第24話◇盗賊団壊滅
盗賊の首魁のところへ戻ると、既に意識を取り戻していたその男は、もぞもぞと虫のように這っていた。
俺達が戻ってくる前に逃げるつもりだったのだろうか。
戻ってくるのに数日掛かるなら逃げられたかもしれないが、無駄な努力だ。
俺達に気づくと、男は焦ったような顔になった。
「待て! 話し合おう!」
「どうした? 貴様、先程までとは随分と態度が違うではないか」
マーナルムの声は冷え切っている。
まぁ、這っている間に部下がどういうふうに殺されたかを見たのだろう。近くには盗賊たちの破片が散らばっている。これを見れば、自分の死を実感して怖くなっても無理はない。
恐怖がプライドに勝れば、偉そうな盗賊も殊勝な態度をとるようになる。
「話す分には構わないぞ。訊きたいこともあるしな」
俺の言葉に交渉の余地ありと踏んだのか、男は食い気味に答えた。
「なんでも答える!」
その返事の通り、男は俺の質問に素直に答えた。
あの少女を利用して金を生み出していたこと。
その金で武器を大量に購入していたこと。
武器を売ってくれた商人の名前など、知りたいこと全部だ。
「……盗賊に武器を売れば、同業者や無辜の民が傷つけられると知っていて売ったというのなら、その商人も放置できませんね」
マーナルムの声は静かだが、そこには明確に怒りが込められていた。
彼女はかつて奴隷商に売られた経験があるが、それで商人という生き物に対して悪印象を持ったわけではないようだった。
ただ、今話に出たような悪徳商人は別。
「あぁ。もうしばらく働く必要があるな」
別に世界平和に興味はないが、放置するのも寝覚めが悪い。
「全部正直に答えた! 逃がしてくれ! いいだろ!?」
必死に叫ぶ男に、俺は微笑み掛ける。
きっと、モルテに向けたものと違って、これは優しく映らないだろう。
「あぁ、あと一つ」
「な、なんだ?」
「何枚だ?」
「は?」
俺の質問を、男は理解出来ないようだった。
俺は少し前のことを思い返す。
モルテに自分の前世を説明している暇はなかったので、自己紹介と共に彼女に名を尋ねたが。
俺には真贋審美眼があるから、彼女の名前は分かっていた。
名前だけではなく、その能力も。
――『モルテ』
――『己の肉体から、別の物質を生み出す』
――生み出した物質と同量の重さが、肉体から失われる。
――本人が実際に触れたことのあるものしか生み出すことが出来ない。
――特記事項・例外はあるが、真贋審美眼で希少度のついたアイテムに関しても、触れたことさえあれば生み出すことが可能。
――希少度『S』
彼女が異様に痩せていた理由は、これだ。
幼い少女の肉体を、生きられるギリギリまで、金貨に変えさせていたのだ。
体重が少しでも増えれば金貨を生ませていたのだろう。
俺とマーナルムが助けに行った時、彼女はまだ作れないと謝っていた。
まだ金貨を生める状態ではない。どうか許してくれと、謝っていたのだ。
「お前を逃してもいい。ちゃんと知りたい情報を教えてくれたからな」
盗賊の男の顔に、希望が浮かぶ。
「た、助かる!」
「それはどうだろうな。それでさっきの質問に戻るが、何枚だ? 今までモルテに、何枚の金貨を生ませた?」
「は、はぁ? そんなの一々数えてるわけ……」
男はこれから自分がどうなるのか想像が出来ないようで、困惑した表情を浮かべている。
「じゃあどうするかな。マーナルム、百枚だと少なすぎるか?」
「この男の体重も考慮して、二百ではどうでしょう」
事前の打ち合わせなどなかったが、マーナルムには通じたようだ。
さすがに五年一緒にいるだけある。
頼れる右腕の提案を、俺は採用することにした。
「じゃあそうしよう」
「おいお前ら、何の話をしてる!!」
怒鳴る男に、俺は仕方なく説明してやる。
「お前は懸賞金も掛かった悪党だから、普通は殺すべきだろ? でも情報を素直に吐いたから、そこは考慮してやりたいと思う。だがやはり、そのまま解放ってわけにもいかない。だから、それ相応のお仕置きをしてから、逃してやる」
「……何をするつもりだ」
ここまで説明しても理解出来ないらしい。
俺とマーナルムは顔を見合わせた。
「ここは私が」
「一人で二百枚分は疲れないか?」
「お任せください」
マーナルムは素手で戦う派なので、俺は革袋からナイフを取り出して彼女に手渡す。
「よく聞け。これから、貴様がモルテに生ませた金貨の分だけ、貴様の体重を減らしてやる。ここから出る頃には、贅肉一つ無い身体になれるだろうな。その頃に、生きていればだが」
ようやく自分に用意されたお仕置きの内容が分かったのか、男が顔面蒼白にしてガタガタと震え出す。
人をいたぶる趣味はないが、モルテのあの姿を見ては、何もせずにはいられない。
私利私欲の為に、それも自分たちの犯罪行為の発展の為に、幼い少女の血肉を金貨に変えるという所業。
それに、先程ぺらぺらと話していた中で聞いたが、少しでも早く金貨を生ませる為に、奴らはモルテに無理やり食い物を食べさせていたという。
モルテに心休まる時間はなかっただろう。
生きる為に食べなければならないが、食べた先から肉体を削らなければならない。
俺は【蒐集家】で、確かに希少な存在に目がない。
モルテの能力を見たくないと言えば嘘になる。
だが、彼女に無理強いしてまでその力を使わせることはない。絶対にない。
「た、助けてくれ」
男が命乞いをする。
きっとこれまで、数々の人々がこいつらにしてきたことで。
それをこいつらは、これまで全て無視してきたのだろうに。
何故、自分だけが、その言葉を吐いて助かると思えるのか、不思議でならない。
マーナルムは呆れたような顔で男に近づく。
「おい。貴様よりも幼い少女が、長期間にわたって耐えてきた苦しみだぞ。始まる前から弱音を吐く奴があるか」
それからしばらく、洞窟内に汚い悲鳴が響いていた。
一応言っておくと、この洞窟から生きて出られた盗賊はいない。
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