第2話 誰か良い人
俺の名前は【
とは言っても、なぜ喧嘩が強いのかと問われても、俺は分からないと答えるだろう。
何せ、体が特別大きいわけでもなければ、見た目に反して筋肉密度が濃い特異体質というわけでもない。
もちろん漫画みたく特殊な能力が使えるわけでもない。
それでも喧嘩になれば、俺は絶対に最後まで立っていたし、なんならどんなに激しい喧嘩でも俺は相手から一撃も貰ったことがなかった。
『なんか守護霊的な特別な力に守られてんじゃね?』というのは幼い頃から今も続いている親友の意見である。
……正直言って、霊的な類は全く信じない質なので、この線は否定したいところだが、それ以外の説明のしようがないというのも事実なのである。
「……ちょっと、ボ~としちゃって大丈夫?」
そんなことを考えていると、隣から女の声が聞こえてきた。
そちらに視線をやると、そこには黒髪のショートヘアでキリッとした目尻が印象的な女が、こちらの顔を窺っているのが目に映った。
こいつの名前は【
しかし、こいつはなんというか幼馴染という感じがしない。
これは世の恋愛系小説を読み漁った偏見か、幼馴染ってもっと、こう、なんというか……可愛げがあるじゃないか。
いや、これは別に、こいつの顔が不細工だって言いたいわけじゃない。どちらかと言うと可愛い部類に入るのだろう。
これは、そう性格的な意味でだ。
世のラブコメたちは、幼馴染との甘々学園ライフを演じているが、現実の幼馴染とはそんな可愛げのあるようなやつではないのだ。
……いや、それはこいつに限った話かもしれんが、まぁとにかく、何が言いたかったのかというと、こいつと恋愛関係になることは絶対にないだろうということだ。
「……もしかして、昨日も夜遅くまで起きてた?」
現在、普段なら地球を明るく照りつけているであろう太陽は雲に隠れ、暗雲立ち込める空の下、「おはよう。」なんて生徒同士の言葉がそこらから聞こえてくるような時間帯。今日も生徒たちは学校へと登校していた。
ちなみに、何故俺が付き合ってもいない幼馴染と一緒に登校しているのかと言うと、今朝学校を出る前に、こいつが俺の家まで迎えに来たからである。
何故いきなりと思うだろう?俺も思った。
だが、いくら理由を聞いたところで、頑なに教えてくれないし、正直もうどうでもよくなった。
「……起きてたけど、別に大したことはしてない。」
「……どうせ、いかがわしいサイトでも見てたんでしょ?」
彼女は軽蔑するかのような視線で俺を見る。
いや、見てないし。こいつの勝手な言いがかりである。
……というか何がいかがわしいサイトだ。俺はネットで小説を読み耽っていただけである。
ちなみに昨日読んだのは、主人公と幼馴染のすれ違う思いが正確に描かれ、様々な苦難を乗り越えて、最終的に結ばれることになる甘酸っぱい恋話である。
これのどこがいかがわしいのか、是非とも説明してもらいたいところである。
「……そんなもん見るわけないだろ。」
「いや、でもあなたそういう小説、結構好きでしょ?」
……こいつはとんでもない勘違いをしている。
それではラブコメ好きは皆、ただの変態ではないか。
余談だが、俺は恋愛系の小説を読むことが唯一の趣味である。
1番好きな終わり方は、やはりハッピーエンド。
好き同士の男女が結ばれるのは物語として、とても綺麗で美しい形である。
……逆に、最近人気のあるヤンデレ系とやらは、あまり好きではない。
というか、むしろ嫌いだ。
一方的な愛の押し付け。
それに加えて、ヤンデレの押しに対する謎の主人公の弱さ。
しかも物語の大半が、かなり胸糞な終わり方である。
その、どれもこれも俺の嫌いな要素だ。
……まぁ、そうは言っても、青春とはいいものだと俺は思う。
俺は、そんなことを考えながら周囲にいる登校中の生徒たちを眺める。
太陽が出ているか、いないかなんて関係ない。皆、友達と笑いあってキラキラしている。
愛想がない。明るくない。覇気がない。
俺に関わった人間は皆、俺をそのように例える。
確かに俺にもその自覚はある。
それでも俺も1人の男子高校生なのである。
恋愛の1つや2つくらいしてみたいと思うのが本音だ。
……誰か良い人いないかなぁ。
そんなこんなで、どうでもいい会話を繰り広げていた俺たちは、学校の門前に充分な時間に余裕をもって到着するのだった。
その後ろをずっと付けていた、ある少女の存在に気付けないまま……
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