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どさっ、と音を立てて、教室の椅子に座り込む。息を吐きながら眉間を押さえると、押さえた力の分だけじんじんと痛む。この痛み方をするのは、疲れ目か、睡眠不足のとき……いや、今の私には両方かも。
花純たちとカフェで過ごしてから一週間経って、私は膨大な量の課題に苦しめられていた。睡眠時間をギリギリまで削っても、まだ終わっていない課題が山積み。
……いけない。このままだと、顔が壊れてしまう。あんまり疲れていると、顔をつくり続けるのが難しくなってくる。じぃ、じぃ、じぃ、と低い耳鳴りがする。……うるさいな、警告されなくてもわかってるよ。
「美沙〜っ! お〜つかれっ!」
大きな声で呼ばれると同時に、左肩をばしんと叩かれる。……痛い。
「あ、花純……お疲れ〜」
痛みに対する苛立ちを何とか顔面の裏に隠して、声の主へ微笑みかける。
「あれ、どしたの? 疲れてる〜?」
「んー……実はちょっと課題がきつくて」
「そうなの? 大変だね〜、無理は禁物だよ」
つくりものの顔が、そう言ってくる。こういう薄っぺらい言葉にも慣れた。つくられた顔が言う、上辺だけだとわかる言葉たちにも、慣れないと生きていけない。
「ありがとう」
言葉を返すと、視野の端にこちらへやってくる三人の人影が映った。秋姫と、茉莉と、日向……いつものメンバーだ。
「お疲れ〜」
「え、今日からグループワークだったよね?」
「同じグループになれるといいね」
「それな! 知らない人と組むのちょっと緊張するし」
つくられた顔が、お喋りを続けていく。それに混じって、日向だけが、素顔で話している。
やっぱり、日向は顔をつくらない。つくらないのに、こうもみんなに違和感なく溶け込んで、上手く渡り歩いている。どうしてなの? それで、なんで上手くいくの?
「ね、美沙! 同じグループだといいね!」
花純がそう声をかけてくる。ああ、いけない、顔をつくらなきゃ。
「そうだね、知ってる人同士のほうがやりやすいもんね」
穏やかに微笑んで、みんなの話についていく。それが私の顔だから。私はそういう顔で、生きていってるんだから。
顔は案外壊れやすい。出来る限り大事に扱わなければならない。でも……周囲が同じように私を大事にしてくれるなんてことは、ない。
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