第9話 酒場の喧嘩
アルビス船長の阿呆な宣言に酒場の海賊達は湧いた。日頃から女に縁の無い寂しい夜を過ごす面々である、まさに飛んで火に入る夏の虫的にアルビス船長を見る野郎達の目は大変汚らしい。
まあ彼女自身自らの見た目が優れている点を武器として利用しようとした結果がこの作戦である。
アルビス船長もそこまで頭が良くはないらしい。これは下っ端海賊として私が支える苦労が増えそうな予感である。
酒場の賑わう海賊達の中から一際図体が大きく頭の悪そうな大男が名乗りを上げた、すると海賊達はまるで事前に打ち合わせでもしていた様に勝手に酒場の木製のイスやテーブルを店の端にどかし始めた。店長の海賊は勝手に店の内装をイジられてムカついているぞ。
そして開けた円状の空間にアルビス船長と大男が向かい合う。
「俺の名はボッカス、勝てば本当に嬢ちゃんを好きにしていいんだな?」
「ふふっ勝てればね?」
どうやら本当に酒場のど真ん中で始めるらしい。確かにこんなシーン海賊が主役の映画で見たような記憶はあるが、見ると酒場の店長の海賊が心底嫌そうな顔でこちらを見ていた。
そしてお互いに腰の剣を抜いて勝負が始まる。
海賊なので木剣とかを使ったりはしない、当たり前の様に真剣だ。しかしあの巨漢はアルビス船長相手に剣だけで勝負するとは驚きである。
普通に手足のリーチを生かした武器とか持ってそうなのにヤツは自身の腕よりも短い剣を武器にしているらしい。
試合開始。お互いに剣を打ち合う。
アルビス船長の剣技は我流ながら場数を踏んでいるのか理に適った形をしている、大男の剣よりも明らかに技量が上回っていた。
更にお互いの剣を打ち合う、もしも剣以外もありならアルビス船長が不利になるが大男も剣のみで応戦している、海賊なりに勝負にはルールがあるらしい。
大男が普通に勝つと思っていた他の海賊達からヤジが飛び始めた。そのヤジに大男が思わず反応した一瞬の隙を突いてアルビス船長の剣が大男の剣を弾き飛ばした。
剣は酒場の壁に刺さった、酒場の店長が鬼の様な顔をしている。
「くっ!まさか俺様が女に……」
「舐めてくれてありがとう。お陰で無理なく勝てたわよ?」
大男怒りながらもすごすごと引き下がった、その後も何人かアルビス船長に挑む者が現れたが全てアルビス船長の勝利に終わった。アルビス船長は案外強かったようである。
そして酒場で散々暴れたアルビス船長は大満足で酒場を後にする。
「ふうっ!今日だけで大分実力をみせて勧誘も出来たわね?そろそろ時間も遅いし宿を探すわよ」
「………分かりました」
その背を睨むようにしている連中が何人かいたけどな。
時刻は海賊港も寝静まる時間である、私達は適当な宿屋で2人部屋を頼み休んでいた。
そしてしばらくすると?。
────ドガッ!
そこに扉を蹴破り、押し入る連中が現れたのだ。本当に海賊港は物騒である。
「ヤツらはどこだ!?探せ探せーー!」
「男は殺せ!女は連れて来いって命令だ!」
「昼間の借りを変えすってボスは言ってたぜ」
ハァッや~~ぱり昼間やられた連中の仲間か。
「おかしいわ、何で正々堂々と1対1での勝負で勝ったのにこんな真似をされるの?」
「それは勿論、海賊と言う連中が腕っぷしだけでアウトローを気取っている社会的地位もないのにプライドだけはいっちょ前な連中だからでしょうね」
そんなプライドだけの野郎連中が女性に真正面から負けたなんて認められる訳がない。
必ず負かした相手を始末するなりして証拠を隠滅する為に動くと思っていたよ。
ちなみに私達は宿屋の部屋の窓から外に出て魔法で飛んでいながらの会話である。中の連中は部屋を荒らしているが勿論私物なんてのは持って外に出ている。
「あっ!連中窓から外に出ているぞ!」
あっバレたか、ならばと魔法を操り空に飛んだまま移動を開始する。海賊には魔法を使える連中なんて1人もいないので弓矢を放ったり斧を適当にこちらに投げ始める。
見ると最初にアルビス船長に負かされた大男もいた。身体はデカいくせに人間がちっさい連中である、まあドラゴンの私からすれば人間なんてゴマ粒である、ちっさいに決まっていたな。
飛行魔法は発動するとバリアを私達の周囲に発生するで連中の攻撃なんて何の意味もない。
私は下のギャーギャーとずっとうるさい馬鹿共を無視してアルビス船長に話しかける。
「アルビス船長の作戦はものの見事に失敗ですね。1つ聞きますが海賊達を従えられたとして、船はどうするつもりだったんですか?」
「そんなの海賊港から適当に奪うか子分にした海賊から巻き上げればいいだけよ?」
本当にいい性格してる女海賊である。
「しかしアルビス船長の作戦は失敗しました、なら次は私の作戦を試して見ませんか?」
「アークの作戦?それで仲間や船が手に入るの?」
「確約は出来ませんが……戦力になる手練れの仲間と大きな船が手に入るでしょう、勿論アルビス船長次第ですけどね?」
アルビス船長は私を横目でチラリと見る、すると笑った。
「面白いじゃない、アンタの話に乗ってあげるわ」
「分かりました。なら後は下の連中を何とかしますね」
「出来るの?」
そりゃあ出来るとも、殺すだけなら簡単だドラゴンの姿にならなくても魔法1つで島を沈めるくらい訳もないのだ。
と言うわけで魔法を1つかましてやる。すると下の海賊達は苦悶の表情を浮かべながら地面を転がり回る。
「アッァアアーーーーーーッ!?」
「足が、俺の足が爆発するのか!?死ぬ程痛いぞ!?」
「痺れ過ぎて痛いぞーーーーーっ!」
とても苦しそうな海賊達。アルビス船長が私を見ながら質問した。
「……………一体どんな魔法を使ったの?」
「アレは私のオリジナル魔法『正座スパークペイン』です」
あの魔法は正座を2時間くらい強制された後の足の激痛を再現し、問答無用で歩くことすら出来なくさせる究極の苦痛魔法である。
特に足が長い外人連中には正座スパークペインは強烈に効くだろう。まるでこの世の終わりみたいな顔をして涙を流す海賊達には悲哀感すら感じた。
しかしアルビス船長はそんな不様を晒す海賊達をガン無視して話を始めた。
「それでその作戦って何なのかしら?」
「はいっ人間相手には私もコネがありませんが、それ以外の者達ならある程度の繋がりがありますので。その者達の世界に行って見ようかと」
アルビス船長が、は?っという顔をするが無視して私は懐から1つの黒い鍵を取り出した。
「この鍵を使えばとある場所に転移出来るんです」
「とある場所ってどこなの?」
「モンスターの世界です」
「…………………ハッ!?」
良い笑顔ですねアルビス船長。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます