第29話◇蒼翼竜族のみんなを助けよう
クエレの話はまとめると、こういうことらしかった。
蒼翼竜族の奴隷が、とある貴族の家にいるとの情報を掴んだ。
クエレの部族の者達は救出に向かい、これに成功。
だが脱出時に聖騎士団と遭遇。
救出に向かったメンバーは、一人を除いて全員捕らえられてしまった。
というより、敵は敢えて一人だけ見逃したようだ。
実際、唯一の帰還者は、聖騎士団からのメッセージを聞いていた。
――賊は三日後に処刑する。楽園を名乗る集団が本当に仲間を見捨てないというのならば、助けに来るがいい。
……随分とご立腹みたいだな。
聖騎士団は、前世持ちの貴族を中心に構成されている。
そして、貴族などの特別な血統でないものが
マーナルムの妹の時のように、有用な能力の持ち主の場合は監禁して利用することもあるようだが。
そういった
その初戦が、マーナルムの妹ハーティ奪還である。
以降も何度か激突しており、奴らからすれば楽園は邪魔な存在。
今回は蒼翼竜族のみんなを捕らえて処刑を告知、こちらの仲間意識を利用し、他の戦力も誘き出そうとしているのだ。
そうなると、貴族に捕まっていた奴隷の情報は、囮か。
「……待て、その者達はハーティに未来を聞かなかったのか?」
マーナルムが怪訝な顔になって尋ねる。
ハーティの未来視があれば、敵に襲撃される可能性も読めたのではないか、ということだろう。
「うち、みんなバカだから」
クエレが困ったような笑みで答えた。
マーナルムが頭を抱える。
まぁ、クエレの部族に熱くなりやすい奴らが多いのは事実だ。
情報を掴んだ地点から、直接その場へ急行したのだろう。
みんなが『帰郷の鍵』のような手段を持っているわけではないので、一旦帰還するまでの時間が惜しくなる気持ちも分からなくはない。
「それより族長様! 助けに行こうよ!」
クエレの用件はそれだろう。
「……貴様ならば単身乗り込むかとも思ったが、よく
マーナルムの言葉に、クエレが胸を張る。
「ふっふーん! わたしは族長様のツガイだからね! 心配掛けないように話しておこうと思って!」
「誰がツガイか誰が!」
マーナルムとクエレの相性はあまりよくない。
真面目気質なマーナルムと、自由奔放なクエレは水と油のような存在なのかもしれない。
とはいえ、嫌い合っているかといえばそうでもないので、あまり問題視はしていない。
「ツガイってのはおいておくとして、報告に来たのは偉いぞ」
「でしょでしょ?」
クエレは嬉しそうだ。
「
「いや、出来てないやつらもいるしなぁ」
今回、それで捕まってしまった奴らがいるのだ。
「そ、それは確かに……」
「助けたあとで、げんこつだね!」
「その為にもまずは助けないとな」
「うん!」
クエレが大きく頷いた。
「まずはハーティのところへ行く」
「ハーちゃんに未来を視てもらうんだね! わかった!」
瞬間、クエレが俺とマーナルムをそれぞれ小脇に抱えた。
「おい! なんだこれは!」
マーナルムが不服そうに叫ぶ。
「だって急がないと!」
俺達を抱えた走るつもりらしい。
確かにクエレならば造作もないことだろう。
「諦めろマーナルム。抵抗するだけ時間が無駄になる」
「くっ……承知致しました」
それから俺は、黙って話を聞いていたシュノンと、彼女の背後に隠れるようにして様子を窺っていたモルテに視線を向けた。
「シュノン、モルテ。話はまた後でな」
シュノンはゆるりと、丁寧に頭を下げた。
「行ってらっしゃいませ」
そんなシュノンを見て、モルテも見様見真似で一礼する。
「いてらっしゃいましぇっ!」
二度ほど噛んでいた。
自分でもそれに気づき顔を赤くしている。
そんな彼女に一瞬和んだりしつつ。
「あぁ、行ってくる」
「行ってきまーす!」
直後、クエレが部屋を飛び出した。
再びドア枠に額をぶつけないかと少し不安だったが、さすがに短い間隔で同じミスはしないようだ。
とはいえ、来週あたりまたやりそうなのが、クエレという人物なのだが。
俺とマーナルムを抱えて廊下を走るクエレ。
仕事中のメイド達が何事かという視線で見ている。
中には「あぁクエレ様ね」という顔をする者や「旦那様を荷物みたいに!?」と驚いている者もいた。
「族長様、そういえば新しい子がいたね」
廊下を疾走しながら、クエレがそんなことを言い出した。
「あぁ、一週間前に来たばかりの子だよ」
「族長様は、可愛い女の子を助けるのが得意だね!」
クエレは屈託のない笑みを浮かべていた。
他の者ならば皮肉に聞こえるかもしれないが、彼女に限ってそれはない。
「仲間には男も多いだろ」
今回捕らえられたという蒼翼竜族も、男の方がずっと多い。
「そっか、そうだね、そうかも? じゃあ、族長様は人を助けるのが得意だね!」
「どうだろうな」
「いえ、そこだけはクエレに同意です。わたしも、
俺と同じように抱えられているマーナルムが、神妙な顔でクエレに同調する。
「……【蒐集家】がお前らを欲しがっただけだよ」
俺の言葉に、マーナルムとクエレが顔を見合わせ、こぼれるように笑った。
「それだけの人間ならば、ここまで人が集まることはありませんよ」
「みんな、【蒐集家】じゃなくて族長様が大好きだからここに住んでるんだよ!」
なにやら俺を褒める方向に話が進んでしまっているようだった。
むず痒いものを覚えながら、俺は口を開く。
「そんなことより、クエレ」
「族長様、照れてる? かわいー」
「いやそうじゃなくてだな――ハーティの部屋を通り過ぎてるぞ」
「え!?」
クエレが急停止し、小脇に抱えられた俺とマーナルムがすっぽ抜ける。
空中に投げ出され、身体が浮遊感に包まれた。
「クエレ貴様ー!」
空中で体勢を整えたマーナルムは、すぐさま俺を抱きとめて着地し、クエレに抗議の声を上げる。
俺の方は、ふわりと舞うマーナルムの白銀の髪に目を奪われていた。
「ご、ごめーん!」
クエレが涙目になって謝る。
「
「あぁ、マーナルムのおかげだ。助かったよ」
「と、当然のことをしたまでです!」
感謝の言葉を伝えると、マーナルムが嬉しそうな顔で応えた。
彼女に下ろしてもらい、立ち上がる。
「……取り敢えず、ハーティのところへ急ごう」
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