第3話

第三話

場面・都内某所ガード下


ワタル「まずいことになったなあ」


スマホのカレンダーを見ると、

ナツキに、竹内くんを探してくれと依頼されて

三週間が経とうとしている。

時間に猶予はあまりない、はずだ。


ワタル「タケウチくんて名前以外ノーヒントじゃあねえ」

ワタル「さすがに厳しいよなあ」


一週間前に見つけたタケウチが偽物だったのも

予定を狂わせた。


ワタル「卒業アルバムで、一発正解!」

ワタル「楽勝、だったと思ったんだけどな」


報告を聞いたユウキは、

「マジ笑える。怒られてやんの」

と言い、

落ち込んだワタルを励ますように、

「絶対大丈夫、次はちゃんと見つかるから」

と手を握りしめた。


ワタル「ふりだしに戻っちまったか」


今日は偽タケウチこと

タケウチキョウヘイを呼び出した。

連絡を取ってくれた謝礼を渡すと言って。


キョウヘイ「オオタと話すなんて」

キョウヘイ「マジ無駄な時間だったわ」

キョウヘイ「まあ割の良いバイトか。早く金、くださいよ」

ワタル「ばーか嘘に決まってんだろ」

キョウヘイ「は? 何言って──ィッツー」

人のいない裏通りで、腹を二、三発殴る。

ワタル「そもそもおまえ会ってねえし」

ワタル「しかもニセモノだったし」

キョウヘイ「勘違い、したのは、そっち、だろ、ウッッ」

ワタル「おい、まだ聞きてえことあんだからよ」

ワタル「ちゃんと答えろよ」

首元を掴まえ壁に押し当てる。

ワタル「オオタナツキに、おまえ何かしたのか」

先日のナツキとのやり取りを思い出す。

キョウヘイ「だから、俺は関係ねえって」

ワタル「じゃあ動けなくなるまで、いくか」

キョウヘイ「か、勘弁してくれよ」

キョウヘイ「高校の時、シカトしたり、からかってただけだよ」

キョウヘイ「ナカヤマとミヤザキってやつが中心で」

キョウヘイ「俺は関係ねえよ」

ワタル「あっそ、じゃあそいつらの連絡先教えろ」

キョウヘイ「えっ」

ワタル「えっ? じゃねえよ。知ってんだろ、殴られてえのか」

キョウヘイ「知ってます知ってます。すみません」

ワタル「あと、おまえ以外にタケウチって名前で」

ワタル「オオタと話してたやつ知らねえか」

キョウヘイ「オオタが話してるとこなんて見た事ねえよ」


ワタル「ちっ、今後オオタには関わんじゃねえぞ」

ワタル「関わったら──」

首元に強く力を入れると、偽タケウチは顔面蒼白になった。

もうしません、怯えながら這いずって逃げていく。


卒業アルバムをもう一度めくる。

ナツキの学年にタケウチはあと四人いた。

ワタル「タケウチ多いんだよ!」

ワタル「タケウチタクミ、タケウチナオト」

ワタル「タケウチアキラ、タケウチヨシヒロ」

ワタル「ああ、全くわからねえ」

ワタル「けどしょうがねえ」

ワタル「義理の妹のためだ」

ワタル「そして何より」

ワタル「ユウキのためだ」


その後、

ナカヤマとミヤザキも別々に呼び出して懲らしめておいた。

ミヤザキは異様に長い襟足と甲高い声がワタルをイラつかせたが

有益な情報をくれた。


ミヤザキ「オレ、一回見たことあります」

ミヤザキ「絶対コイツです、オオタと話しているところ見ました!」

ミヤザキ「だからもう勘弁してください!」

ワタル「おお、どのタケウチだ」

ミヤザキ「コイツです!」

ワタル「間違いねえな」

ミヤザキはアルバムを指差し頷いた。

ワタル「ちなみにコイツの連絡先、分かる?」


『ピロンッ』


ユウキ「見つかった?」

ワタル「ちょうどいま見つかったよ」

ワタル「都内にいたから、会いに行ってくるわ」

ユウキ「ありがとう」

ワタル「バイクで三十分くらいの所に住んでるらしい」

ワタル「ラッキーだよな」

ユウキ「…………」

ワタル「どうかした?」

ユウキ「もしかしたら」

ユウキ「間に合わないかもしれない」

ワタル「嘘だ」

ユウキ「もしその時は」

ワタル「何言ってんだよ!」

ワタル「今からそっちに向かう」

ワタル「予定変更だ」

ユウキ「だめ」

ワタル「何言ってんだよ」

ユウキ「遅かれ早かれ」

ユウキ「こうなることはわかってたんだから」

ユウキ「それより」

ユウキ「ナツキを」

ユウキ「外に出してあげて」

ワタル「…………二時間だ」

ワタル「今からタケウチとあって三十分」

ワタル「タケウチを乗せてナツキちゃんの家までも約三十分」

ワタル「そこから」

ワタル「そっちまで一時間」

ワタル「それまで、絶対負けんなよ」

ユウキ「わかった」

ユウキ「絶対負けない」

ワタル「よし」

ユウキ「ねえ、ワタル」

ワタル「何だよ」

ユウキ「ありがとうね」

ワタル「礼はまだ早いんだよ」


バイクに乗る。


ワタル「絶対大丈夫だ」


ユウキの口癖だった。


ワタル「絶対なんてないよな」


ナツキがそう言った。

ワタルもそう思う。


ガキの頃

一生のお願いを何回使っただろう。

あれが無効なら、

神さまお願いだ。

ユウキにナツキを会わせてあげてくれ。

ワタルはスピードを上げ、タケウチに会いに行く。


場面・ナツキの部屋


『ピロンッ』


ナツキ「何だよ」

ユウキ「竹内くん見つかったよ」

ナツキ「あっそう」

ユウキ「嬉しくないの?」

ナツキ「嬉しくなくはない」

ユウキ「でもちょっと困ったことになってね」

ナツキ「何?」

ユウキ「時間がなくて」

ユウキ「直接そっちに向かうね」

ナツキ「いやわけわかんねえし」

ナツキ「無理だから」

ナツキ「ユウキもわかってると思うけど」

ナツキ「人に会える状態じゃないし」

ユウキ「でももう向かってるから」

ナツキ「会う気はないよ」

ユウキ「お願い」

ナツキ「マジ無理」


『ピンポーン』

ワタル「ナツキちゃんいる?」

ナツキ「誰か来た」

ワタル「開けてくれないかな」

ワタル「タケウチ連れてきた」

ナツキ「ユウキ、アイツ誰だよ」

ユウキ「ごめん、本当に時間がなさそう」

ナツキ「何のことだよ」

ワタル「おーい、早く開けてくれっ」

ユウキ「ナツキ」

ワタル「時間がないんだ」

ナツキ「だから何なんだよ」

ユウキ「わたしがもう一度会いたいのは」

ワタル「はっ? 知らないのかよ」

ユウキ「ナツキ、あんただよ」

ワタル「ユウキが死ぬんだよ」

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