【縁変える月曜日】

 明くる月曜日。


 毎日自分を襲う“異変”に怯えつつも、さすがにそろそろ打ち止めじゃないか──と、淡い期待を抱きつつ登校したんだけど、甘かった。


 学校の最寄り駅まで電車に乗り、そこからは10分ばかり歩いて通うというのが、いつもの僕の通学路なんだけど……。


 「おっはよー、トモキ」


 駅から降りて改札口を出たとたん、見覚えのある女の子に妙に親し気に声をかけられたんだ。確か、隣のクラスの湯出ゆでさん、だったかな?


 「あ、うん、おはよう、乃亜のあ


 あれ、僕、この子の苗字はともかく名前なんて知ってたっけ。それに、ごく自然に名前で呼びかけちゃったけど……。


 「トモキさぁ、昨日ジパングテレビでやってたアレ観た?」


 けれど、湯出さん──乃亜の方も、別段気にしてない様子で、平然と話をフッてくる。


 「あ、もしかして10時からやってたアレ? うん、途中からだけど……」


 しかも、僕もなんとなく普通に会話につきあっちゃってるし。


 「やっふ~、ノア、トモキ!」


 今度は学校近くで同じクラスの山田さんが会話に入って来た!?


 「お、マーヤ、おっはー」

 「おはよう、真綾まあや


 山田さん──真綾の名前は、クラス名簿で見たことくらいはあったかもしれないけど、それでもハッキリ覚えてた自信はないのに、今ごく自然にするりと口から出ていた。

 その後も、心の中に「?」マークを目いっぱい抱えつつも、結果的に僕はふたりと楽しく会話しつつ、学校までの道のりを歩くことができちゃったんだ。


 そして、“それ”は登校途中だけじゃなかった。

 いざ教室に着いても、僕の席の周りにいつの間にか真綾や瀬理せり(有方さん)が寄って来て、とりとめもない雑談をしていく。


 ──ううん、正確には、僕もその中に混ざって、普通に受け答えしてるんだ。

 元々僕は、同性の男子とさえ会話を続けるのがあまり得意じゃなかったはずなのに、クラスメイトというだけで今までロクに話したことがないはずの彼女たちとのおしゃべりを、当たり前のように楽しんでいた。


 そう──楽しいんだ。たいして内容も意味もない、まさに「駄弁る」としか言いようのない会話を続けることが。


 そう自覚した途端、僕はこれが今日もたらされた“異変”なんだと気づいた。

 反射的に教室の前の方に視線を向けると、そこでは東雲くん(さん?)が、見覚えのある男友達ふたりと、ゲラゲラ笑いながら何か馬鹿話をしてるみたいだった。


 (あれ、あのふたりって……)


 とっさに名前が出てこない。


 (えーと、確か、同じクラスの、大鳳くんと、更科くん?)


 苗字は覚えていたけど、名前まではわからないなぁ……って!


 (! な、なんで!? クラスで一番親しい男子だったはずなのに)


 その時、かろうじて土曜日にふたりと遊んだ記憶を思い出して、蒼白になる。


 (もしかして、今日入れ替わったのは「交友関係」ってこと?)


 そう思い至ったとたん、僕の中に土曜日に「真綾や瀬理、乃愛たちとカラオケに行った時の記憶」が“甦って”きた。


 行きつけのカラオケボックスを4人で2時間借りたこと。

 自分は2番目にパフュの『ベビィ・クライ・ラブ』を原曲のキーで巧く歌えたこと。

 途中でオレンジジュースと間違って届いたカクテルを瀬理がひと口飲んでしまい、妙にハイテンションになってしまったこと。

 最後はTKBの『ハッピーローテーション』を4人でいっしょに踊ってみたら、思いのほか綺麗に揃って、なんだか嬉しかったこと。


 ──それらの「記憶」が確かな実感を伴って“思い出せ”てしまう。


 そしてそれと引き換えに、大鳳くんたちと遊んだという記憶が、ひどく曖昧になっていったんだ。


 (そ、そんな……嘘でしょ……)


 「え!? ちょっとどうしたのよ、トモキ?」

 「トモ、アンタ真っ青な顔してるけど、大丈夫?」


 急に蒼白になった僕の様子を心配して、真綾たちが色々気遣う言葉をかけてくれたけど、僕には「だ、大丈夫、ちょっと目まいがしただけだから。貧血かな?」と言い訳するのがやっとだった。

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