第3話 サレ妻サセ妻
ー翌週ー
女がスマホを見ながらブツブツとつぶやいてる。
「恐ろしい、恐ろしすぎる。駄目よ私。こんな恐ろしいことしちゃ駄目よ私。で、でも怖い世界ほどのぞきたくなるのよね。いやだなーこわいなー」
そこへ、別の女が話しかけてきた。
「あら、アヒルちゃん早かったわね。何つぶやきなら見てるの?悲壮感がすごいわよ」
「ファル子さーん!待ってましたー!教えてくれた呪われた高校球児を騙すテクニックで、なんとか一週間乗り切りました。今もちょうどパチンコ実践動画の大負けした回を見て、血気盛んな頭の中の球児たちを、なだめていたところなんですよー」
「へ?そんな話したっけ?まあいいや、始まるようだよ。行こう」
「はい!!」
そう言うと二人はギャンブル依存症の人たちが集まる自助グループのミーティング会場へ入っていった。
この日、二回目の参加となるアヒルは、知り合いができていたせいか、緊張することなく自分のことを自然に話すことができた。
家族や友人の誰にも相談ができずに一人で抱え込んでいたことを話すことで、ギャンブルから離れていけている現状を喜んだ。
そして、ミーティングが終わって参加者が帰るとき、ファル子がアヒルへ話しかけた。
「行く?」
「はいっ!!!!!!」
二人は会場を出てすぐの甘味処へ入っていった。
「聞いてくださいファル子さん」
案内された席へ着くなり、オーダーするより前に、アヒルが話だした。
「夫が、夫が、、浮気していたんですー。毎週水曜日だけ帰りが遅くなって、スーツから香水の匂いがするから、怪しいって問い詰めたら、やっぱり浮気していたんですよーー」
「ぜんざいセットでいい?」
「それに、相手はホステスさんっていうから、絶対に騙されているじゃないですかー。もうホントいやになっちゃいます」
「あっ、店員さん。ぜんざいセット二つください」
「ファル子さん。聞いてくれてますか?」
「聞いてるわよ。男なんてね、浮気する生き物なのよ。その辺の電柱にしょんべんするかのごとく、射精しながら回っているのよ。それにいちいち嫉妬してたらこっちの身がもたないわよ。夫婦なんて結局他人同士。つながりは子供や世間体だけ。離婚しないのはデメリットが多いからってだけ。相思相愛なんて幻想よ」
アヒルの熱を超えてきたファル子の発言に、面食らったアヒルが聞いた。
「ファル子さんもサレ妻なんですね?」
「いいえ。私はサセ妻よ。夫なんて家にいないほうが楽。給料だけ持ってきてくれればいいんだから。その辺の女と遊ばせとけばいいのよ。どうせ離婚するにも慰謝料やら社会的立場やらでそんな勇気ないのよあいつら。だから私は夫に浮気をさせるサセ妻」
「そんな寂しいこと言わないでください。夫婦となった以上は、秘密をなくして、浮気せず、お互いを思いやって支え合って生きていくものじゃないんですか?」
「じゃああなた、どうしてギャンブルを辞められないことを夫に相談できないの?
人様の夫婦関係にとやかく言うつもりはないけど、アヒルちゃんが全ての心を開いて夫と向き合わない限り、夫だって浮気した理由を言ってくれないし、本物の夫婦関係は生まれないわよ。私みたいに上辺だけの付き合いになっちゃだめよ」
「ふぁ、ファル子さん・・・」
アヒルは、自分のためを思って、きつい言葉をかけてくれていたファル子に感激しながら、運ばれてきたぜんざいセットをかみしめた。
それから一息ついたところで、ファル子が話題を変えてきた。
「アヒルちゃんに設定してもらった家計簿アプリ使い続けてるんだけど、コレいいわね。ギャンブルに使うお金が、いかに無駄か思いしらされているわ。もっと早くから節約してたら、きっと今頃は黄金の宮殿に住んでたわ」
この時、アヒルは想像した。
(宮殿の大広間でターバンを巻いたファル子さんが、イケメン執事に囲まれながらシーシャをふかしている。気持ちよさそうだ。一体全体、ファル子さんはお馬さんにいくら使ったのだろうか。そして旦那さんのお仕事は何なのだろう)
それから2時間ほど、二人は見栄や体裁などのフィルターを外して、本音で雑談し続けた。そして、それぞれ別々の方向へ帰っていった。お互い、相手が何処へ帰るのかを知らないないままに。
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