第6話 不潔は禁句
その後、不満を心に抱えながらの自己紹介とアルビス船長の現状について説明した。
「そんな、まさかわたしの海賊団が…全滅ですって!?」
「ええっこの島を見て回ったけど、砂浜には船の残骸の破片くらいしかなかっですよ。生き残った人間は船長だけです」
「…くっこんな新入りしか残ってないなんて…」
「こんなで悪かったですね?船も何もないなら船長もただの下っ端海賊と同類ですからね?それより今後どうしますアルビス船長?」
「しっ下っ端海賊と?ぐっ!どうすると言われても……」
そしてアルビス船長は辺りを見回す、当然近くをたまたま通り掛かる船なんてない。
それとアルビス船長も幽霊船に襲われた時の事を徐々に思い出してきたらしく、話を少し聞けた。
あの夜、やはり幽霊船からの強襲を受けたらしい。幽霊船は基本的に太陽が空にあるうちは海の底に沈んでいて、夜になると海上に浮上してくる。
そして獲物を求めて海を彷徨うのだが、その時に近くを船が通っているといきなり近くに海面から出て来るのだ。アルビス船長の船はまさにそんな感じの強襲だったらしい。
いきなり船が霧に包まれたと思ったら幽霊船が海面からドバァンッ!そしてガイコツやらゴーストな海賊達がドンドン船に上がり込んで来たらしい。
ゴーストなだけでもキモいのに心臓に悪い連中である。
「まさか幽霊船のモンスターがあそこまで強力だなんて、予想外だったわ……」
「まあ幽霊船の船員達は死んでいるから死を恐れない、痛みすら感じない連中です生半可な相手ではないですよ」
私の言葉は実際に戦ったアルビス船長自身がよく知ってるのか、彼女は天を仰いだ。
「ハァッそれにしても本当によく晴れてるわね、日差しが強くて嫌になるわ。こっちは飲み水すらままならないのに」
「そうですね……」
そう言いながら私はアイテムボックスから出したコップに魔法で出した水と氷を入れて冷水を作ってゴクゴクと飲んでいた。
隣では目を見開いたアルビス船長がいる、ん~~?どうかしたのかね?アルビス船長~~。
「どうかしましたか?ゴクゴク……」
「わっわざとやっているのよね?」
「………ふぅっええ、もちろん(ニコッ)」
「アンタ船長なめてるわよね!?」
喉の渇きとお腹が減っているからなのか、アルビス船長は海賊から蛮族へとクラスチェンジをしているらしい。
仕方ないので新しいコップと飲み水を出してやる、すると一心不乱に水を飲むアルビス船長。
しかしあまり水ばかり飲むのも身体に悪いだろうに、仕方ない。他の人間がいる場所に戻る前に話しておくか……。
「アルビス船長、1つ良いですか?」
「……ふうっ生き返ったわ!ありがとう。美味しかったわ、話?今は気分が良いから何でも話してちょうだい」
「貴女はもう何日も身体を洗っていないだろう?正直不潔なので1回風呂にはいってくれませ─」
アルビス船長が斬り掛かってきた。本当に女性は秋の空の様に態度とか機嫌がコロコロと変わるもんである。相手が疲れるまで付き合ったら直ぐにバテるアルビス船長。
その後アイテムボックスから足の付いた風呂を出した。地球の海外ホテルとかにありそうなヤツだ、それを出して更に魔法でお湯を出す。
「出来ましたよ、その風呂に入って下さい。その間に食べる物を用意しときますから」
「……アンタ、わたしに裸になれというの?」
さっきの不潔発言が尾を引いて
しかしここで言い争うのも時間の無駄だ、話は綺麗になってもらってご飯を食べてからにして欲しい。
だから私は魔法を使う。風呂の回りを石の壁で囲って見えないようにした。さらにシャンプーやリンスそれにボディーソープも用意する。
後は地面が砂なので足が汚れない様に防水マットを敷いた。これらも以前地上で生活していた時に喧嘩を売ってきた連中からカツアゲドロップした物である。
確か人間、戦闘用ゴーレム、魔導飛行艇とかで編成された百万近い大軍勢を率いて来た女軍人だったな。綺麗好きだったその女軍人が運べるお風呂セットを持ってきていたので軍勢をワンパンで壊滅させてお風呂セットを戴いたのだ。
女軍人?泣いて命乞いをしていたので見逃してやったよ。
そしてアルビス船長は風呂のある壁の向こうに消えた。これで少しは大丈夫だろう。
後は料理とかだが、私は料理なんてしない。アイテムボックスにある物を出すだけだ、今後はどっかの街とかで食い物は補充する様に心掛けたいと思う。
「テーブルと椅子も欲しいな、しかし砂浜では不安定か……なら魔法でなんとかするか」
魔法で半径五メートル程の円柱を少しだけニュッと出して砂浜から少し上くらいの高さまでだす。これで足場は安定したにな、後は白の丸テーブルとテーブルクロス、白いの椅子を出して準備完了。
………別に下がった株を気にして頑張っている訳ではない。むしろ今後はアルビス船長が私のご機嫌を取る様に仕向けるつもりである。
そう言えばアルビス船長の海賊装備、ズブ濡れだったな。仕方ない、魔法で彼女の海賊装備を乾かしてしまうか、後汚れとかも消してしまおう。
そしてアルビス船長が戻ってきた。
「…………お前、わたしの目を盗んで私の服を同じ物と取り替えただろう!返せ!私の腰のベルトとポーチを!今すぐ返せ!」
「ちーがーいーまーす!魔法で乾かしたんです!」
「ウソだ!私の服やコートはこんな新品じゃなかったぞ!」
「魔法で汚れも綺麗に落としただけです、きったない服を綺麗にしてあげたんですよ!」
「なっ!?わたしの服が汚いだとっ!?………八つ裂きにしてやる!」
なんて言葉を使うんだ、これだから海賊なんて連中は。直ぐにやいのやいのと騒がしくなるのも流石に疲れた、いいからさっさとご飯にするぞと言う事でその場を治めた。
そして料理を食べる肉と魚とサラダを皿に並べただけだがお腹を満たすのが1番の目的の私達にはこれで十分だ。
「……どれも新鮮な物を調理してあるわね、こんな島でどうやってこんな物を?」
「あの風呂や石の壁を見たでしょ?私は魔法が使えるので大抵の事はなんとかなるんです」
いい加減、この普通じゃない状況を理解して欲しい所なのだが。生来の神経の図太さなのかアルビス船長はモリモリと食い物を平らげていく。
あの細い身体の何処に食った物は消えていってるのだろうか、まあスタイルは良いので胸や尻にでも栄養はいっているんだろう。
「──ごちそうさま」
「ごちそうさま、それで?そのやたらと便利な魔法を使えるのに海賊なんてしている。得体が知れないアンタは何者なの?」
「私は海賊と言う者の職場体験をしにきただけの旅人ですよ」
「職場体験?何よそれ」
「えっと……要は暇つぶしですね」
「…………アンタね」
おっとアルビス船長がまた私を睨んできたな、だから何だと言う話だがこちらも喧嘩腰では話が前に進まない。ここはクールに行くとしよう。
「私の職場体験はともかく。それよりもアルビス船長は目下この無人島からどうやって人里に行くかを考えるべきですよね?」
「それは、そうだけど……」
「もう察しはついてるでしょうが、私にはここから出る手段も貴女を救う手段も……あります」
「!」
そこで私は椅子を立って海の方を見た。
こう言う無人島には、日本人だったころはなんとなし行ってみたくなった事が何度かあるな。
理由?とにかく人のいない場所に行ってみたくなる時が、当時の私にはあったんだよ。まあそれはどうでもいい。
「しかし、正直に言って。私にはアルビス船長をそこまでして助ける価値があるのか分かりません」
「…………何ですって?」
「アルビス船長。貴女を私が助けたとして。貴女はその対価に私に何をしてくれますか?」
私達は子供じゃない。何かを求めるなら見返りは当然の事、何よりアルビス船長を救うに値すると言う価値を見せてもらいたいのだ。
私はドラゴン、価値あるモノは大事にするタイプの存在である。それが『価値ある者』でも『価値ある物』でも気に入れば助ける事もやぶさかではない。
「簡単に言えば貴女の価値を私に見せてくれませんかっと言う事ですよ」
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