【罪負いし火曜日】
キッカケは……たぶんだけど、ちょうど一週間前の火曜日。
僕が、彼女──東雲市歌さんに投げかけた言葉にあるんだと思う。
今、客観的にかつての僕、折原邦樹(おりはら・ともき)の言動を見返すと、「無神経でKYなガリ勉メガネくん」としか言いようがないと思う。
言い訳させてもらえるなら、僕は子供のころから運動音痴で体格もあまりよくない。ならばその分、頭脳面で頑張ろうと思って真面目に勉強や読書に励んでいるうちに、周囲からは「根暗」とか「無愛想」とか言われるようになっていた。
当然、あまり友達もできないから、ますます内にこもるようになって、さらに──という悪循環。唯一の救いは、それなりに成績が上がったことくらいだけど、それだって開●とか駒●を目指せるほどのものじゃない。
たぶん、僕自身、本心では自分の現状を決して肯定的にとらえていなかったと思う。
それなのに、ちっぽけなプライドにしがみついて、周囲のクラスメイト、とくに運動能力に秀でた(そして成績がイマイチだった)人へバカにしたような発言を繰り返していた。
誰だって、そんなヤツと友達になりたくないよね?
だから、僕はますますクラスで孤立し、ごくわずかな例外を除いて友人と呼べる人間さえいなくなっていったんだから──まったく、自業自得だ。
思えば、そんな僕にとっては、多少のからかい混じりでも気さくに声をかけてくれる、同じ小学校出身の東雲さんは、口を開けば互いに皮肉や悪口の応酬とは言え、数少ない「肩肘張らずにつきあえる相手」だったんだろうな。
あ、一応断っておくと、男女の恋愛めいた感情は互いに皆無だった。あくまで、ケンカ友達(と言えるかは微妙だけど)的ポジションってだけ。
ただ、ある意味、僕はそれに甘えすぎていたのかもしれない。
その日の放課後、部活の美術部での活動が終わって帰る時、同様にバレー部の練習を終えた東雲さんとバッタリ昇降口で顔を合わせることになった。
そこで、いつも通りの言い争い──ならよかったんだけど、もう覚えていないくらい些細な原因で虫の居所が悪かった僕は、彼女につい無神経なことを言っちゃったんだ。
具体的には、あまり洒落っ気のない東雲さんが、珍しく髪に可愛らしいカチューシャを着けて、いつもは外しているリボンタイをキチンと結んでいたのを鼻で笑った。
「そんなモン、キミに似合うわけないだろう。まったく、
──うん、今思い返しても、男として、いや人間として最低だよね。
それを聞いた彼女は、珍しく言い返して来ない……どころか、目に涙を浮かべてキッと僕を睨むと、走って校門から帰っていった。
その直後、彼女の友人から、その日の東雲さんは憧れていた男子バレー部の先輩に告白しようと目いっぱい気合を入れてたんだと聞かされて、さすがに罪悪感が沸いてきたんだけど……。
「ぼ、僕は悪くないぞ、正直な感想を言っただけなんだから!」
そう自分に言い訳しつつ、僕もそのまま逃げるように帰宅したんだ。
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