第17話 幻夢
手術室の前には、司と樹・神野そして光明が居た。
ヘリで搬送された葵は直ぐに手術室へ運ばれた。
「紗羅・・俺の・・俺のせいだっ!!」
「・・・葵笑ってただろ?お前を守れて良かったって。お前がそんなに自分を責めてたら葵が悲しむ。」
司が光明に向かって言った。
「・・・・っあんたは!紗羅の事良くわかってるんだな・・。」
「・・・わかってないさ。お前よりな・・・」
司は寂しそうに笑った。
「時間が掛かってるな。」
神野が呟いたその時手術室から看護師が慌てた様子で出てきた。
「どうしたんだ?」
樹が不安そうに言った。
「何があった!?」
神野が看護師をつかまえて言った。
「それが、出血が酷くて血液が足りないんです!今血液センターに確認したんですがまだ時間が掛かるみたいで!」
「輸血用の血液のストックが無いのか!?」
「それが、世良さんの血液型がRh-のA型なんです。」
「Rh-!?」
「ですから、病院にストックが無くて。」
「・・・そんなっ!!どうにかならないのかっ?」
神野が看護師に詰め寄る。
その時何かを思い出したように立ち上がり光明が看護師に近づいた。
「俺の血を調べてくれ!!」
「何を言ってるんだ?」
「紗羅が昔言ってたんだ。自分の血液型は珍しいけど光明とおんなじなんて運命かもねって!」
「本当ですか!?」
「ああ。だから」
「すぐにお調べします。こちらへ!」
看護師に促され別室に入っていった。
手術室から医師が出てきた。
「先生!手術は?」
「動脈を損傷していて出血が酷かったですが桐生さんのおかげで無事終わりました。」
「じゃあ!!」
「ですが、危険な状態ではあります。後は世良さんの生命力次第です。」
「っつ、あおい・・・。」
********
葵は右も左もわからない真っ暗な所を歩いていた。
酷く疲れていた。
「ここは・・・。」
辺りを見回すが一面真っ暗闇だ。
ため息をついてその場に座り込む。
「もう、疲れた。」
顔を伏せてうずくまって目を閉じる。
「静かだな。」
このまま眠ってしまおう。そう思っていると気配を感じる。
顔を上げると、淡い光を放ちながら蝶が葵の周りを舞っていた。
「・・・・・。」
葵が手を伸ばすと指先に蝶がとまった。
数回羽を羽ばたかせると、フワリと舞い上がって飛んでいってしまう。
「ついてこいって言ってるの?」
立ち上がり蝶に付いていく。
すると大きな桜の樹があった。桜は満開でとても美しい。
葵が見とれていると桜の樹の側に優しい笑顔を浮かべた三人の男女が居る。
葵の顔がみるみる歪んで涙が溢れた。
「っつ、お父さんっ!お母さんっ!竜っ!!」
走り出していた。三人の元へ。
「お母さんっ!!」
女性に抱きついた。
「会いたかった!お母さんっ!お父さんもっ!竜にもっ!ずっとずっと会いたかった!!」
「お父さんのせいで辛い思いをさせたな?」
優しく頭をなでてくれる。
「そんなことないっ!お父さんのせいじゃない!」
「頑張ったわね。」
優しく抱きしめてくれる。
「お母さんっ!私、わたしっ!」
優しく涙を拭ってくれるが、後から後から溢れてくる。
「私頑張ったよっ!いっぱいいっぱい頑張った。だからもういいよね?お父さんとお母さんと竜の所に行ってもいいよねっ?」
「葵。お前は良く頑張った。本当に頑張ったよ。」
「竜っ!ごめんなさい。私のせいでっ・・。」
「いいんだ。自分をもう責めるな。」
「でもっ。」
大きな手が涙を拭う。
「これからは、一緒に居よう?お父さんとお母さんと竜と一緒に居たいっ!」
「それは駄目だよ。」
「どうして?お父さんっ?」
「お前にはまだすることが有るだろう?それにお前を大切に思っている人達が待っているよ?」
「・・・でも私には誰も救えなかった。」
「そんなことないわ。貴女は沢山の人を救ってきたでしょう?」
「お母さんっ!」
「さぁ、もう行きなさい。あの蝶に付いていくんだ。あの蝶は君の半身なんだからね。」
「・・・・。」
葵は俯いて深呼吸をした。
涙を拭って顔を上げる。
「お父さん・・・お母さん・・竜・・会いに来てくれてありがとう!私行くね、大切な人達が待ってくれてるから!」
笑顔でそう言うと振り向くことなく歩き出した。
その後ろ姿を三人は優しい笑顔でいつまでも見送っていた。
「あおい。」
司は葵の手を握り続けていた。
病室には樹、神野、光明も心配そうに葵を見つめていた。
「んっ・・・。」
「あおい?」
葵が目を開けると、そこには葵の大切な人達が居た。
「・・・・帰って、、きたんだ。」
「葵?」
司が心配そうに顔を覗きこんだ。
「みんなっ・・しんぱい、、かけてっ・・ごめんね?」
「葵!」
「っつ、俺先生呼んでくる!!」
神野が病室を飛び出していった。
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