第4話 自重しないから……

「ボーク副船長、その豆鉄砲で脅す意味があるのは路地裏のゴロツキくらいですよ?そして私の物は私の物。子供でも自分の物と相手の物の区別は─」


「死ねっ!」


 バンバンッと銃声がなる、そして私の頭に銃弾当たる。すると銃弾はカツンと音がして床に転がった。


「……………へ?」


「だから………豆鉄砲じゃ脅しにもならんと言っただろうが話を聞けよ貴様」


 人間の姿なら銃火器が効くとでも?効くわけがないだろうが。まあ私がドラゴンであることなんてこのボークは知らんのであのあ然とした顔も無理のない事だろう。


  撃たれて平然としている私を前にボークは混乱したのか何故か更に攻勢に出た。


「なっ舐めんなよクソガキがーーーーーっ!」


 ボークの阿呆は銃を何度も発砲する、だからそれ今さっき効かなかったのを見てた筈なのだが……本当に学習能力がないのはお前だったなオッサン。


 さてっこの四十路過ぎて傲慢さに拍車が掛かったコイツをどう料理してやろうか?。


 私がそんな事を考えていると何やら外が騒がしい。一体何だろうか、私はその様子を探った。


「まっ不味い!海魔獣が現れたぞ!」

「なっここはそんなのが出る海流じゃないはずだぞ!?」

「俺が知るか!とにかくヤバい!みんなに知らせるだ!」

「わっわかった、俺が行く!」


 海魔獣?少し私はボークの部屋の窓を見た、コイツの部屋には外の様子が見える窓が普通についている。私の部屋には窓すらないのに。


 ……見えた。成る程な船からそう離れていない所に頭はサイ、身体はジュゴンみたいな実に凶悪そうなモンスターが現れたのだ。海賊達はアレを海魔獣と呼んでいるがヤツの名前はライノゼラス、海を航海する者にとってはまさに天災の類とされるモンスターだ。


 ヤツは海を渡る船をサイの様に突進して破壊するのだ。理由とか特にない、ぶっかるのが本能なのである。


 ちなみに海賊達の会話は耳を澄ませれば何処に居ても聞こえる、姿も視界を人間のそれから竜のそれにすれば透視も遠視も自由自在だ。だから見えたし聞こえた。


 まあライノゼラスについては普通に窓から見えたのだけだが。

 私は窓の方に近付く。


「くっ来るな!こっちに来るんじゃねぇ!」


「お前の方になんて近付いてもいないだろうが、パニックになるの大概にしろこの阿呆が」


「なっ!?この、副船長のオレ様に向かって」


「ハァッ少し静かにしろ。今から……馬鹿でも分かる力の差を見せてやる」


 私は窓を開けて人差し指をライノゼラスに向ける、ボークを一瞥するとヤツもライノゼラスの存在に気がついたのか顔が真っ青になっていた。


 ボークがそんな顔をするくらい、あのモンスターは危険なモンスターと言うことだ。

 私はそのモンスターに向けてテキトーな魔法を放った。


「──少し派手なのを見せてやるか」


 人差し指の先にピンポン球程の火の玉が現れた。それを発射する、ミニファイアーボールはビュンッ!とライノゼラスにすっ飛んで行く。


 すると突如そのミニファイアーボールが巨大化する、軽く十メートルを超えるビッグサイズになると船に接近しようとしたライノゼラスの上半身に直撃した。


「あっあああ……………」


 あ然とするボークのアゴが外れてるのでは?っと思う程に口が開いている。それも無理のない事だろう、何しろライノゼラスは黒煙を上げながら沈んでしまったからだ。


「さてっ馬鹿でも分かる問題を出してやる。お前の豆鉄砲と私の炎の魔弾……どちらが強大だ?」


 ニコリと笑顔を向けながら答えを待つ、ボークは座っていたイスから立ち上がり、後ろに後ずさると後ろの壁に背中をぶつけた。そして──。


「ほっほほほ本当に申し訳ありませんでしたーーーーーーっ!」


 それは実に綺麗な土下座を敢行した。流石は長く海賊なんてやっているオッサンだ、いざって時のプライドを捨てる速さは神速である。


 こんなのに見下されていたかと思うと心底不快だな、土下座の綺麗さくらいしか褒めるところのないアラフォー海賊め顔を地面につけて床ペロしてろ。


「これでどちらが馬鹿で雑魚なのか理解は出来たんだな?この雑魚が……」


 私は土下座するボークの頭を軽く踏んづけてグリグリして心身共にスッキリしてから部屋を後にした。


 その日の晩御飯は最高に美味かった、やはり上の人間が常に近くにいると言うのはアウトローな海賊でも大分ストレスになっていたのだろう。


 錬金ポッドで新鮮な肉を用意出来たのも大きい、まともで美味い食事は人を笑顔にするな。


 海賊達の食事は各々好きな場所で食べる、もっとも夜の船は明るい所も限られるので大半は自分の部屋だな。


 海賊船に食堂なんて気の利いた場所はない、ちなみにボークの姿は見かけなかった。


「…………ん?この肉、少し味が変じゃないか?」


「そうか?私には分からん」


 そんなたわいない会話をしながら晩御飯をいただく、ちなみに味が変なのはこの焼いただけの肉に調味料もないと言うのに妙な薬を盛っているからだろうな。


 恐らく眠り薬の類だろう、無論どこの誰の仕業かなんて考えるまでもない、まあドラゴンの私には何の効果もないのだが……やれやれ色々な事が分かってしまうのというのも時には困る。


 その日私は何事も無かったように就寝した。


 ……………そして時刻は深夜、丑三つ時かは知らんが多分そのくらいの時間である。


「オイッソイツは薬でおきないからさっさと運び出せ!」

「何で俺らが……」

「いいからやるぞ」


「「そぉーーれっ!」」


 眠り薬入り肉を食べた大半の海賊達は眠りこけている。私は寝たふりだがな。

 現れたのはボークと見張り番をしてた海賊二名、それと直属部下十数名か。


 コイツらはあの肉を食わなかったのだろうな、しかし昼ご飯の時は腐った肉を新鮮な肉に戻してやった面々ではある、まさか恩を仇にして返すとはな。


 やはり海賊とはマンガやゲームと違い、程度の低い人間の集まりと言う事らしい。アウトローも筋の1つくらい通すものだと思っていたが。


 内心失望した私は寝たふりを続ける、ボーク達は剣を抜いていたが襲って来ることはなかった。

 代わりに二回り大きな樽を用意していて、なんと、その中に私を押し込んだのだ。


 そして樽の蓋をされる。


「ハッハハハハハハハハハハハハハッ!このガキが!ちょっと魔法が使えるからと図に乗りやがって!ボーク副船長様を侮辱した罪をその樽の中で死に近付きながら後悔するが良い!」


「下っ端が調子に乗りすぎたな!」

「さっさと樽を捨てちまえ!」

「海賊の怖さを思い知ったか!」


 ボークの阿呆に合わせるように海賊達からの罵詈雑言が飛んでくる、そんだけ大きな声を出せばこっちが起きるとか考えないのだろうか?。


 そして何よりボーク、こんな回りくどい真似しか出来ないとは……そこまで私が怖かったか?まあ少し脅しすぎたとは私も思ったが、こう言う相手を攻撃する時まで姑息で陰険で小さなヤツほど言うことだけはデカいらしい。


 それとモンスターを瞬殺出来る魔法が使える人間を、自身のプライドだけを理由に排除しょうとするとは話にならない、人材は使ってこそ意味があると言う事を知らんのか。コイツには元から人の上に立つ立場とか無理があったのだろう。


 そもそも他の下っ端共も少しは私を庇え、そんなんだから海賊何ぞに──。


 ドッパァーーーンッ!


 私は樽ごと海に捨てられた。


 ───海賊に人の上もなにもあるわけないか、コイツらは他人の命を平然と奪える犯罪者だからなのだから。

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