第10話 決断

昼食を終え、二人で紅茶を飲んでいるとふいに玄関のチャイムが鳴った。


「誰だ?・・・葵はここに居て。」


コクリと頷く葵を見てモニターを見る。


「・・・・。」


ドアを開けるとそこには神野が居た。


「お前、どうしたんだ?」


「樹さんから話を聞いて、俺なりに調べたんだ。ほら、俺の方が色々と顔が利くだろ?」


「・・・まぁ、上がれよ。」


リビングに通すと葵が不安そうな顔をしていたが神野を見ると表情が和らいだ。


「この間はごめん!あんな事するつもりじゃなかったんだ。ただ心配で来たんだけど・・。」


葵に頭を下げて謝る。


「そんな、頭を上げて?大丈夫だから!でも、今日はどうしたの?」


この前はスーツ姿だったが今日はラフな格好をしていた。


「とにかく座れよ。ちょうどお茶してたんだ。お前も飲むだろ?」


「あぁ、ありがとう。」




「で?何かわかったのか?」


「ああ、刃桜会の会長の孫娘の事を知りたいんだろ?だったら、樹さんが調べるより俺の方が情報を手に入れやすいだろ?」


(神野さんが?)


不思議そうにしている葵に司が言った。


「こいつは、JINNO groupの社長なんだ。だから財界や政界なんかに顔が利く。もちろん裏社会にもな。」


「そう・・・なんですか。」


(若いのに凄い人なんだな。)


「まだ、継ぐつもりはなかったんだけど。色々あって・・・。今俺がこうしていられるのは葵と司さんのお陰なんだ。」


優しい眼差しを向けてくれた。


「・・・・・。それで?どうなんだ?」


「あぁ。その孫娘は最近、楓月会ふうげつかいの総帥『桐生光明』と見合いをしたらしい。」



(!!・・・。光明?確かあの時光明と一緒に桜を見ようって私は言ってた。)

葵は甦った光景を思い出していた。


楓月会ふうげつかいの総帥と?」


司は咄嗟に葵を見る。


(確か葵は楓月会ふうげつかいの総帥の事を調べてたんだよな?まさか、刃桜会の孫娘と見合いしてるとは・・・。)


「しかもその孫娘はかなりその総帥にご執心の様なんだ。まぁ、刃桜会の会長的には楓月会ふうげつかいと縁を作りたいんだと思うんだけどな。」


(ご執心か・・。桐生光明、一体葵とどんな関係があるんだ?)


チラリと葵を見るが葵は何かを考え込んでいる様だった。


「・・・・・。わかった。葵を拐おうとした理由はその辺にありそうだな。」


「俺もそう思う。何にせよ用心する事にこしたことはないと思うから葵の事頼むよ。」


「あぁ、わかった。」





神野を見送った後、葵が口を開いた。


「ごめんなさい、ちょっと疲れたので休んでも良いですか?」


「うん、顔色が良くない。ちょっとユックリした方がいいな。」


寝室に入るとベッドに腰掛ける。


(楓月会ふうげつかいの総帥が桐生光明?光明・・・。)


考え込んでいると葵のスマホが鳴った。


(誰だろう?)


「もしもし?」


?」


知らない男の人の声だった。


(紗羅?間違え電話かな?)


「あの、間違えじゃ・・・」


「間違えじゃないよ


「でも、私は紗羅じゃないですけど?」


だよ。君の本当の名前は『』なんかじゃない『』だ。」


「えっ?」


(どういうこと?世良葵じゃない?でも司さんや橘さん達は私の事を『葵』って・・・。)


「俺は光明だ。」


(光明?楓月会ふうげつかいの総帥っていう?)


「・・・・。」


「戸惑うのも解る。記憶が無いんだからね。」


「!!」


「あの日、俺はの事を迎えに行ったんだ。そこでちょっとしたトラブルがあってね。君は記憶を失ってしまったんだ。」


「・・・・。」


「君が居るべき場所はそこじゃない。俺の元においで?」


「・・・そんな事信じられるわけ・・。」


という名前は初めて聞く。でも、何故だろう?その名前を呼ばれると胸が締め付けられる様に痛んだ。


「そこに居たいと思うのはあいつ等が居るからか?なら、居なくなれば俺の元に来てくれるのかな?」


「何をいって・・・?」


「君を手に入れる為なら何だってする。君が大切に思っているものなんて俺には簡単に壊せるんだよ?」


「やめてっ!!!」


「君がおとなくし俺の元に来るならこちらからは何もしない。ただし、こちらに反発する様なら容赦はしない。力ずくで手に入れるまでだ!!」


「・・・・・。本当に?私が貴方の元に行けば司さん達には何もしないんですね?」


「ああ、約束しよう。」


「・・・・っつ、どうすればいいんですか?」


「明後日の朝に君のマンションの前まで迎えに行く。それまでに、別れを済ませておくんだね。」


「・・・っっ。」


「それじゃ、明後日。楽しみにしているよ。」


電話を切った葵は呆然としていた。


(司さん達を守る為には、私が行けば良いんだ・・・。でも、司さん・・・!)


どうしようもない気持ちを誰に告げる事も出来ずにただ自分自身を抱き締めた。

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