第7話 救う価値

「………私の価値ですって?」


「はいっしかし誤解しないで欲しい、あくまでも私は知りたいだけなんですよ。もう少しだけ話を聞いてください」


「…………」


「元々、私が貴女の船に乗ることになったのはとある海賊港で貴女の船が船員を募集していたからだ。近々なんとかって商人がデカい積荷を船で運ぶからそれを奪う為に人手がいるという話だった」


「ええっその通りよ」


「……だが、それだと少しおかしいんだよ。貴女の船を襲った幽霊船、アレにも種類こそがあるが、それこそ勝手にくたばった人間がその執念だけであんなモンスターになることは先ずないんだ」


 幽霊船と言ってもピンキリだ、弱い連中や戦闘経験のない人間が借りに幽霊となってもその戦闘能力は正直雑魚は雑魚のままだ。


 いくらファンタジーな世界観でも死んだからって簡単に強くはならない。だからアルビス船長達を襲った幽霊船は元からかなり強い海賊連中が幽霊となった訳だ。


 そんな海賊があっさり全滅して幽霊船になる事もそうそうないと思われる。


「しかし、やはり例外というのはある。強い海賊が狙う物と言えばそれこそ大物の商人の船もそうだですが……」


 そもそも私が海賊を職場体験したかったのは、他人の船を襲って略奪がしたかったからではない。私の目的とは少年が夢見る海賊、或いはカリビアンなパイレーツである、つまり……。


「その海賊達が狙ったのは……未知の秘宝かなにかではないかと私は考えます」


「!?」


 アルビス船長の表情が変わった、やはりこの女は初めから商人の船なんて襲うつもりはなかったな。


「やはり実力のある海賊なら、命懸けのお宝の情報くらい持っていても不思議はない。そしてそう言うお宝を守る罠には……」


「──海賊を幽霊船の船員に変えてしまうような恐ろしい罠もある」


「その通り、そしてその幽霊船は当然。次にそのお宝を狙っている者の障害として立ち塞がる、違いますか?」


「………そんなの知らないわよ」


 そもそもただの幽霊船は夜に海底から現れるが、魔法の霧を発生させられる幽霊船はそれよりもワンランク上の幽霊船だ。


 そしてのそのタイプの幽霊船は大抵魔法か何かの呪いで幽霊船に変えられた海賊達の成れの果てだったりするのである。


「アルビス船長、貴女が単純に人を増やしたかったのは人の盾が欲しかったのか弾よけが欲しかったのか……それとも人柱にでも使うつもりだったのですかね?海賊の命なんてそれこそ使い捨ての代物だと考えていましたか」


「………違うわ、船員募集はボークから話が上がったものよ。何でも雑用を新入りに任せて戦える人間を増やすべきだって言っていたわ」


 ほう?まあやられた海賊船を見て速効で見捨てた私が言うのもアレな話なのでこのあたりはどうでもいい、ボークも海の藻屑となったので話を蒸し返す事はしない。


「まあそのあたりの真実は私に知る術はありませんので……それではもう一つ、貴女が先程取られただ何だと言っていたその大きなベルトとそれにしっかり取り付けられたポーチですが…」


「こっこれは、その…」


「そのポーチ、マジックポーチですね?中の物が決して海水で汚れたりしない魔法が付与されている」

「…………そうよ」


「そのマジックポーチの中にありますよね?幽霊船が貴女の船を襲った理由が」

「どう言う事よ、それ…」


「言ったでしょう?幽霊船になった海賊は次にそのお宝を狙っている者の障害として立ち塞がると。つまり貴女の目的は最初から商人の船なんかじゃなくもっと危険な物だった」


「…………」


「馬鹿正直に募集内容を教えれば余計な情報を他の海賊にも教える事になる事を危険だと判断したのか。それとも単に新入りが誰も来ない事を案じたのか知りませんが……」


 私はアルビス船長のポーチを指差した。


「そのポーチの中身次第でほ、私が貴女をこの状況から救いましょう。その価値が貴女にあるかはポーチの中身が握っている」


 要はポーチの中身を見せろって話、それとずっと何か隠してんだろアンタ。もうさっさとそのあたりのことも話せよ~~っと私が言っているのだ。


「──────分かったわよ!見せれば良いんでしょう見せれば…」


 アルビス船長は堪忍したのか素直にポーチの中身を見せてくれた。ポーチからは1枚の地図を取り出した、どこかの島の地図か?古びた地図だな。


「これは?」

「…………『大海賊エルドアの財宝』それの在処を記した地図よ」


 大海賊エルドア、私でも知っている海賊だな。

 二百年程前に多くの国と海を荒らし回った大海賊だ、その溜め込んだ財宝は大国のそれに並ぶとさえ言われる。


 その大海賊は死ぬ間際に全ての財宝をどこかに隠したと言う話を聞いたが……。

 その財宝の在処を記した地図か、確かにそんな物があってもこの世界じゃ何もおかしくはない。


 私は冒険者になりたいとは思わないが冒険が嫌いな訳じゃない、いつだって物語の王道には冒険とロマンが存在する。人間は未知へと挑む壮大な冒険に心を躍らせる生き物なのだ。


 だからこう言う展開、嫌いではない!。


「つまり?貴女の狙いはその大海賊のお宝であると?」


「そうよ、その為に船員を増やしたのだけどまさかいきなり幽霊船なんてのが襲ってくるなんて予想外だったわ」


「持っているだけで幽霊船に襲われる地図ですか」

「そうよ、見方を変えればこれが本物の可能性がぐんと上がったとも考えられない?」


「そうですね、なら貴女は今後また同じ幽霊船に襲われた時の為の対策は何かありますか?」


「先ずは海賊団の立て直しと新しい船を準備する必要があるわ、そして船員は手練れを用意しなければならないわね」


「……それは何故ですか?」


「決まっているでしょう?わたしの海賊団を潰したあの連中を叩き潰す為よ。やられたら十倍にしてやり返すのが海賊の流儀なの」


「……………フッどうやら貴女には手を貸す価値があるようですね」


 アルビス船長、どうやらこの女海賊と組めば良い暇つぶしになりそうだと私は判断した。こう言う理不尽に対して泣き寝入りしない時点で好印象だ。


 幽霊船に襲われた後に速効でやり返すと言えるこのアルビス船長、私が人間だったころは殆ど見かける事がなくなっていた倍返し精神の持ち主の人間だ。こう言う若者にはなんとなく手を貸したくなるのも好印象の理由である。


 ………決して風呂上がりの髪や身体が少し湿っておる事にエロスを感じたからという訳ではない。


 

 




 

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