第35話◇楽園部隊




 蒼翼竜族のみんなは既に死の病に罹っている。

 今はまだ動き回れるが、このままでは数週間で死んでしまうのだという。


 楽園に所属する蒼翼竜族の者たちは、例の八人の帰還時にそれを祝うために部族で集まっていたので、病に罹る前に隔離する、という策もとれない。


 病を治療するのに必要な霊薬エリクサーは、うちには三つしか無い。

 世界中駆けずり回って集めることも出来ない。


 何故ならば、聖騎士団が既に集め終えているからだ。


 だから、方法は一つ。


 仲間を救うために、聖騎士団から盗み出すしかない。

 正確には、奪い取るしかない。


 そのための作戦会議を行った。

 話の前提を共有し終えたあと、声を上げる者がいた。


「あ、あのっ!」


 『己の肉体から、別の物質を生み出す』異能スキルを持つ少女、モルテだ。


 彼女はとある盗賊団に捕らえられ、その力を無理やり使わされていた。

 助け出した時は酷い姿だったが、今では金の髪も翡翠の瞳も輝きを取り戻し、肌も健康さを取り戻し、つやめいている。


 今いるメンバーを集めろと言ったので、メイド長のシュノンが彼女も連れてきたようだ。


 人数が人数なのと、種族も様々なので、会議は庭で行った。

 月明かりで充分周囲は見渡せるが、何名かが光属性の魔法などで周辺を照らしている。


「モルテか、どうした?」


「わ、わたしの異能スキルなら、霊薬エリクサー? も生み出せると思い、ますっ……」


 彼女の能力は極めて珍しく、希少度を無視してものを生み出すことが出来る。


 盗賊団の連中は金貨を生ませていたようだが、魔法アイテムを生むことも可能なのだ。


 ――生み出した物質と同量の重さが、肉体から失われる。

 ――本人が実際に触れたことのあるものしか生み出すことが出来ない。


 という条件があるが、霊薬エリクサーは少量で効果を発揮する液体であり、かつ俺達は実物も所有しているので、今の彼女ならば生成可能。


 だが。


「気持ちはとても嬉しいが、まだ本調子じゃないだろう? 折角体重が戻ってきたところなんだ、今無理をさせる気はないよ」


 異能スキルの使用を無理強いされていた彼女は、救出時には骨に皮が張り付いているだけといった姿だった。

 最近、ほんの少し肉がついてきたところなのだ。


 そんな状態の少女に、再び身を削って何かを作られるわけにはいかない。


「で、でも……!」


 食い下がろうとするモルテに、蒼翼竜族の姫クエレが優しく声を掛ける。


「ありがとうね、モルちゃん。でも、一族うちのみんなを助けようとしたら、モルちゃんが倒れちゃうよ」


 蒼翼竜族は、今楽園に三十四人もいるのだ。そして、感染した病はかつてとある竜種を滅ぼしたとされるもの。


 この楽園には竜もいる。

 そいつらに感染した可能性も考えると、必要な霊薬エリクサーの数は四十でも足りない。


 いかに一回分が少量とはいっても、小柄かつまだまだ細いモルテに、それだけの霊薬エリクサーを生成させたら、とてもではないが生きていられないだろう。


「……でも、わたしも何か――」


 モルテは恩返しをしたい一心なのかもしれない。

 その気持ちはありがたい。


「みんなを助けるために、モルテが倒れたら意味がない。蒼翼竜族も、モルテも、同じくらい大事な仲間なんだからな」


 仲間という言葉が自分から自然に出てくるとは、五年前からは想像もできないことだ。


 興味を持ったきっかけは種族や能力の希少度だとしても、一度知り合ってしまえば意思疎通のできる存在なのだ。


 もののように扱うことは出来ない。


 俺の発言に、蒼翼竜族の連中が涙ぐんだり大泣きしたりし始めたので、俺はなんだか気恥ずかしくなる。


「ロウ様の言う通りです。みんなの役に立ちたい気持ちは立派ですが、まずモルテちゃん自身を大切に思ってあげてくださいね」


 シュノンがモルテの頭をそっと撫でる。


 今回は断ったが、モルテが健康体に戻り、なんなら少し肉がついたくらいになれば、霊薬エリクサーを生成してもらうのは大助かりだ。


 普通なら取り返しのつかない負傷や重病も、癒せるのだから。

 彼女の恩返ししたいという気持ちは、その時のためにまだ取っておいてもらおう。


あるじ殿から説明があったように、聖騎士団と正面から衝突することになった。これまで奴らを壊滅させられなかったことから、我々にとっても奴らが脅威であることは間違いない。だが、仲間の命の危機は見過ごせない。我らがあるじと共に、騎士団を打倒するぞ!」


 マーナルムが叫び、血の気の多い連中が呼応するように雄叫びを上げる。

 やる気があるのはいいことだ。


「ハーティの視た未来を聞く限り、大勢で押しかけるのは得策じゃないようだ。敵は前回の失敗から学んで、対空異能スキルを持つ騎士を用意している」


 俺は、ハーティから聞いた未来を思い出しながら話す。


 空から攻めるのは、この世界的にはかなり有効な策だ。

 だからこそ、敵もそれを理解して対策を講じたのだろう。


 そして、敵には広域殲滅の魔法を扱える者もいる。

 巻き込む一般市民がいなくなれば、容赦なく発動してくるだろう。


「最も成功率の高い未来は、少数での突入だ。そのメンバーをこれから発表する」


 仲間を色々集めておいてなんだが、ちゃんと説明しておかないと勝手について来ようとしたり拗ねたりする者もいるので、これは必要な会議なのだ。


 情報の共有、というやつである。


 白銀狼族の従者、マーナルム。

 蒼翼竜族の姫、クエレ。

 聖獣、リアン。

 不死の傭兵、ブラン。


 などなど、頼れる仲間の中から、今回の作戦の成功率を上げるためのメンバーを選出。


 全員が、作戦への参加を承諾してくれた。


「この作戦だが、もちろん俺も行く」


 みんなには話していないが、俺が参加しない未来だと、極端に成功率が下がるのだという。


 そして、これもハーティには口止めしたのだが……。


 俺が参加する未来では、俺が――死ぬ分岐もあるようだ。


 それだけシュラッドが厄介な存在、ということだろう。

 だが幸いにも、こちらには頼れる仲間と、未来視がついている。


 徹底的に、成功率を上げさせてもらう。

 それに、未来視がなくとも俺は作戦に参加するつもりだった。


 聖騎士の連中め、俺の蒐集しあつめた仲間に手を出したばかりか、死の病を押し付けるとは。


 少々、頭にきている。


 確かに、俺は貴族時代から、魔法の才能も剣の才能もほどほどで、前世も戦闘系ではなかったが。

 戦えないとは言っていない。


「聖騎士団を襲撃し、霊薬エリクサーを全て奪う。いいな?」


 なんだか言ってて悪党みたいなセリフだが、仲間を治療するためだ。


 ただ希少な存在を探して回っているだけだというのに、どうしてこんなことになるのか。


 まぁいい。


 シュラッドを倒せば、少しは聖騎士団も大人しくなるかもしれない。


 それに、今回は今回で、蒐集するものがある、、、、、、、、、

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