第7話 真白の追憶
「蟲どもが近づいてきたら、それで追い払うんじゃ小僧、儂は守りで手がいっぱいだからな」
「わ、わかりました」
前方を見るとおかま達が蟲どもを引き連れてこっちにやってきている。
ボディが真っ赤なバイクをおかまが運転して、花見月はバイクの上から追いかけてきた蟲どもにサブマシンガンをぶっ放していた。
「この、バイクいいわねぇー」
「そうですねぇぇえ!近づいてくんな!ゴキブリぃぃ!」
バイク上の花見月を襲い掛かろうとしたが、主婦の永遠の敵は花見月がサブマシンガンによってハチの巣にされた。
赤黒いヌメヌメとしたヤツの体液を気にする様子もなく花見月はサブマシンガンをまた結わいつけるとパーカーのポケットから手榴弾を取り出し、安全装置を引き抜き蟲どもに投げつけた。
「害虫は燃やすにかぎりますね!!リーダー! 」
「そうねぇ、そろそろバンに追いつくわぁん」
「了解です!」
その言葉と共に後ろの蟲どもは爆風に飲まれた。
バイクが近づくと花見月はこっちに飛び移ってきたがおかまはまだバイクの上だ。
「早くこっちに移ってくるのだ!リーダー!」
透少年は窓から身を乗り出している。
ノリノリの花見月に比べ、おかまは比較的落ち着いているようにみえる。
おかまはバイクからバンに飛び乗った、にわかには信じられないバランス感覚である。
バイクはそのまま直進しガードレールに当たって止まった。
これでバンにハンター達は全員乗ったことになる、つまりはルカさんのマーキュリーが打つことができるのだ。
真白さんはスナイパーライフルを構え、飛んでいる蟲どもを狙っている。
すでに飛んでる蟲は一匹になっていた。
真白さんが持つアサルトライフルの銃口から煙が立ち上り、最後の飛んでいる蟲は撃ち落とされた。
「殲滅した」
飛行型の蟲どもは一匹もいない、しかし他の蟲どもは血みどろになりながらもバンに突進してきている。
『
骨伝導イヤホンに透少年の指示が入る。透少年の指示は的確で軍師という感じがした、こんな幼い子供ですらここまで戦場で役に立てているのだ、自分も頑張らないと、
そう、
「了解です!」
ルカさんはスコープを必要ないと感じたのか、取り外すとフロンサイトで照準をあわせ、ヒシッと前方を見つめている。
蟲どもは徐々にスピードを上げてバンに近づいてくる。その様相は地獄から這いずりてきた異形の存在のようだった。
後、バンまでの距離残り200メートルというところで透少年は指示を出した。
『今なのだ!!』
「はいっ!!」
ルカさんの人差し指がトリガーに指をかけた、その瞬間、凄まじい速度の弾丸が銀の軌跡を残して蟲どもに発射された。
次々と薙ぎ倒される蟲どもはまさに蹂躙されているという表現が正しかった。
よく見るとルカさんは小刻みに動いて照準をずらしている。
「一弾一殺、彼女はそれができるのよぉん」
ダダダダッという銃弾の音に負けないようにおかまは声を張り上げて教えてくれた。
一弾一殺、それがどれほどの技量を要するのか自分には測り知ることことすら無理だった。
『彼女の前のコードネームは
骨伝導イヤホンから透少年の声が聞こえた。銃弾の音でところどころ聞こえない。
『でも今残っているのは大阪府、京都府、___、新潟、北海道、___なのだ。これはルカの前で狙撃の腕を絶対に褒めないこと、それはルカのトラウマなのだ…」
あまり聞き取れなかったがルカのトラウマに関することなので触れるなということだろうな……
「了解!!」
大きな声で返事をした、骨伝導イヤホンから『ならいいのだ』と聞こえた。
近づいてきたやつから血みどろにされ、蟲どもの体液が道路に撒き散らされその光景はさながら血の池地獄のようだった。
不意に銃声が止んだ。
「殲滅完了」
ルカはそう静かに告げると、マーキュリーのトリガーから手を離した。ルカさんはいつもの笑顔ではなく、ただ瞳に悲しみを滲ませた傷ついた表情をしている。
「よくやったのだ、あの…と、とりあえずトーチカに行くのだ!」
「そ、そうね、夜になるとまずいものねぇ」
ハンター達に少し気まずい空気が若干流れていることに気づいた。
「はぁ」
なんだか、ため息をついてしまいながら無惨に殺されている蟲どもを見ようとして後ろを振り向くとカブトムシの様な蟲が自分に向かって突進してきていた。
そいつの角は他の蟲どもの血で赤く染まっていた。
死ぬっ!
死を感じてまたしても
このままだとあのツノで体をひとつきされて死んでしまう。
そう理解した途端、右目が燃え上がる様に感じた。
瞬時に拳を作ると、ツノに合わせて殴りつけた。
その活動は生存本能からくるもので理性を交えないものであった。
一瞬の力の拮抗の後、カブトムシの様な蟲の全身甲殻が砕け散った。同時に反動で自分の拳も傷ついたが
「何かって、え?」
「く、砕いた?」
おかまと花見月の声が重なる。
その時、更なる脅威を感じた、
「殺られる前に殺る!!」
バンから飛び出すと、全速力でスライムに近づいた。
右の視界が紅い、
その真っ赤な視界の中でそのスライムは急速な進化を遂げていた。
あたりの蟲の死骸を喰らい尽くしどんどん大きくなっていく。
「はあーっっ!」
その肉塊の様なスライムに
拳はスライムの肉塊を抉った、しかしスライムはそんな事を気にする様子もなく蟲の死骸を回収している。
「無視してんじゃねぇぇ!!」
さらに右で蹴りを加える、蹴りはそいつの身体の中には吸い込まれてしまった。
「クソがっ!」
右足を引き抜こうとして、突然、右足の感覚が消えた。
理解するのに数瞬かかった、そう奴が回収していた蟲どもの甲殻が足を挟み切断してしまっていたのだ。
戦闘で意識が麻痺しているのか、激しい痛みはない、しかし右足を膝の上から切断されバランスを保てず蟲どもの体液によって作られた血の池地獄に倒れ込んだ。
死ぬ、ここで死ぬんだ……虚無感を感じた。
スライムが触手を自分に伸ばしてくるのが見えた。不可避だ。どうしようも無い。
どうして、こんなことになってしまっているんだろう、もう考えても仕方ないか…
死を覚悟して、生を諦めて、瞼を下ろそうとして
フッと思い浮かんだのは先輩の顔、今まで思い出すことができなかった先輩の横顔。
彼女は言った、「今夜は特に月が綺麗だね」と
ふっと湧き上がる感情は紅く
死なないっ!赤桐先輩を一人にしない!
下ろしかけた瞼が見開いた。深紅に輝く彼の瞳には近づいてくるスライムの触手が見えていた。
手を使い這いずることでギリギリ避けた。
「死なないッ!」
しかし、まだ触手は何本も近づいてくる。
真っ赤な視界の中からが活路を見出したのは血、
失われたはずの記憶は死を間近に甦っていた。
彼の隠された幼年期が血の契約と死というインパクトによって彼に戻って来ていた。
先輩のためにっっ!!僕はまだ死なない!
その想いが思い出させた。彼の隠された記憶を
彼の瞳が鮮血を思わせる深紅に輝く、
一瞬で右足から大量に出血していた血が止まった。
そして周囲の血で前とそっくりの義足を作られ、切れた右足に引っ付いた。
「死なないッ!」
彼は触手を無視して足元に広がる蟲達の血に触れた。
スライムの動きが止まった。何故か血の海と化していた大量の蟲どもの血がスライムに引きさせられていく…
どんどん膨張していく赤黒いスライム、その動きは大きくなると同時に苦しそうに悶えていた。
スライムにどんどん集まる血、ところで水風船に水を限界以上にいれたらどうなるだろうか?
水風船は弾けてしまうだろう。
全くもってその通りになった。
「死ねっ!」
スライムは最後にビクッと痙攣すると破裂した。
スライムは血を取り込みすぎて血でぱんぱんにさら弾け飛んだ。
さながら血の水風船といったところか…
雨のように降る血の中、にのつぎは自分の足を見つけた。
おもむろにそれを取ると右足の元の位置に戻した。血の義足が体に消えた代わりにその足は元通り引っ付いた。
「死んでたまるか…」
そう掠れた声で呟くと
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真白はスコープごしに
彼女は
先輩のためにっ!
その強い想いで、一色に染まっていく
「似ている」
そう、彼ににている。
目的は全然違うけど、何かが似ているのだ
金髪で使命感に燃えた、あの憎らしいくらい美形の男に似ている。
真白は
「無辜の人々のためにっ!!」
男は傷だらけで今にも倒れそうなのに意志の力でまだ剣を構えていた。対するはヴァンパイア…男はは苦戦していた。
「うるさいっ!」
飛んできた血の塊を避けると男はそいつに斬りかかった。
「はあーっ!」
男の剣はそいつには当たらなかったが、そいつの大事な何かにあたったらしい。
「おまえ、よくもやったな」
余裕ぶったソイツの声に怒りが見えた。
「俺は世界のためになんだってやるさ!」
「その青臭い意志を惨めに踏みつけてやるよ、シャトールージュ!切り裂け!!」
覗き見ていた自分には一瞬それが何かわからなかった。
赤い糸、ピアノさんのような細く鋭い板が部屋中に張り巡らされたのだ。
幾重にも張られた血の糸は動くたびに彼を傷ついていく。
自分には一歩を出す勇気が出ない、そのうち、彼は死を覚悟した賭けの自傷覚悟の突撃した。
彼の光り輝く剣がそいつの身体を掠めた、剣は空振りし床に突き刺さった。
致命的な隙
私はドアにへばりついていることしかできなかった。動けなかった。悔しさを噛み締めながらも動けなかった、私の大事なものは自分の命だったから…
彼、コードネーム
ゴロンと転がる彼の首、金髪は血で固まり見るに耐えないものだった。
突如、
スコープから目を離すと
彼は何かを知っているのかもしれない。
真白は
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「う……、誰?」
足元がふわふわする、そうかこれは夢なのか…
しばらくそこに立ち尽くしていると、がやってきた。
「やっと、思い出したのか…15年間長かったぞ」
普通のサラリーマンのような服装をしているが目が異常だ、両目とも紅い。
「誰…ですか?」
「おまえの兄さんだよ…そんな事も忘れたのか…」
兄さん?
兄さんと名乗るその男の顔を見ようとして、意識は暗転した。
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