第5話 アルビス・オーシャンブルー
「全くなんてヤツらだ……」
時刻は既に太陽が昇っており、海にプカンと浮かんだ樽の上で胡座をかきながら私は憤慨していた。あの連中は本当に許せん、知らない事とはいえドラゴンである私を海に放り込むとは。
アルビス船長は何をしているんだ、部下の無能副船長が暴走しているぞ。お陰で私が大海原で漂流してしまったではないか!。
………まっ空を飛べる私には何の問題もない事ではあるがな、もしもまた生きて会ったら慰謝料を請求してやる。アウトローだろうとこの世界の法律も関係ない、私が被った迷惑分の慰謝料を力ずくでぶんどってくれるわ。
私は飛行魔法で空へ飛んだ。
高度をグングン上げてあのクソ海賊船をさがした。その為に朝まで待ったのだ……まあそれと漂流した事よりもひと眠りする事を優先したのも理由である。
少し前までずっとゴロゴロしていた私は日々ちゃんとした睡眠を取らなければ短気になってしまうのだ、だから安眠は職業体験の大前提である。サービス残業、自己犠牲の精神論なぞ全てお断りだ。反吐が出る。
「──さて?私を捨てたあの海賊船、無事なら良いのだが……」
空を高速で飛ぶことしばらく、約20キロ程か?そこそこ遠くに移動していたな。見えてきたぞ。
そこには私を海に放り出して航海を続けた薄情な海賊船の変わり果てた姿があった。
海にはバラバラになった船体の破片が浮かんでいる。
「やはり、
私が海に放り込まれた時、何も反撃をしなかったのには理由がある。実ははあの海賊船は幽霊船に狙われていたのだ。
私が残っていれば助けたかも知れないが、ボークとモブ海賊共の実に下らない真似をしてくれたお陰でそんな気分ではなくなった、そう言う所で身を助ける幸運というべき物を持ち合わせていない連中じゃどうせ海賊稼業で成功なんて無理だっただろう。
幽霊船は夜の闇と魔法の霧に隠れて海上の船を強襲する。船員は基本ガイコツ海賊とかゴースト海賊共だ、剣で倒せる雑魚ならともかくある程度強いゴーストは海賊が何人束になっても勝てないだろう。
そしてあの幽霊船にはそれなりに強力なゴーストがいたみたいだ、海賊達じゃ手も足も出なかったのだろう。
ドラゴンの私には夜の闇も魔法の霧も関係ない、幽霊船が海賊船を狙っているのは分かっていた、だから海賊船の未来をこの私をどう扱うかで海賊達に任せたら、まさかの樽に詰めて海にポーンだ。
やっぱり本当にざまぁ見ろとしか言えないな。
「この状況では生きている者はいないか、一応そこまで離れてない所に小さな無人島が幾つかあるにはあるが……」
やはり惜しいのはアルビス船長だな、アレだけの美人が死ぬなんて人間社会の損失である。
美人の命は海賊の命よりも遙かに重い、まあこれは持論だが世の男子は分かってくれるだろう。
……一応島を見てみるか、もしも生き残りが島に流れ着いていたら。その幸運に免じて助けてやらん事もないだろう。
但しボークだけは除く、ヤツなら海に放り込んでくれるわ!。
その後殆どの島を見て回るが、やはりそんな奇跡はゲームの中とかにしか起きないらしく生存者いなかった。
「まあ分かっていた事だがな……やはり、ん?」
最後の島に向かって飛んでいると砂浜の辺りに人影が……あった。
なんという事だ、本当にるとはな。やはり人間はゴキブリ並みにしぶとい生き物である。
私は一気に加速して島へと接近した。そして無人島の砂浜に着陸する。
直径数キロの無人島だ。白い砂浜には大きな岩が所々転がっている。そして島の中心には木々が生えていると言う無人島と聞いてイメージする島そのまんま。
まあ無人島なんてどうでもいい、砂浜に流れ着いたヤツを見ると更に私は驚いた。
「……アルビス船長か」
そうっ砂浜に流れ着いたのはなんとアルビス船長だったのだ。全身ズブ濡れのな。
何故か分からないが、宝くじでいい商品を当てたような高揚感を私は覚えた。
◇◇◇◇◇◇
「…………ん?」
「おはよう、アルビス船長。特に外傷はないから生きてはいるんだろう?」
私が声をかけるとアルビス船長はバッと起き上がった、戦い慣れしている人間の反応だ。
私と距離を取ると腰の曲剣を抜いて……こっちに向けて来たぞ。
「お前は誰だ!?ここは……わたしの船と部下をどうした!」
「…………」
マ~~ジかよコイツ……。
「……落ち着いて聞いて欲しい、いいか?私はアルビス船長、あ・な・たの船で海賊をしていた新入りですよ?」
確かに海賊船にはそれなりに多くの海賊がいたが、まさか顔を覚えてないどころか剣を向けてくるとは……流石は海賊船の船長ですねぇ、いい根性していますなアルビス船長?。
「え?……う~ん?そっそう言えば見た顔のような…」
「……まあ新入りだったので船上の掃除ばかりさせられていましたがね、と言うかこの格好を見れば分かるだろう?」
今の私の姿は完全な下っ端海賊である、このみすぼらしい姿を強制させた貴様が!まさか心当たりがないなどとは言うまいな、アルビス!。
「そうね、確かにその小汚い格好は…」
「全身ズブ濡れのくせによく人のことが言えますね?」
「くっそれならもう一つ教えなさい」
「……何をですか?」
「アッアンタの名前…」
もう……コイツを助けるの辞めようかな。
まあ人の顔を覚えてないヤツが名前を覚えてる訳もないけどさ~~~。
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