第4話 サル夫

ー翌週ー

 二人の女が甘味処の一角で、注文したぜんざいセットが届くより前に、話に花が咲いていた。


「この前、ファル子さんに言ってもらった通り、夫と向き合って私がギャンブル止められなくて自助会へ通い出したことを話したら、理解してくれて、夫も浮気について話してくれました。

 なんでも、最近すごくムラムラすることが多くなって、誰でもよくなってつい、ホステスさんを誘ってしまったそうなんです。もうけだものですよ。猿ですよ。サル夫!!」


「言ったでしょ。男なんてそんなものよ。ケンカする理由だって、メスのことか餌のことでしかないの。でも私の場合は、私の前から愛人のもとへ去るサル夫だけどね。

 私みたいになる前に話し合えてよかったじゃない。私は取るに足らない女。夫を愛し続けることができなかった弱い女よ」


 初めて見せたファル子の寂しげな表情を見たアヒルは、ファル子の身に何かあったのだろうと感じたが、聞くことはできなかった。

 アヒルが言葉を詰まらせたところで、注文していたぜんざいセットが届いた。

 その後も話は弾まず、二人はぜんざいを食べ終わった。その間、アヒルはファル子からの相談を待っていたが、何も話してはくれなかった。


 それから、アヒルの自助会通いは続いたが、もうファル子に会えることはなかった。



ー1か月後ー

 産婦人科のクリニックから出てくる一人の女。髪はアヒルのチャームが付いたヘアゴムで束ねられていた。

 にごった川沿いの道で目線を落として歩いていると、アヒルの親子が仲睦まじく泳いでいる。


この時、女は考えた。

(他人の不幸で生活する人たちがいるこの濁った世界へ生まれてくる我が子に、自分だけでも潔白であり続けるべきだと教えるべきか、周りと一緒に汚れれば楽になると教えるべきか。

 いくら考えても答えは見つからないから、といあえず以前に買ったまま、放っておいた毛糸で、赤ちゃん用の靴下を編んでみよう。

 それから、あの人にもう一度会えたなら、私が母になることをなんといってくれるだろうか)


 女は自分の腹部をさすりながら、街中へ消えていった。


おわり




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サササ 団田図 @dandenzu

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