第4話 隣の彼

……雨、降ってきたな。


現在、1限目の授業が始まってしばらくした頃。


1番後ろの教室の窓際という、絶対的小説の主人公ポジションで、俺は外の景色を眺めていた。


1限目が始まる直前からポツポツと降り始めた雨は、やがて大粒の水滴となり、今に至って、土砂降りの雨の音が耳朶を震わせていた。


……傘を持ってきておいて正解だったな。


備えあれば憂いなし。とはまさにこういう時のことを言うのだ。


朝、住んでいるアパートの玄関から出る時に曇り空に気付き、一雨降るかもしれないと予想したおかげで、今日はびしょ濡れにならなくて済みそうである。


ちなみに現在、俺は一人暮らしをしている。


理由は色々あるのだが、大きな理由としては自由が欲しかったから。


誰に何を言われるでもなく、自分だけの自由な空間が、時間が欲しかった。


1人暮しなんて始めたおかげで、料理を作らない俺は、毎度コンビニ弁当のお世話になっている。


別に料理ができないわけではない。ただ単純にしないだけだ。


コンビニ弁当ばかり食べてたら栄養がほにゃららなんて分かってはいるが、学校が終わって帰宅後に料理するなんて面倒すぎるだろう。


親はこれに関しては、お前のやりたいようにやれ。というスタンスなので余計なことは何も言ってこない。


俺が栄養失調で倒れたとしても、お前の責任。らしい。


まぁ、確かに俺が1人暮しを始めたら関わらないでくれ、と親に言ったのは俺だからな。


それでも母親は、色々と仕送りやらなんやら言っていたが、それが子を心配する親というやつなのだろう。


「なぁ、黒池。」


そんなことを考えながら窓の外を眺めていると、俺の席の右横から小さく俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


そちらを振り向くと、そこにはTheスポーツマンのイケメン男子高校生が机に教科書を立てながら、こちらを覗いていた。


隣の彼の名は、【小林一茶こばやしいっさ】。親がよっぽど彼の偉人が好きなのか、ただ単純に面白がって付けたかのどちらかしか考えられない名前である。


国語の授業中に絶対に1回はネタにされるであろうその名前を、本人は気に入っているらしい。


俺はそんなこいつと、幼い頃から続いている友人関係にある。


こいつはスポーツが大の得意だが、小説を読むという趣味も持っているのだ。


その点で話がよく合うので、今も関係が続いているのであろう。


「どうした?」


「今日、雨降ってるだろ?」


「まぁ、そうだな。」


「昼休み、今日は俺と食堂に行かね?」


……今する話じゃないだろ。


心の中でそうツッコミつつも、俺は再び窓の外に目を向ける。


降り止まぬ雨は、一向に衰えを見せず、なんなら先程よりも勢いを増して地上へと降り注ぐ。


そう、今日は雨が降っているので、日課の屋上で昼寝ができないのである。


……これから梅雨が近付くに連れて、昼寝ができなくなっていくのか。


残念な気持ちが込み上がり、少し憂鬱な気分になりながらも、俺は小林へと向き直って言葉を続ける。


「うーん……金、使うの嫌なんだが。」


「昼飯くらい奢るって。」


「……はぁ、それならまぁ良いけど。」


……なんで俺なんかと飯を食いたいんだよ。


断ったところで、あの手この手を使ってくる小林なので、俺は渋々了承する。


それに、昼飯がタダで食えるなら悪い話じゃないしな。


「おっし!そうこなくちゃな!」


「小林うるさいぞー」


何がそんなに嬉しいのか、小林がガッツポーズを取りながらそう叫ぶと、すかさず先生の注意が入る。


……まぁ、最近はこいつともあまり話せていなかったし、たまにはいいか。


サーセン!と言いながら席に着く親友の横顔を、俺は少し頬を綻ばせながら見つめるのだった。

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