!」
「……だからマジだってば。」
現在、俺は自分の教室で、主に男子生徒数人から質問攻めにあっていた。
ひとえに、今朝の白雲との1件が尾を引いているのだろう。
正直言って、迷惑以外のなにものでもない。
こういうことになりかねないから、白雲と居るところは誰にも見られたくなかったのだ。
今朝学校に来た時は、放課後、体育館裏に3年の先輩たちが、気を失いながら倒れていたという話がもちきりだったのに、今やその話もなりを潜め、俺のことで話題が沸騰してしまっていた。
……まぁ、多分その体育館裏のやつも俺は無関係ではないだろうが。
俺は、昨日の体育館裏での1幕を思い出しながら、心中でそう呟く。
「じゃあ、恋人とかじゃないんだな?」
「何回もそう言ってる。」
もう何回目ともしれないやり取りを、今日まともに初めて話す男子生徒と繰り返す。
……なんで俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ。
そんなこんなで、同じような質問をしてくる男子生徒を捌いていると、
「よぉ、朝っぱらからお熱いのを見せてもらったぜ。」
と、声をかけてくる人物が1人。
俺に、この口調で語りかけてくるやつなんて学校に1人しか居ないので、俺は声がした方に目を向けながら言葉を発す。
「だから違うって言ってんだろ。」
「いやー、あれで違うは無理があるんじゃないっすかね?」
そう茶化すような感じで言葉をかけてくるのは、親友の【小林一茶】である。
「あのな、付き合いの長いお前なら分かるだろ?俺が嘘付いていないことくらい。」
「さーて、どうだろうな?」
「……そもそも、俺の顔であの子に釣り合いが取れると思ってるのか?」
何せ、相手は学校1の美少女。
自分で言うのは悲しいが、俺みたいな陰キャなんかが、彼女と釣り合うはずがなかった。
しかし、それを聞いた小林は、なんだか顔を顰めさせ、俺に言葉を吐いた。
「……なぁ黒池、それは俺以外の前では絶対にするなよ?」
「?」
それ?……どれだ?
俺は自分の体を見下ろすが、特段なにかしているわけではないので、変なところはない。
俺のその様子を見て、小林は何故かより一層表情を険しいものにした。
本気で小林の表情の移り変わりの意味が分からず戸惑っていると、小林は、呆れたように息を吐き、言葉を続けた。
「……まぁ、お前は自分が思ってるよりも、顔は悪くないって思っとけ。」
「は、はぁ?」
俺は小林の言ってることの真意が分からずに曖昧な返事を返す。
「……なんかお前、いつか同性に後ろから刺されそう。」
少し心配するかのような声音で、小林はそう呟くのだった。
あの後、休み時間に入る度に俺は、生徒たちの質問攻めにあった。
全てを頭ごなしに否定し、俺は身の潔白を証明する。
それでも疑惑は広まるばかりで、正直言ってキリがなかった。
……こういう時は、影響力のある人がバシッと言ってくれれば、収まることもあるのだが、今やこの学校に俺の味方などほとんど居ない。
小林も達観を決め込んでおり、愉快なものを見るようにニヤニヤとしている。
……クソが、こういう時に使えない。
俺は親友に愚痴を零しながら、頭をフル回転させる。
そもそも事件の渦中に居るのは俺だけではない。
白雲だって居るのだ。
なのに何故か、1年の男子生徒も俺に聞きに来るもんだから、もう一杯いっぱいである。
……なんだか授業の時間が恋しく思えてきた。
今も、目の前に迫る男の人影を、もう人として認識できない程に頭が働いていなかった。
……あの女、次会った時に殺そ。
今回の事象が起こった原因である少女の姿を思い出し、心の中でそう決意しながら、俺は碌に回っていない口を動かすのだった。
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