第14話 それはラブコメのような

「そこで座って待っていてください。」


現在、俺は白雲家のバカでかい部屋(多分リビング)に案内され、高級そうなソファに座らされていた。


お高いお茶を煎れてきます!と言いながら白雲はキッチンの方へ走って行ったのが、ちょうど今である。


ちなみに白雲は、雨で服も体もびしょ濡れだったので先程シャワーを浴びて着替えてきたようだ。


もちろん、雨に濡れて透けた制服の胸元をしっかりと見てしまった後に、変態ですね。と冗談混じりに言われるお約束の展開も玄関で終わらせた。


でもあれは不可抗力だろ?男なら誰でも見るだろ?だから俺が変態なんじゃなくて男という生物が変態なんだ。


……いや、俺ここに何しに来てんの?


振り返り思い出したら、ただ俺が変態になっただけなんだが。


「お待たせしました。」


しばらく俺は、悶々と頭を抱えていたが、そう声をかけられたので、そちらへと顔を上げる。


そこには、長い銀髪をポニーテールに結わえて、可愛らしいピンクのパジャマに身を包み、お盆を抱えている白雲の姿が目に映った。


……クソが、可愛いやん。


俺は、またもや頭を抱えて項垂れてしまう。


いくらクール振ってると言っても、俺だって年頃の男子高校生。


そういうのに興味がないわけがなかった。


「あっ、こんなラフな格好ですいません。」


白雲はお盆をテーブルの上に置き、俺にぺこりと頭を下げる。


「……あー、い、いや、別に、気にしてない。」


俺は、何故かやけにしどろもどろになりながらそう言葉を返した。


俺のその様子を見て、不思議そうに首を傾げていた白雲だったが、やがて何かに勘づいたかのように悪戯っぽく口端を上げて、俺の座るソファの隣に腰掛けた。


「……それとも。」


フワリとシャンプーの甘い香りが、鼻腔をくすぐる。


俺の腕と、白雲の胸が触れ合いそうな距離。


自然と固くなる俺の肩に、白雲は小さな手を乗せて、俺の耳元まで口をもってくると、


「……こういうラフな方が好みですか?」


俺の耳に直接、息がかかる程の距離でそう囁いた。


「!?」


反射的に体がビクリと震える。


心臓の鼓動が、かつて無いほどに早まっているのが感じられる。


白雲の吐息が首筋にかかる度に、くすぐったさで体がビクビクと震える。


堪らず横を見てみると、透き通ったライトブルーの大きな瞳が、俺の横顔をじっと見つめていた。


……距離近ぇ。


いや、俺が女子との交流が少なすぎて距離感を掴めていないだけなのか?これが普通なのか?


それとも何?これ誘われてるの?なんか誘われてるの?


俺は、もうあまり働いていない脳を必死に回していた。


「……ふふっ。」


その時、ずっと俺の耳元まで顔を寄せていた白雲が笑みを零し、スっと顔を下げた。


「せんぱい、そんなにビクビクしてどうしたんですか?かわいいですね。」


クスクスと口元に手を当てて、白雲は俺を愉快そうに笑う。


この時、俺は初めて気付いた。


からかわれていただけだと。


俺はただ遊ばれていたのだと。


それが分かった時、どっと肩の力が抜け、遅れて汗が噴き出してくる。


「……あまり先輩をおちょくるもんじゃないぞ。」


「すみません、せんぱい。でもどんな反応するか見てみたかったんです。」


白雲はソファから立ち上がり、煎れてきた紅茶を、俺の目の前に置く。


「ですが、あの反応を見るに、せんぱいは女性慣れしてませんね?」


すると今度は俺の対面に位置するソファに座り、

薄らと微笑みながら、彼女はそう言った。


「……別にいいだろ。そんなこと。」


というか、あんなことされたら誰だって俺みたいになるだろ。


俺は心の中でそう言い訳しながらチラリと彼女を盗み見る。


白雲は、マグカップに手を伸ばし、手馴れた手つきで、口元へとそれを運んでいく。


優雅な所作に思わず見惚れていると、自然と、彼女の柔らかそうな唇に目がいってしまった。


……あー、クソ。完全に今こいつを1人の女性として意識しちまった。


俺は再三、頭を抱える。


……こいつとはあんまり関係を築きたくないのに。


俺は、自然と再び高鳴る鼓動を、目の前の少女に気付かれないように、目の前に置かれたカップへと手を伸ばすのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る