4

「ねえ、学前のアパートでここの学生が二人死んじゃったって話聞いた?」

 大学の校舎内、移動中に前のグループからそんな声が聞こえてきた。

「知ってる! 寺内さんと澤井さんでしょ、同じ一年の」

 一年、ってことは私とも同学年か。

「え、私知らない……! ねえ、その子たちどうして死んじゃったの?」

「自殺だって。服毒自殺」

 えー、と痛ましそうな声が上がる。

「私、この前グループワークで寺内さんと一緒になったよ。真面目ないい子だった」

 寺内さんはわからないけど、澤井さん、という名前には私も聞き覚えがある。確か……澤井梨々香さん。いつも可愛い服を着ていた、というくらいしか思い出せることがないけれど。

……何か、死にたいくらい辛いことがあったのかな。

 思わず俯いたところで、前の子たちは私の進行方向とは別のほうに曲がっていってしまった。

「ねえ、次の教室って四階で合ってるよね?」

「そうそう、四階の隅っこの教室!」

 もう別の話をしている。無情なようだけど、それほど接したことのない他人の死なんて、それくらいのものだ。私が死んでも、きっとそう。簡単に過去になっていく。

「……あっ、秋姫あき~! 一緒に教室行こ~!」

 視界の外から、知っている声に名前を呼ばれる。友達のすみだ。

「うん、いいよ。……花純は今日も元気だね」

「え~、そうかな? それ褒めてる?」

「褒めてるよ」

 花純と並んで歩いていく。きっと、教室に着いたら他の友達とも会うだろう。

 私たちの日常は、こうやって目まぐるしく変わっていく。二人の学生の死は、一瞬語られただけで、すぐ別の話題に取って代わられていく。私はそれがなんだか、少し虚しいような気がする。


 せめて二人の最期が、いいものだったならいいんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

1DKで心中を 角霧きのこ @k1n05

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ