第13話 お邪魔します
あの後、俺たちはとりあえずで【白雲心音】の家へと向かっていた。
理由としては、もちろんこの少女を家に送り届けるためである。
近くのコンビニでビニール傘でも買えば1人で帰らせられるが、家は学校からかなり近いらしいので、それなら早く帰って、濡れた体や制服をどうにかしたほうが良いだろう。
「で、お前の家どこ?」
「……お前、じゃなくてちゃんと心音って名前で呼んでください、せんぱい。」
少し体を前に倒しながら、俺のことを上目遣いで見上げてくる。
完全に自分のことを可愛いと思っていないと、できない動きだ。
……実際こいつが可愛いのは認めるが。
「……分かった、白雲。」
「……もう、せんぱいは素直じゃないですね。」
頬を少し膨らませながら、白雲は不満そうに言葉を垂れる。
……いや、ほぼ初対面のような人間にいきなり下の名前呼びはどうなんだ?
距離感がおかしいと言うか、馴れ馴れしいと言うか……
そもそも俺はこいつと仲良くなりたいわけじゃない。
と言うか、仲良くなりたくない。
もちろん付き合うなら可愛い子が良いし、その点では白雲はそれにバッチリ当てはまっているが、
この少女は、学校で良い意味でも悪い意味でも有名すぎる。
こんなやつと長く関わっていると、碌なことがないのだ。
……さっさとお礼ってやつを済ませてもらおう。
そうすれば、こいつとの関係はそこで終わる。
俺は、心の中で適当に彼女の言うことに従おうと決心する。
「あっ、そこの道を右です。」
彼女は数メートル先の分かれ道を指差す。
ここを左に曲がれば、駅まで真っ直ぐに続く道に出る。
俺の家は、その駅から2駅ほど行ったところに有るので、学校から近いとも遠いとも言えない。
……しかし、ここの右側は確か……
やがて、俺たちは分かれ道を右に曲がると、立派な家が建ち並ぶ住宅街に出た。
どれもこれも高級そうな建物ばかりで、とてもじゃないが、一般の人間には手も出せそうにないものばかりであった。
俺は、若干肩身の狭くなる思いをしつつも、その通りを進む。
白雲は、特に気にする様子もなく俺の隣を歩いていた。
そして、この通りを抜けようかという時、白雲が立ち止まった。
「ここです。」
そう言いながら、白雲はある一軒家を指差す。
その建物は、この住宅街の中でも一際大きくて目立った家であった。
「……え?ここ?この城みたいな家?」
「城だなんて大袈裟ですよ。でも、はい。ここです。」
白雲は、俺の呆けた顔を見て少し笑みを浮かべながら、再度その家を指差す。
「……お前の家って金持ちだったんだな。」
「はい。知らなかったんですか?自分で言うのもなんですが、結構有名ですよ?」
そう言いながら、彼女は傘の中から出て、家の門を開ける。
この門も、家の風格に負けないような黒いオシャンティーな大きな門である。
チラリと横に庭が有るのも見えたが、俺の住むアパートの1LDKよりも全然広い。
……なんてことだ。
俺が唖然としていると、彼女はニコリと微笑みながらこちらに振り返り、口を開いた。
「せんぱい、どうぞ上がっていってください。」
「……いやいや、何を言ってるんだお前は。」
俺は思わずそうツッコミをいれる。
「ほとんど初対面の人間、さらに男である俺をそう易々と家に招き入れようとするな。俺が悪いこと企んでたらどうするんだ。」
そう言うと、彼女は少し不思議そうな表情をしたが、
「大丈夫ですよ、せんぱいはそんな悪いことを考えていません。」
と、やけに自信満々でそう答えた。
……なんでそこ、お前に自信があるんだよ。
「それに、今日は親が居ないのでなんの心配もないですよ。」
「……余計に色々と心配になるわ。」
……こいつ本当に大丈夫か?
「まぁまぁ、これもお礼の一環だと考えてください。」
門は入れば自動で閉まるんで。と言いながら彼女は玄関の方へと走って行く。
……そうか、こいつの家に上がれば、お礼は済むのか。
俺は、一息吸って目の前のデカい家を見つめる。
……なんか、らしくもなく緊張するな。
女子の家というのもそうだが、これ程までに大きな家は初めて入る。
やがて、俺は少しワクワクした気持ちを抑えながら、門をくぐった。
すると、グイーンという音を立てながら後ろの門が閉まっていく。
……おぉ。
本当に自動で閉まっていく門に感心しながら、俺は白雲家の敷地へとお邪魔するのだった。
やった!やった!やった!彼を家に誘い込めた!
ボクってばやればできる子!
ボクは、門をくぐろうとしている彼に背を向けて、家の玄関の扉の鍵を開けていた。
その間も、嬉しすぎて口元のニヤけが収まらない。
……家に入ったら何しようかな。
監禁……はまだ早いよね。
うん、監禁なんてやっぱりダメだよね。
彼には自由でいて欲しい。
強制する愛なんて本物の愛じゃないもんね。
やがて、玄関の扉を開けたボクは、彼を家の中に
案内しようと彼に振り返る。
すると、門が自動で閉まっていくことに驚いている彼の姿が目に映った。
……かわいい。
やっぱり監禁したいなぁ。
せんぱいが監禁してくれって言ったら監禁しても良いかな。
ボクは、心の中で揺れ動く心情が表情に出てしまわないように隠しながら、彼の元へと歩んで行くのだった。
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