第18話 たった一瞬
「……あー、眠い。」
現在、学校まで一直線に続く太道を、爛々と煌めく太陽に照らされながら俺は一人歩いていた。
今日の空は、昨日の土砂降りが嘘だったと言わんように晴れ、色白い朝の光が周囲を包んでいる。
心なしか辺りの登校している生徒たちも、昨日より和気あいあいとした声を響かせていた。
そんな中、俺は一人、眠たげに目を擦りながら学校への道を歩く。
ちなみに何故これ程まで眠たそうにしているのかと言うと、昨日の深夜はアニメを見ていたからである。
普段はアニメなど見ない俺だが、過去に小説で読んだ話が、アニメ化するということだったので、気になって見てみたのである。
結果としては、充分満足のいくものだった。
内容としては、恋愛のハーレム系だったのだが、1人1人のキャラが正確に描かれ、それぞれのキャラの魅力を最大限に引き出せていた。
原作を読んで、映像付きで見たいと思ったシーンもしっかりと作り込まれ感嘆ものだった。
キャラ1人1人の性格は、皆全然違い、その中にヤンデレ気質な子もいるが、ヤンデレ嫌いな俺でも不思議と嫌悪感を抱かない程に魅力的なキャラの1人である。
ハーレム系にちょっと病んでる子がいるのは、話をより深くする、大切な役割を担っているのかもしれない。
そんなことを考えながら俺は顔を上げ、周囲を見渡す。
生徒たちは、皆友達と笑い合い、とてもキラキラと輝いているように見えた。
その中でも1つ、目立った集団があった。
6人の内、1人は男、あとの5人は女という集まりである。
俺の先程語ったハーレム系とまでは言わないが、仲良さそうに登校しているのを見ると、少なからず全員男の子に好意があるみたいだ。
きっとあの中でもまたドラマが生まれ、様々なことが起こっていくのだろうと俺は想像する。
……うん、やっぱり青春っていいな。
そんなことを考えながら、俺はまだ着かない学校への道のりを進んでいた。
すると突然、
「おはようございます、せんぱい!そんな辛気臭そうな顔をして、どうしたんですか?」
誰かに、背後から首元にスっと手を回されギュッと抱き着かれる。
「ッ!?」
最近やけに聞く声に、まさかと焦り、後ろを振り向くと、そこにはやはり銀髪碧眼の美少女、白雲心音がニッコリと微笑みながら、俺の背中にピッタリとくっついていた。
「お前!離せって!周りに変な勘違いされたらどうするんだ!」
「いいじゃないですか、私とせんぱいの、ビリビリと痺れるような、言葉で言い表せない程に深い関係を、周囲に見せつけてやりましょう!」
「いや、お前との関係なんて、ものの数秒で語れる程浅いから!」
「え〜酷いですよ、せんぱい。だったら私とせんぱいの関係はどう説明するんですか!」
「知り合いだ!」
「数秒もないじゃないですか!全く痺れません!『たった一瞬の〜』じゃないですか!」
「『このきらめきを』ってか?やかましいわ!お前ときらめいてたまるか!」
「酷い、酷すぎます!」
俺は焦りから、白雲は興奮からか、お互い大声で叫び合う。
そこで俺は、はたと気付いた。
朝っぱらからこれだけの声量で叫んでいれば、当然、周囲からの注目も一身に集める。
白雲心音と一緒にいる。
これは、うちの学校で生きていくためには絶対に避けなければいけないことなのだ。
「というか俺、今から学校に急ぎの用事あるから!」
この通りにいるほとんどの生徒がこちらに注目している中、俺はもうほとんど手遅れな状態に勘づきながらも、白雲の拘束を振りほどき、学校への道を走る。
……頼むから追って来ないでくれッ!
せんぱい!!と叫ぶ声が聞こえた気がしたが、知らんふり。
後ろを振り返る余裕もないまま、俺の平穏な学校生活を守るために、俺はひたすら走るのだった。
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