【安息なき日曜日】

 土曜の夜から日曜の朝にかけては、前日心身共に疲れ果てていたせいか、夢も見ない爽快な睡眠を心ゆくまで堪能することができた。


 8時半ごろに目が覚めて、部屋を見まわしてみたんだけど、昨日のままでとりたてて変化している様子は見受けられなかった。

 階下に降りて挨拶した父さんと母さんの様子も昨日と変わりはなさそうだ。

 それですっかり油断してたんだけど……。

 やっぱり「変化」は発生してたんだ。


 朝ごはんを食べたあと、僕は近所の本屋に行ってみることにした。

 本棚の娯楽本の類いはともかく、せめて参考書くらいは買い直そうと思ったんだ。


 「あ、この服可愛い♪ コッチのポーチもいいけど、自分で買うと高いんだろうなぁ……って、あれ?」


 けれど──気が付くと僕は、書店の片隅の女性向け雑誌のコーナーでファッション誌を立ち読みしてた。


 「駄目ダメ、今日は参考書を買いに来たんだから……」


 何とか当初の目的を思い出すと、後ろ髪を引かれる思いを振り切って、数学と英語の基礎向け参考書は選んで、レジに持っていく。

 でも、レジの前に『華と梅』の最新号が置いてあったのを見た途端、反射的にそれも手に取って、一緒に購入しちゃったんだ。


 その後も、真っすぐ家に帰るつもりだったのに、なぜか繁華街を歩いているうちに、ブティックやファンシーショップについつい興味を惹かれて、買う気もないのに色々見て回っちゃうし……。


 ようやく家に戻っても、お昼を食べる段になって、気が付いたら食パンに思い切りた~っぷりジャムを塗ってた。しかも、なぜかそれを美味しく感じちゃうんだ!


 (あんまり僕、甘過ぎるものって好きじゃなかったはずなのに)


 逆に、コーヒーは妙に苦く感じて、ミルクを大量に入れてカフェオレにしないと飲めなかったんだよね。


 「もしかして……」


 部屋に戻ると、僕は意を決して買ってきた『華と梅』最新号を手に取り、ページをめくる。


 ──おもしろい!

 昨日、本棚の少女マンガを試しに何冊かパラパラ開いてみたときは、まるで興味を惹かれなかったはずなのに、今日は全然感じ方が違うんだ。


 夢中になって最後まで読み終わってから、僕は独り言をつぶやいた。


 「ふぅ~、つまり、今日は私(僕)の“趣味嗜好”が変わったのね(変わったんだな)」


 念のため、本棚にある他の女の子向けラノベを見たり、スマホにダウンロードされてたアプリをプレイしてみたりしたんだけど、そのどれも十二分に楽しむことができたから、たぶんこの推測は間違いないだろう。


 「まぁ、これで部屋で暇がつぶせるのは助かったけど」


 でも、逆に言うと、今の僕は少年誌やギャルゲーを見てもつまらないと思ってしまうのかもしれない。

 さらに言えば、男性向けのグラビアやH本を目にしても……。


 それ以上考えるのは男としてのアイデンティが揺るがされるようで怖かったので、僕はあえて気づかないフリをして、3BSのソフト──ファンシーな擬人化どうぶつたちに向けて色々な服をデザインするゲームに熱中していったんだ。

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