第11話 離愁
『君が大切に思っているものなんて簡単に壊せるんだよ?』
穏やかな口調で残酷な言葉を言った光明。
(また、私のせいで大切な人が居なくなるなんて絶対に嫌。)
思い出すのは、竜さんの最期だ。
今も鮮明に脳裏に浮かぶ。
(・・・・っつ。私の幸せなんてっ・・・。司さん達を守れるなら私はどうなってもいい。今回は助ける事が出来る。もう、一人残されるのは辛すぎる。)
あの日味わった絶望感・虚無感どんなに後悔しても失ってしまってからでは遅いのだ。
記憶は無いがその感覚は間違いなく身体に刻まれていた。
「・・・い。葵?」
司さんに呼ばれてハッとする。
「あ・・・。何?」
「これから、樹の所に行くんだけど一緒に行こう?」
「・・・・。ごめんなさい、ちょっと気分が優れなくて。司さん行ってきて?」
「大丈夫か?」
「うん。少し休めば大丈夫だから。」
「・・・・。神野にでも来てもらうか?葵を一人には出来ないし。」
「本当に大丈夫。誰が来てもドアは開けないから。司さんは心配しすぎだよ?」
優しい手つきで頬を包まれる。
「そんな事ない。俺にとって葵は一番大切な人なんだ。」
「・・・・・。」
思わず涙が零れそうになる。
頬を包んでいる司さんの手にソッと触れる。
「ありがとう・・・。その気持ちだけで私は幸せ。」
結局、葵に押しきられて一人で出てきてしまった。
(葵の様子ちょっとおかしかったな。心ここに有らずって感じだったし。)
そう思っていると、樹の所に着いた。
(
受付を済ませ樹の執務室へ案内される。
「よぉー!来たな。どうだ?古巣は?」
「どうって、四年しかたってないんだから変わってないだろ?」
「はは!そうだな。昨日神野から話聞いたんだろ?」
「あぁ。」
「女の嫉妬は怖いなぁ~?」
相変わらず軽いな、ほんと仕事以外は。
「で、用件って何だよ?」
「・・・。お前、これからどうするつもりなんだ?」
「どうするって?」
「決まってるだろ!葵とだよ。このまま記憶が戻らなかったらどうする気なんだ?」
「そんなの・・・・。今は考えられない。」
「お前戻ってくる気はないか?
「何言ってるんだ?俺は辞めた人間だ戻れるわけないだろ。」
「・・・・葵には口止めされてたんだけどな、前から頼まれてたんだ。お前がいつでも戻れる様にしてやってくれって。」
「葵が!?そんな事を?」
「ああ。このまま葵と一緒に居るんだろ?だったらちゃんとした職につけ!お前が戻ってきてくれるなら俺も助かるしな!とにかく、ちゃんと考えてくれよ?」
マンションに戻ると葵はソファーで眠っていた。
(気分が優れないって言ってたな。最近眠れてないみたいだし。)
「なんで
寝顔を見ていると、葵の顔が歪む。
「はぁ・・・・だめ!・・・つかさ・・さん。」
(うなされてる?)
「あおい!あおいっ!」
肩を揺らすと、葵が目を覚ました。
「・・・・つかささん?」
「怖い夢を見たのか?」
「ゆめ・・・?あぁ、、、夢か。良かった。」
「大丈夫か?」
「あ、うん。だいじょうぶ。」
「ココアだ。落ち着くよ。」
カップを受け取って一口飲むと口の中に甘さが広がって少し落ち着く。
夢を見ていた。
竜さんの様に司さんが撃たれてしまう夢。
光明の言葉を思い出し、背筋がゾッとする。
(今度こそ守るんだ。大切な人を。この人を!)
「葵?何かあったのか?あったんだったら言ってくれ!俺はそんなに頼りないか?」
「そんな事ない!司さんはいつも守ってくれて、側に居てくれて。頼りなくなんかないよ?」
「だったら話してくれ!何があった?」
(話せるわけない。司さんは絶対に行くなって言うだろう。そうしたら・・・。)
先程見た夢を思い出す。
「・・・・ごめんなさい、体調が悪いからもう寝るね?」
「葵!!!」
寝室に行こうとすると腕を掴まれた。
「・・・・・。」
振り向き背伸びをして司さんに口づける。
「あ・・おい?」
「ごめんなさい・・・・。」
急いで寝室に入るとその場に崩れ落ちる。
「ふっ・・・うっ・・・。ごめんなさい。」
涙が後から後から溢れてくる。
声を殺して泣いた。
翌朝。
(結局一睡も出来なかった。)
様子を伺うようにドアを開けると、司さんはソファーで眠っていた。
そっと、毛布をかけてあげる。
「司さん。ごめんなさい。」
そう呟いて玄関のドアを閉める。
マンションから出ると黒塗りのリムジンが停まっていた。
後部座席から、ダークスーツを着た男性が降りてきた。
(この人が桐生光明?)
「紗羅待っていたよ。さぁ、行こうか?」
「・・・・本当に私が貴方の元に行けば司さんには何もしないんですよね?」
もう一度確認する。
「勿論。こちらからはね。」
後部座席に乗ろうとした瞬間、
「あおい!!!」
振り返ると階段の上に司さんが立っていた。
「司さん・・・!」
「葵!何処に行くんだ?戻ってこい!!」
「紗羅は自分の意思で俺の元に来る事を選んだんだ。諦めるんだな?」
「諦められるわけないだろ!!」
近付こうとした瞬間、光明は懐から拳銃を取り出すと司に向けた。
「やめて!!私が行けば何もしないって言ったじゃない!」
「邪魔をする様なら容赦はしない。」
酷く冷たい声が響く。
「そんな・・お願いやめて・・・。」
涙が溢れてくる。
「ふっ、ここは君の涙に免じて見逃してあげよう。さぁ、乗って?」
「・・・司さん、ごめんなさい。」
葵は力なく車に乗り込む。
光明は拳銃をしまうと後部座席のドアを閉めた。
「あおい!!行くな!!!」
司が車に走り寄って来るが
「おい、出せ。」
車は、葵と光明を乗せ走り去ってしまった。
「くそっ!!葵、どうして?」
司は拳をきつく握って呟いた。
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