第4話 電脳小学生 透

 しばらくして、その白衣を着た小学生はやけにメタリックなクマの頭を奥の扉から持ち出してきた。

よろよろと危なっかしい足どりをしている。

あのメタリックサンダースが小学生にとっては重いのだろうな。

「手、かそうか?」

「ありがとなのだ!」

 天使の様なはじける笑顔で感謝され気分が良くなり、小学生の手から自分の手にメタリックサンダースが移った瞬間、にのつぎは自分の腕にかかる重さにたじろぐこととなった。

「重っ」

 これ、小学生が持っていたのか?いやいやおかしいだろう35キロは超えている、確実に。この子もハンターの一人なのだろうそうとしか考えられない

「お兄ちゃん、大丈夫なのだ?」

 そう、心配そうに聞いてくる小学生に無理矢理、笑顔を作って大丈夫と言った、ハンターといえど流石に小学生に力で負けるのは沽券に関わる。腕がちぎれそうな予感がしながらもソファーに向けて歩こうとすると体のバランスが崩れて右に倒れそうになった。

「うわっ」

 前のめりに倒れるぎりぎりで右足を前に出しなんとか耐えた

危なかった、このクマ重すぎだろ!

 もう腕は限界だ、腕の筋肉がピクピク痙攣しているのを感じる。プライドと腕どっちをとるか…手伝うと言ったのをそろそろ後悔し始めていた。その状態を見かねたか赤髪の女の人が近づいてきてくれ、助けてくれた。

「はいはい、私が持っていくよー」

 そう言うと、ひょいっとメタリックサンダースを持ち上げた。それがはちゃめちゃに重いことを一瞬忘れかけるくらい軽そうに持ってソファーにぽいっと置いた。

「あ、ありがとうございます」

 肩に腕から繋がっている…良かった。腕が引きちぎれるかと思った。

「しっかりしてよ男子高校生、トライアなんでしょ?」

トライア?知らない単語だ専門用語だろうか?

「トライアってなんですか?」

その質問に小学生が教えてくれた。

「トライアって言うのは、ヴァンパイアでありながら人間側の味方をしている吸血鬼の事なのだ!そういえばお兄ちゃんは何の紋章を持ってるのだ?」

またまた、意味がわからない単語が出てきたな

「紋章?」

「え、紋章も知らないの?」

 赤髪が困惑している様だ、そんなにおかしい事だろうか?

「小僧、お前はまず吸血鬼か?儂には血の死霊の様に思えるのだが」

 爺の顔が険しい、しわくちゃな顔の眉間に深くしわが刻まれる。

「いや、人間ですよ。ここまでくる時に太陽を浴びていたのが証拠です!」

「…きな臭いわね、あなたルックスがよくてもあたしの目は誤魔化せないわよん」

 おねぇが近づいてきた、反射的に一歩は下がってしまう。

「な、なんですか?」

 おねぇは腕組みをして重々しい口調でふざけたことを言い出した。

「あたしを本気で殴ってね、殺すつもりでねぇ」

「え?」

 唐突に飛ぶ話題はまるでJKの会話のよう…そうか、このオネェは女子高校生型オネェなのか。オネェにもたくさん種類があるというどうでもいいどうでもいいことをにのつぎは知らされた。

「ほら、早くぅ」

 両腕で身体をガードしながら重々しい口調で催促してくるおねぇに若干の寒気を覚えつつ「わかりました」と伝えると、目を閉じて深い呼吸を繰り返し右目に感覚を集めた。右目がほんのり熱くなってくるのを感じ目を開けてみると、いつも見ている世界が少しスローになっている

 視界が異様に赤い

体温が徐々に上昇し、心拍数が極端に上がっていくのを感じる。

 身体の中の何かが徐々に上がっていき最高潮に達したところで流れるようににのつぎは右の腕を引いた。

「はぁーっ!」

 気合いの掛け声と共にガードしているおねぇのど真ん中に拳を打ち込んだ。おねぇは吹っ飛び壁に打ち付けられた派手な音を立てて壁が崩れていく。

 おねぇ大丈夫かなぁ

そんな心配が頭を掠めた時、視界がグニャと歪み猛烈な吐き気がした。突然の事に驚きの声を上げる間もなく地面に崩れ落ちた。

「大丈夫なのだ?」

小学生の心配そうな声が頭上から聞こえた。

 ちょっと大丈夫じゃないかも、と言おうとしたが声の代わりに出てきたのは血、乾きついた口内に鉄分の味が広がる。

「痛たたた、中々やるねぇ、狂狼ちゃんの満月の時の力がぐらい出てるわねぇ、ふふふっ、将来有望株よ、狂狼ちゃん、本部へこの子のコード申請しといて」

 おかまの声がした、壁が崩れるくらいの威力でぶっ飛ばされたのにその声は上気していた。

「一度の攻撃でばててるんじゃ、実戦投入は厳しいと思いますよ。リーダー?」

赤髪の声がした。リーダー?まさかあのおかまがリーダーなのか!?

「儂もそう思うな、一度でこれじゃな…」

「何言ってるのぉ、おじじボケちゃった?制約か代償、もしくはないとは思うけど戒律とかね…」

ダメだ、頭が朦朧として会話が頭に入ってこない。

しかし今ハンター達が自分の将来について話しているのは分かる

「確かになのだ、昼間でもタランサーや、毒蟲、外骨格系の変異種を一度の使い切り能力で切り抜けることは難しいと思うのだ!」

「それも、そうじゃが…」

 爺は何かを迷っている様だ、何を迷っているなだろうか?

「…自分が能力を使う」

 今まで聞いたことが無い声がした、涼やかな声だ。大人の女性って感じである。ちなみに赤髪はJKのような声をしている。

「真白姉ちゃん、大丈夫なのだ?神域以外で使うのはお勧めしないのだ」

「大丈夫だ、とおる

「わたしの聖域を代用すればいけます。リーダー塩をその少年の周りに撒いてください。」

 またまた新しい声だ、だけど思考が回らなくてどんな声かは説明できない、体全身が熱い40度の熱を出したかのようだ。

「塩?水銀じゃ無いのぉ?」

「術を行使するのが真白だからですよ、では私はこのトーチカの周辺に聖域をはります」

 そう、新しい声が言うとキィーンという少し神々しさを感じる高音が鳴った。背中に悪寒が走った神々しい高音はにのつぎには黒板を爪で引っ掻いたかのような音に聞こえていた。

「…私、ちょっと外で狩ってくるわ」

「儂も行こうとするかな」

 赤髪と爺はそう言って、そこからは声がしなくなった。多分外に出て行ったのだろうな。

「はぁーい、準備できたよぉん」

 おかまの声がした、どうやら自分の周りに塩を撒き終わったようだ。

「わかった」

 真白のそっけない返事と共に熱い自分の額にひんやりとした手が触れた。

 熱にうなされている時に氷嚢を額に乗せた時の気だるい安心感で体の緊張が取れていった。

「この子、記憶を失っている。分らない」

 ひんやりとした手が自分の額から離れた、気持ちよかったので残念だ。

「井場、本部へ連絡」

井場って誰だ?オネェのことか?

「わかったわぁん、その子の治癒はシーバーエンジェルの透くんと聖女の与羽ルカに任せておきなさぁい、白狐ちゃんはおじじと狂狼ちゃんの援護を任せるわ」

「了解」

「わかりました」

「わかったなのだ」  

 それから少し透とルカが会話していたが全く何を言っているかは聞き取れなかった。しばらくすると、右手にチクリとした痛みがしてにのつぎは意識を失った。


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「う、うん?」

 にのつぎはうっすらと目を開けた。

 ツルツルとした灰色の天井が見える。よし、一応言っておこう。

「知らない天井だ…」

 もはや、定番となったテンプレの寝起きの仕方だ

これが王道で他は邪道だと自分は思っている。

 そのまま、薄目を開けてボーっとしているとあの小学生、たしか名前はとおるの声がした。

「あ、お兄ちゃん起きたなのだ!具合は大丈夫なのだ?」

 無邪気な茶色の明るい瞳で視界の大半が埋まってしまった。

 顔近いな…小学生よ、ソーシャルディスタンスを知っているか?

「あ、うん、大丈夫そうかな」

 起き上がって見ると、関節の節々はギシギシと痛むが吐き気や熱は引いていた。誰が治療したのだろうか?寝かせられていたのはあのソファーだった、あの首無しサンダースがいたソファーのことだ。


 ソファに座って、透とポけモンの事で雑談をしていると奥の方の扉から修道女のような服装をして背中に大きな十字架を背負っている160くらいの身長の女性が出てきた。

「起きたのですね、おはようございます。」

 教会のシスターのような落ち着いた雰囲気を持っている女性だ、先輩ほどでは無いが目鼻立ちが整っていて美人である。

 非リアの男子なら一撃でハートを撃ち抜かれるだろう。

「あ、おはようございます、昨日はお騒がせしてすいません」

「いえいえ、別に気にしていませんよ」

 なんと!ハンターらしからぬ丁寧な応答、個人的にだけどおかまよりこの人の方がリーダーに向いていると思う。

「そう言っていただけるとありがたいです」

 大人な会話をしていると透が(速さと特攻の種族値が高いブイズの一体)サンダースのぬいぐるみをソファに置くと、「そう言えばなのだけど、自己紹介しようなのだ!」と言ってきた。

「そうだな、はじめまして、自分はにのつぎ 途守ともりです」

「始めまして私は与羽ルカです、コードネームは聖女、以後よろしくお願いします。」

 その落ち着いた声にちょっと感動した、ここのアグレッシブなハンター達は誰も「はじめまして」の定型を守らなかったからだ

「ちなみに僕は電脳天使の透なのだ!!」

 電脳天使というのは二つ名のようなものだろうか、厨二的で好みではある。その時、バンッという扉が開く音がしておかまが入ってきた。手にはなんだろう、赤い書類みたいなものを持っていて顔がニヤニヤしている。


 非常に嫌な予感がした

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