第一話 お祭り
引っ越してきてから少しが経った。
黄昏なのに、まったりとした暑さが漂っていたのが、たまに涼しい風が吹き抜けるようになってきていた。鳥居の側には真っ赤なヒガンバナを見るようになってきた。
ボロボロだった廃屋を三人で修繕し、丘の下にある商店街で日用品や食料を調達して暮らしていた。
「あんこ、次のご飯はなんだ」
引っ越してきてからはよく働くようになった元神、四宮凜が作業の合間にやってきた。
「今日は冷しゃぶです。まだまだ暑い日続いていますからね」
「おにく! たのしみ」
いつの間にか隣にいた舞子も嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねた。
そんな二人の幼女を優しい笑顔で見守るあんこ、いつもの光景になりつつあった。
「「「いただきまーす」」」
商店街の家具屋で新しく新調した机を三人で囲み、同じお皿をつつく。
「今日は何をしましたか」
食事中、恒例の報告会を始める。
「私は表の雑草を刈った。しかし、次々と生えてきてキリがないな」
やれやれとジェスチャーで伝えてくる凜。
「まいこは、おうちのおそうじと、おつかい!」
凜とは正反対に子供らしくきらきらとした笑顔で報告を済ませる舞子。あんこは思わず「えらいえらい」と頭を撫でる。
「私は、凜が雑草を刈ったあたりの土を耕し、行事のため神社の準備を手伝いに行きました」
「ぎょうじのため?」
舞子は首を傾げて凜を見る。最近わからないことがあるとすぐ凜にきいているようだ。
「ああ、神社でお祭りがあるんだ。次に刻の鐘が鳴った時かな」
「おまつり……!」
魅力的な単語に目を輝かせる舞子。次の発言は容易に想像できてしまったあんこはため息をつくと、望まれた答えを言った。
「お祭り、行きましょうか」
「やったぁ」
舞子は両手を上げて嬉しそうに体を揺らした。
「今まではあの末社で音を聞いているだけだったからな」
「ええ、そうですね」
舞子は二人の「昔話」に興味があったが聞けないままでいた。よく母親に質問のし過ぎで怒られたことを思い出してしまうから。
そのあとも他愛のない話は続いた。
「次の鐘が鳴るまでは自由時間にしましょうか」
「そうだな。祭りに備えて休むもよし。準備の様子を見に行くもよし」
「まいこ、じゅんび、みたい!」
「じゃあ私がついていこう。あんこは休んでいて良いぞ」
「では現地集合にしましょうか。集合場所は末社にしましょう」
食べ終えた食器を片付けるあんこに手を振り、凜と舞子は手を繋いで家を出た。
「お。舞子ちゃんと凜ちゃん」
商店街の八百屋さんをしている化け狸のおじさんに声をかけられ、二人は挨拶をした。
「悪いねぇ。今準備中でおっちゃんかまってやれなくて」
会場では大人たちがひっきりなしにウロウロしていて、とても忙しそうだった。
八百屋さんも大きな箱をいくつも抱えてわたわたとどこかに行ってしまった。
「みんな、じゅんび、たいへんそう」
「そうだな。いつもこんなに賑わっていたのか」
道の端に捌け、何もできずあたりを見渡す二人。
「あら、あなたたち、白狐の」
嫌な声を聞いた凜はびくりと体を震わせる。あんこを白狐と呼ぶ同業者だ。この人に会うのは、引っ越しの際に舞子を連れ神のもとへ訪れた時に出くわしたのが最後だった。
「ええ、あんこのところの人間の子供たちですが」
凜は威圧的に答えた。
「なんでこんなところへ? 鳥居の向こうに帰る気になったの?」
いつもの下品な笑い方で皮肉を言い放つ化け狐女。
「貴女のような怠慢を晒す巫女に会いに来たわけではないので」
凜は舞子の手を握り反対側の道へ走り去る。
まだ何か言葉を発したようだが凜は聞かなかったことにした。
慣れた足取りで走っていると、いつの間にかいつもの末社のもとへ来ていた。
「はぁはぁ……。舞子ちゃんごめん……。疲れただろう……」
「ううん、だいじょうぶ。りんちゃん」
ほとんど息の切れていない舞子は、座り込んでいる凜の側にしゃがみ頭を撫でた。
「まもってくれた、ありがと、まいこ、こわかった」
感謝を伝えると優しく抱き着き、顔を摺り寄せてきた。凜はそんな舞子に「大丈夫」と笑いかけた。
末社を包むように木々が覆いかぶさり、風がざわざわと音を立てる。遠くから鐘の音が聞こえたような気がした。
「あなたたち、人間の子供?」
突然二人の背後から声がして、凜は舞子を守るように振り返った。
そこには猫がいた。黒々とした毛が黄昏で黄金に煌めき、大きな瞳の黄金とともに暗がりから象られていた。
「君は?」
凜は端的に質問をした。猫は考えるようにしっぽをくるりと回転させ、とても優しい声色で答えた。
「大丈夫。あの狐たちみたいに悪いことはしない。君は長いことここにいるね」
足音を立てずゆっくりと近づいてくる黒猫。その瞳に吸い込まれ凜は身動きをとれないでいた。
「ねこちゃんだ」
凜の背後から、舞子がひょっこり顔を覗かせ、話し手の姿を視認する。
舞子の声で意識が戻ってきた凜は、舞子を片手で制止した。
「あの猫、私が神の時には一度も見たことがない。何かあるかもしれない」
舞子に聞こえるほどの小さな声で凜は注意を呼び掛けた。
猫は耳をぴくりと動かし、凜の忠告が聞こえていたかのように答えた。
「なんにもない。ただ人間のもとにしか現れないだけだよ」
初めて口を開き、にゃあと一鳴きした。
「あなたたち、こんなところに迷い込んで可哀想な子達なんだね」
ただそれだけ言うと満足したように猫は暗闇へUターンして消えていった。
「そんなところに座り込んでどうしたんです⁉」
入れ違うように集合場所へ走ってきたあんこは、地面にぺたりと座り込む二人を見つけ、慌てて駆け寄ってきた。
「すまない。色々あってな」
「くろいねこちゃん、いたの」
舞子は立ち上がりながら答えた。自分の服をぱぱっと払うと、凜に手を差し出した。
「ね。りんちゃん」
「あ、ああ。猫を追いかけてたらここについてな」
凜は舞子の手を掴み立ち上がる。
「そうなんですか? でもどうして……」
「いこう、あんこおねぇちゃん」
舞子は急かすようにあんこの手を引っ張った。あんこは不思議そうな顔をしていたが、凜も黙ってついてくるのでため息をついて、祭囃子のするほうへ向かった。
会場は先程のバタバタとはうってかわって、楽しそうに歩く人々で賑わいを見せていた。様々な動物の耳が生えた人々がリンゴ飴や唐揚げを片手に神社を自由に歩いていた。
「すごい!」
立ち並ぶ屋台と美味しそうな香りで舞子はぴょこぴょこ跳ねて喜んでいた。
「これは……すごいな」
凜も珍しく目を輝かせ、あんことつないでいた手をギュッと握った。
「私、お祭り初めてで、正直驚いている」
「そうだったんですか? 好きなだけ楽しんで下さい」
あんこは小さな巾着から財布を取り出した。
「今日はケチりません!」
「わあい」
舞子は辺りを見渡して、どの屋台にしようか選んでいた。舞子と手を繋いだ凜は、舞子とお話ししながらなにから食べるか相談していた。その二人の様子を後ろから見守るあんこは天敵の同業者が来ないかを警戒していた。
「そこの白の巫女」
急に話しかけられたあんこは声の主をきょろきょろと探した。
見かねた声の主はとことこと近寄り足にすり寄ってきた。黒猫だ。
「あ、猫さん。先程うちの子たちにお会いしたでしょう。何を話したんですか?」
あんこはしゃがみ黒猫を撫でる。ゴロゴロと喉を鳴らし、しばしされるがままになる黒猫。
「なに、ただの世間話だ。そんな疑うでない」
「そうですか……。ところで私には何の用事ですか? 神から伝言です?」
黒猫はふと我に帰ったようにぶるぶると体を震わせると、あんこの手の届かないところまで歩き、黄金の瞳であんこを見つめながら続きを話し始めた。
「そう伝言だ。『お前の仕えている少女が神から降りた以上、もうこちら側に居続けることはできない。従って、冬が終わるまでに少女を元の世界へ帰せ』とのことだ」
黒猫の通達にあんこは目を見開く。わかっていたつもりだった。神になるとはこの世界で戸籍をもらうようなことだった。戸籍を失った人間の少女はあちら側に返さねばならない。そしてそのサポートをするのが巫女の仕事。そんなことはわかっていた。あの嫌味な狐達が人間に冷たいのは情が湧かないようにするためだ。それもわかっていた。
「今は夏の終わりだ。タイムリミットはあちらの暦で言えば半年ほどだろうか。お前の初仕事やっと終わるかもしれないな」
黒猫は労わるようにあんこに優しくすり寄ったが、呆然としたまま動かないでいた。
「……いつまでそうしているつもりだ。ほれ、屋台を見て回った少女たちが帰ってきたぞ」
黒猫は慰めるようにポンと膝を肉球で触ると、とことこと木々の暗がりへ溶けていった。
「あんこ~。私はキュウリの漬物食べてみたいぞってあれ」
「こんどは、あんこおねぇちゃんが、ぺったんこしてるの」
呆然と座り込むあんこの傍らで舞子と凜は顔を見合わせた。
ハッとしたあんこは二人の顔を交互に見て、優しく笑った。
「すみません。ぼんやりしてました。凛さんはキュウリでいいですか?舞子さんは」
急いで立ち上がり服をはたくあんこに、凜は何か言いたそうな顔をしていた。
「あのあんこ」「まいこは、おめんほしいの!」
凜が驚いて舞子を見ると、幼い笑顔で笑いかけてきていた。その笑顔で察した凜は不安を一旦しまい込むと、また無邪気な笑顔に戻った。
「舞子さんはお面ですね。屋台の所まで案内してもらいましょうか」
「いーよー! いこうりんちゃん」
「うん。いこうか」
三人で仲良く手を繋ぐと、屋台が立ち並ぶ本道を歩く人ごみに紛れた。
「ちょっと奥のほうにお面屋さんがあって、その向かい側にキュウリ屋さんあった」
「わかりました。舞子さんは何のお面にするか決めていますか?」
「うふふ、ないしょ!」
舞子がニコニコしながら指を口にあて、シーっとしてくる。
「それより舞子ちゃん、食べたいものないの?」
「うーん。おにんぎょうかすてらと、わたあめ、たべたい」
「いいですね。お面買ったらかすてら屋さん行きましょうか」
黄昏の黄金に照らされる屋台と楽しそうな群衆がきらきらと輝いていた。屋台の奥の木々の隙間からヒガンバナの赤が覗けて華やかさに一役買っていた。
「ここ! おめんやさん」
「お! お嬢ちゃんたち、巫女さん連れてきたんか」
「八百屋さんじゃないですか!」
準備の時に見かけた八百屋さんは他の屋台に野菜を売って、自分は趣味のお面を売っていた。
「うん。おじさんおめんください」
外で大人と話すときの舞子はとてもはっきり喋る。凜はいつもしっかりしているなと褒めていた。
「おっし。例のやつだな」
販売用のお面が並んでいるところではなく、屋台の裏からのそのそとお面を取り出してきた。
「ちょうどいい感じに塗装が乾いたよ。舞子ちゃんナイスタイミングだな!」
おじさんの手に握られていたのは、白い狐のお面だった。販売用の所に並ぶ狐のお面はみな普通の狐の色で、白いお面は舞子がさっき屋台を探していた時におじさんに交渉して作ってもらっていたのだった。
「あんこおねぇちゃんのいろ!」
「そうだぞ~。舞子ちゃんに頼まれておじさん張り切って作っちゃったよ」
「え、特別に作っていただいたんですか?それならお代も倍払いますよ……!」
「いいよ~お代なんて」
屋台の奥から出てきたおばさんが微笑みながら声をかけてくれた。
「あんこちゃん、神社を出てから頑張ってるでしょう。うちもいつも贔屓してもらっちゃって。いいのよお面くらい」
「うちのケチなばあさんがそこまで言うんだからもらってけ~」
奥さんにそこそこ強めに背中を叩かれた八百屋のおじさんは、がははと豪快に笑いながら、舞子にお面を渡した。
「おじさん、おばさん、ありがとうございます」
お面を抱きかかえた舞子は大きい声でお礼を言うと、とても深くお辞儀をした。
「ありがとうございます」
凜も舞子の隣で深くお辞儀をした。
あんこは二人に倣ってお礼を言いながら、二人の背中を見ていた。
小学二年生くらいの背中にしては、とても大きく見えた。
「次はどこにしますか?」
キュウリを食べ、三人でカステラを分け合い、綿菓子を頬張っている二人にあんこは声をかけた。
「まいこ、しょっぱいもの、たべたいかも」
「私はあの串焼きの肉が食いたい」
「じゃあ今度はそれわけっこしましょうか」
「えへへ、まいこ、わけっこ、すき」
串焼き肉を買い、三人で一個ずつお肉を頬張って歩いていると、
「お!白巫女ちゃんとこの!」
と急に声をかけられた。
「あ、家具屋さん!」
机や棚など家具を新調するときにお世話になった家具屋さんの化け猫のお兄さんが屋台をやっていた。
「かぐやさんは、なにやさんしてますか?」
「うちはヨーヨー掬いだよ~。見本品のビニールプールで毎年やっているんだ~」
いわれてみれば確かにお店に行ったとき一番目立つところにあったビニールプールだった。激しすぎるピンクと青の色は日のオレンジに晒され淡い色に変わっていた。
「それより舞子ちゃんのお面可愛いねぇ。珍しい色の狐さんだ。狸のおじちゃんに見繕ってもらったの?」
「うん。まいこがおねがいしてつくってもらったんだ」
「いいね。あんこさんとおんなじ色だ。よく似合ってるよ」
えへへと恥ずかしそうに笑う舞子の隣で、目を輝かせながらヨーヨーを見つめる凜。
「あの、これどうやったらもらえるんですか?」
「凜ちゃんヨーヨー欲しいの。いいよやり方教えてあげる」
そういうと、腰に付けたカバンから、紙紐の先に小さな針金のついたものを取り出し、凜と舞子とあんこに配った。
「私もいいんですか?」
「勿論。よぉくみておいてね」
お兄さんは、自分の紙紐を取り出すと、くるくる泳いでいるヨーヨーを見定め始めた。
「ヨーヨーにはゴムが付いていて、そのわっかにこの針金をひっかけて持ち上げるんだよ。だからまずはよぉくヨーヨーをみて、取れやすそうなのを探すんだ」
ほらこれ、と指をさす先には、ほかのヨーヨーに引っかかり身動きが取れなくなっているが、ゴム紐は水の流れに流されわっかの部分が浮き上がってきているヨーヨーがあった。
「この紙紐は水に長くつけていると脆くなってしまう。けれど流れに乗っているヨーヨーは引っ張る力が強く紐が耐えきれない。こういう丁度良いのを見つけたら……」
慣れた手つきでひゅっと一瞬水に紐をつけると、素早く針金を通し、サッと持ち上げた。
吊り上げられたヨーヨーは為すすべなく、お兄さんの手中に吸い込まれていった。
「いっちょ上がりってね。こうやって掬うんだ。やってご覧」
目をキラキラさせていた三人は、真似して泳いでいるヨーヨーを見ていた。派手な赤色の風船、パステルな水色とピンクの可愛い風船、緑と黄色の癒される風船……。三人はさっきまでのアドバイスなど忘れて、色とりどりの風船に魅入っていた。
「じゃあ私から……」
あんこはオレンジ色のグラデーションが綺麗な風船に狙いを定め、ゴムの動きを見つめていた。水の流れに合わせ、浮かんだり沈んだりを繰り返すゴムの輪に翻弄される。
「ここっ!」
輪が浮いた瞬間を狙って紐を水中に沈めたが、勢いが良すぎて水の流れが変わり、紐を避けるように輪が逃げてしまう。
「あ、ちょっと!」
慌てて探るように紐を動かし、水中で輪を追い回してしまう。
やっと針金に輪が収まり、嬉しそうに持ち上げると、針金が水中から出る前に紐が千切れてしまった。
「あれ……?」
手に残った紙紐の一部を見て、呆然とするあんこをみて、凜と舞子はクスクスと笑った。
「もう。笑わないでください」
恥ずかしそうに、袖で顔を隠しながら、プールの横から捌けた。
「あんこさんは残念でしたね。じゃあ次凜ちゃんやってみる?」
お兄さんの言葉に、真剣な顔で頷く凜。
凜が狙いを定めるのはさっきあんこが狙っていたオレンジ色の風船だった。
「おんなじのでいいの?」
お兄さんが尋ねると、凜はこくりと頷いた。
「私もこれ狙ってたんです」
凜は慎重に手を近づけ、あんこのように勢いよく手が入らないよう、水面ぎりぎりで時を待つ。
程よく輪が上がってきたところで、ぽとんと水中に針金を沈め、輪をひっかけようとするがうまくハマらない。水の流れで揺れる輪と針金を思ったように動かすのはとても難しく、少しでも大きな動きをすると、紙紐に水がしみ込んでしまう。
輪の側で針金をうだうださせていると、やっと輪が自分から針金に飛び込んできてくれた。
「よしっ」
凜は抑えていた分力いっぱい引き上げると、ヨーヨーが水面から上がる直前にばつんっと紐が千切れてしまった。
「「「あっ!」」」
三人同時に感嘆の声を上げてしまう。さらに、少し位置がずれた風船は、水の流れにゆらゆらと流され、ほかの水風船が溜まっている、流れが淀んだ所へ入っていってしまった。
「あらま。取りづらくなっちゃったね。舞子ちゃんもこれがいいなら場所ずらすよ」
お兄さんが心配そうな顔で舞子を見ると、舞子は首をブンブン横に振った。
「まいこ、このまま、これとる」
ぐっと手に力を入れた舞子は、とても真剣な顔で紐をゆっくり水面に近づける。
いろんな風船の間に隠れてしまったゴムの輪を見極めるが、水の流れがうまく入り込んでいないため、沈んだまま浮き上がってこない。
舞子はじっとどうするかを考えていた。その気迫に驚いてお兄さんも声をかけられないでいた。
すうぅっと大きく息を吸った舞子は、キリっとした目で、スッと水中に紐を滑り込ませ、水底に沈むゴムを優しく掬い取り、最短で引き揚げた。
「えいっ」
舞子が優しく引っ張り上げると、飛び込むようにふわりとヨーヨーが浮きあがり、舞子の手の中にすっぽり収まった。
「わぁ!」
「ま、舞子ちゃんすごい‼」「舞子さんお上手です……!」「え、すごいなぁ……」
凜とあんこは舞子を撫でまわし、お兄さんもびっくりした顔で舞子を見ていた。
「舞子ちゃんめちゃくちゃ上手だね。お兄さんより上手かも」
「えっへん! ありがとう」
舞子はドヤ顔で水風船を掲げていた。
オレンジ色の風船は、黄昏の町にそっくりで、とても綺麗だった。
「えへへ、たのしかった」
白い狐のお面をつけた舞子はオレンジ色のヨーヨーをゆらゆらさせ、凜とあんことつないでいる手をぶんぶん振り回していた。
お土産に買ったキュウリが三本入った袋をくるくる回しながら軽い足取りで歩く凜も、あんころ餅を久々に買い込んでほくほくになるあんこも舞子の言葉に心の中で同意していた。
三人の背後では入道雲がゆっくりと大きくなっていた。
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