第9話 舞台裏
「クソが!!」
放課後の教室。
鬱陶しい夕陽に照らされた、空き教室の一室で、俺こと【
「荒れてんなぁー。」
「そんなんだから振られたんじゃね?」
「ハハッ、違ぇねぇ。」
そうニヤニヤと笑いながら口々に言うのは、俺のつるみ仲間である。
「うるせぇ!」
そう俺は今日の昼休み、この学校1の美少女である、【白雲心音】を屋上まで呼び出して告白した。
しかし、結果は酷いものだった。
告白は振られるわ、いきなり現れた下級生にバカにされるわで、散々だったのだ。
「クソッ!」
特に、急に現れたあの野郎。
俺に舐めた口を利きやがって。しまいには俺に手を出しやがった。
「殺してやるッ」
そう叫び、手を勢いよく机に叩き付ける。
「おいおい、化けの皮剥がれてんぞ。」
「イケメン優等生くんどしたー。」
「今の顔じゃ女なんて寄って来ねぇって。」
またもや口々に言うあいつらを、睨んで黙らせる。
その時、
ガラリと音を立てて教室の扉が開かれた。
「……随分と荒れてますね。」
そう言って現れたのは、まさか予期していなかった人物であった。
腰まで伸ばした、畏怖さえ抱く程に美しい銀髪。
この世のどんな宝石よりも、透き通っていると言っても過言ではない碧眼。
端正な人形のような整った顔立ちをした少女。
【白雲心音】その人であった。
まさかの登場人物に、この場にいる誰もが驚きで口を開けない中、その少女は一切の迷いなく、倒れていない椅子へと腰掛ける。
夕陽に照らされその横顔は、この世の何よりも綺麗だった。
やがて、その少女は俺の方を見るなり口を開いた。
「話を聞いて頂けませんか?飯田先輩。」
「……話?」
現在、俺は銀髪碧眼の少女と真正面の椅子に座り、その少女の声に耳を傾けていた。
「ええ、今日も色々あったことですし、話だけでも聞いて頂きたいことがあるんです。」
その少女の呟きで思い出されるのは、昼休みのこと。
告白に失敗した直後、俺が彼女の肩を掴んで無理やりにでも自分のものにしようとしたことである。
……そして、その後あの野郎に……
いやなことも一緒に思い出してしまい、俺が表情を歪める中、彼女はそれを気にした様子もなく話を進める。
「実はあの後、あのいきなり現れた2年生に私、襲われそうになったんです。」
そこでその少女は衝撃的な発言をした。
「……なんだって?」
思わず、そう聞き返す。
「……助けた恩を返せって、私を襲おうとしてきたんです。」
少女は目にうっすらと涙を溜め、絞り出すかのようにそう呟いた。
「……それは酷いな。」
俺は口ではそう言いながらも、心の中では歓喜の声を上げていた。
……これはもしかして、ワンチャンあるんじゃないか?
この相談を俺にしてきたってことは……そういうことだよな?
と自惚れながら、それを表情には出さずに俺は目の前の彼女に問うた。
「それで、俺たちは何をすればいい?」
「……もし良ければ、あの2年生の先輩を私の前に二度と姿を現せないようにして欲しいです。」
少女はまっすぐに俺を見つめて、そう懇願してきた。
「もちろんタダでとは言いません。お金なら払います。……お望みならば、その先のこともちょっと……」
そうモジモジとしながら提案してくる彼女。
その頬が若干赤くなっているのは、夕陽のせいだろうか。
もしこれが上手くいけば、俺のあの野郎への復讐は果たされて、オマケにこの少女を抱けるかもしれない。
こんな提案を俺が呑まないわけがなかった。
「……分かった。別にお金は要らない。俺は君のためにそうしてあげたいからね。」
そう言って彼女の瞳を真正面から見つめ返す。
「……本当にありがとうございます。……優しいんですね、飯田先輩って。」
そう言いながら少し微笑む彼女の瞳に、俺は完全にハートを撃ち抜かれた。
……絶対にこの子は俺が貰う。
心の中でそう誓いながら、俺は教室の隅で俺たちのやり取りを眺めていた仲間を集めて、作戦会議を始めたのだった。
その少女が、うっすらと口元に笑みを浮かべていることに気付けないまま。
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