第8話 仲間募集と言って喧嘩を売る
「それで?ここから脱出する方法というのは何なの?」
「私は魔法で空が飛べます、アルビス船長も飛べる様に出来ますからそれで人間のいる島にひとっ飛びです」
「…………そっそう」
なんか嫌そうだな、お姫様抱っこじゃないだけありがたいと思え。まあ女性とのコミュ力がゼロだからしろと言われても出来ないがな。しかし綺麗になった今の彼女ならやってみたい気もする。
魔法を発動する、アルビス船長を少し浮かせて慣れさせる。動かすのは私なので彼女にはとにかく高い場所て浮く感覚に慣れてもらえれば問題ないと説明した。
ちなみにこの空を飛ぶ魔法は、空を飛ぶ様になると同時に自身の身体を守る不可侵のバリアも発動する高等魔法だ。
このバリアは優秀で地上から高度一万メートルに人間が数分で一気に上昇しても体調に異変などをきたさない様に大気や気温、その他もろもろを微調整してくれるのだ。
ドラゴンの私はともかくアルビス船長をジェット機よりも速く飛行させるとそう言うバリアの1つもないと簡単に死んでしまうからな。
今後の私が期待する海賊の姿を見せてくれるまで頑張って生きてもらわなければならないので気を使うのだ。
「それでは高度を上げましょう、あと向かう島を教えて下さい」
「分かったわ、向かうのはサムル島よ」
「……サムル島?確かにそこも海賊港がある島ですが、出発した海賊港がある島じゃなくていいんですか?」
「船も船員も無くして戻れって言うの?笑い物になるだけよ。新しい船員も集まりはしないわ、なら別の島に行って準備をした方がマシよ」
「それもそうですね、分かりましたサムル島に向かいますね」
「ええっけど高度を上げるのはゆっくりよ?ゆっく……きゃっ!」
アルビス船長はなんか言ってたが無視して一気に上昇して島のある方向に向かって直進する。
どうやら船長は高いところが苦手らしい、ちなみにサムル島にしろ他の海賊港のある島の地理は既に頭に入れてあったりするのだ。
◇◇◇◇◇◇
そして小一時間程でサムル島に到着した。普通の船なら10日以上は掛かる距離も空を飛べばこんなものであろう。しかしアルビス船長は既にぐったりしている。
空の旅はやはり苦手だったらしい、途中まで何やら騒いでいたが直ぐに静かになっていたのはグロッキー状態だったからのようだ。
「流石にサムル島の海賊港にそのまま下りると目立つので港から少し離れた森の中におりますよ?」
「ううっ………アンタ、いつかこの借りは返してやるからね……」
借りより先に命を助けた事とか水や食料を分けてやった事に対する恩を返してくれると助かる。
そして我々はサムル島の海賊港に到着した。
どこから調達したのかレンガを積んだ建物が並ぶ、屋根は赤色が多いな、煙突がある家もある。
大抵は2、3階建ての建物だ。基本は海賊達専用の宿だから建物自体は大きめの物が多い。
港を行き来するのは全てガラの悪い海賊達である、港に泊まる船の帆にはドクロマークが描かれている。
海賊港は文字通り海賊の為の港だ、船は整備しないと沈むので港は必須。しかし海賊が普通の港に行けば普通に捕まるのでこういう海賊港が国の船や商人の船がまず通らない所にある無人島に海賊達が集まって作るのだ。
他にも国と秘密裏に交渉して黙認されている海賊港もあるとか、ネットも衛星もないからこその実にファンタジーで中世な世界故の自由度の高さに私はニンマリだ。
海賊港は海賊達で活気がある、まあ口々にする話は強奪やら何人海に沈めてたかなんて話なのはご愛嬌と言ったところか。コイツら海賊は悪人も襲うが善人も襲う連中だからな。
「ようやく人間がいる場所にこれたわね」
「海賊ですけどね」
「別に海賊でもいいわ、無人島よりは遥かにマシよ、寝るところもあるし」
「…………お金はあるんですか?」
私の言葉にアルビス船長はニッコリと「あるわよ」と答えて腰のベルトにあるポーチをポンポンとした、そのポーチあの地図以外にもおサイフも入れているのか。なんか女子っぽいと思うのは私だけだろうか?。
「先ずは仲間を集めるわ、行くわよ」
「仲間を集める為に行く場所ってどこですか?」
「そんなの……酒場に決まってるでしょ!」
決まってはいない。酒場で仲間とかどこの王道ファンタジーゲーの話だ。
まあ私はそんなゲームも好きなのでついて行くのだ……。
そしてアルビス船長の後について行く、本当に酒場にいきやがった。海賊港の酒場とか入る気すら起きない場所だぞ?中にはマッチョで高身長な日焼けした海賊達がゾロゾロいた。
そう言えばアルビス船長は全然日焼けしてないな。白人の顔立ちと肌の色をしていた、もしかして滅多に船上に現れなかった理由って……。
私は余計な事を考えるのを辞めた。
酒場の中を見回すと海賊達は腕相撲をしていたり、樽の蓋を壁にかけて手斧を投げてダーツの原型みたいなゲームをしている。
昼間から酒をガバガバ飲んでいたり大皿に山盛りの肉をモリモリと食べている海賊もいた。
やはり海賊は男の比率が高い、高すぎる。こんな男臭い連中がいっぱいな酒場とか入りたくない。
若干気分が悪くなる私を尻目にズンズンと奥に進むアルビス船長、その美貌に海賊達が騒ぎ始める。
「おうっねぇちゃん!綺麗だねぇ~~こっちきて一緒に飲まねぇかい?」
「俺と飲もうぜ!楽しくなる薬もあげるぞ?」
「いいから飲もうぜ飲もうぜ!」
男は基本的に美人に弱い、私も無人島で生き残ったのがアルビス船長じゃなくてただの野郎海賊なら風呂も食事もなしで有人島に適当に捨ててお終いだったろう。
イケメンには程遠い顔面偏差値の海賊共を見渡して、アルビス船長は告げた。
「わたしは今、自分の下で働く連中を求めているわ!わたしと剣で勝負してわたしが勝ったらわたしに従う、わたしを負かせたらそいつの言う事を何でも聞くわよ?どう?誰かこの勝負を受けるかしら?」
そう店のど真ん中で堂々と宣言した。
……やはり彼女も海賊だな。その豪快な仲間募集作戦、完全に喧嘩売ってる。
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