第2話

第二話

場面・高校


アキラ「結局、オオタは大学で東京行くんやろ」

ナツキ「うん」

アキラ「ええなあ東京。楽しそうやもんな」

ナツキ「竹内くんは、どうするの?」

アキラ「おれな」

アキラ「一年くらい世界を旅してこようと思ってん」

ナツキ「えっ」

アキラ「ずっとバイトしとって、お金貯めててさ」

アキラ「笑うやろ。そんなんで将来どうすんねんって親にも言われた」

ナツキ「でも、竹内くん、らしいと、思うよ」

アキラ「ほんま?」

アキラ「ありがとう。オオタも頑張ってな」


竹内くんはたまに図書室を訪れ、

その度に私たちは他愛もない会話をした。

ただ、それだけの関係。


だけど、彼と話したわずかな時間は

私の中で、

今も輝き続けている。



場面・ナツキの部屋


ナツキ「何だよ!」

ナツキ「結局見つからねえのかよ」


ユウキから連絡があって二週間が過ぎた。

その後の音沙汰はない。


ナツキ「あーイライラするわ」

私は、彼に会える事を期待しているのだろうか。

無意識にスマホばかり目がいってしまう。

『ピロンッ』

ナツキ「……んっ?」

『ピロンッ』

ナツキ「だ、だれ?」


アキラ「竹内だけど」

ナツキ「た、た、竹内くん?」

アキラ「そうだけど何? 会って話したい事って」

ナツキ「え、いや特に用事はないんだけど」

アキラ「ふうん」


想像していたよりも、ずっと冷たい応答に感じた。

無理もないか。私にとって特別な思い出でも、

彼にとってはそうではないんだ。

当たり前だ。


ナツキ「元気に、してましたか」

アキラ「元気してるよ」

アキラ「オオタは? 進学、だったっけ」

ナツキ「あ、うん。大学、行ったけど、辞めちゃった」

アキラ「マジ。やばくね? まさか今ニート?」

ナツキ「い、いや、家でライター、みたいな、ことしてる」

アキラ「へえ」

咄嗟に嘘をついたのが、バレているのか。

話も盛り上がらない。

ナツキ「竹内くんは? 最近どう」

アキラ「俺は大手の食品メーカー」

アキラ「何社か内定出たけど一番評判良いとこにした」

ナツキ「そうなんだ……」

何だろう。思っていた感じとやっぱり違う。


ナツキ「久しぶりだからなんか緊張するね」

アキラ「はあ。高校ぶりだしな」

アキラ「てかオマエと話した事あったっけ?」

ナツキ「えっ?」

アキラ「何が目的かわかんないけど」

アキラ「シカトしてたのとか俺発信じゃねえから」

アキラ「もし仕返しする気なら」

アキラ「ナカヤマとかミヤザキとかにしろよ」

アキラ「俺関係ないから。勘弁して、な!」

ナツキ「何言ってるの……?」

アキラ?「今さら呼び出して仕返しか何かするつもりなんだろ」

アキラ?「とにかく、やめてくれ」

アキラ?「そもそもオマエなんかに会うつもりもないし」

アキラ?「二人きりとか本気でこえーわ」


ナツキ「…………」


『ピロンッ』


ユウキ「どうよ。私が本気出したらすぐに見つかったわよ」

ユウキ「二、三年生の時同じクラスだったタケウチキョウヘイくん」


ユウキ「で、もう一度会うことになったの?」

ユウキ「まずはお姉ちゃんを褒め称えてほしいところだけど」


ナツキ「……ちげえよ」


ユウキ「何が?」


ナツキ「違うやつなんだよ!」

ナツキ「タケウチ違い!」

ユウキ「うそ!」

ユウキ「それは、わたしやっちゃったね……」

ユウキ「でもまた探すよ」

ナツキ「うるせえよ!」

ナツキ「こっちは思い出したくないことまで思い出さされて」

ナツキ「マジむかつくんだよ」

ユウキ「……ごめんね」

ナツキ「自分の方が何でも出来るからって、上から見下してんなよ」

ナツキ「引きこもりの気持ちが」

ナツキ「おまえにわかるかよ!」


カーテンの隙間から外を覗く。

ザァザァと雨が降っている。

公園の土はぬかるんでいて、

合羽を着た男の子が駆けていく。


時間は確かに過ぎているのに、

自分だけが何も変わっていないように、

ナツキには思えた。


ナツキ「無理なんだよ」


ユウキ「大丈夫」

ユウキ「まだ間に合うから」

ユウキ「絶対大丈夫」


ナツキ「外に出たくない」

ナツキ「ユウキの言う通りだよ」

ナツキ「怖いんだよ」


ユウキ「絶対無理、なんてないから」

ナツキ「絶対大丈夫こそ、ないよ」

ユウキ「絶対大丈夫は、あるよ」

ユウキ「わたしは、絶対大丈夫って言える強さを」

ユウキ「信じるんだ」

ユウキ「だからナツキも言ってみて」

ナツキ「絶対大丈夫」

ユウキ「ほら」

ナツキ「何がだよ」

ユウキ「それが強さだよ」

ユウキ「ナツキにも、ちゃんとあるんだよ」


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