第3話 不思議な出来事

 柳都のお仕事場は、お家のすぐとなりにある。

 つながっているから、すぐ仕事場にいけるわ。

 一度こっそり忍び足で覗きに行ったんだけど、すぐ見つかって奥に連れ戻されちゃったの。

 

「店内は割れ物が多くて危ない。あなたがケガをしたらいけないから」

 

 という理由らしいけど、多分あたしが品物をこわしちゃうからだろうな。片目しか見えないから余計に。お仕事している柳都、見たかったのになぁ。残念。

 

 そんなある日、お客さんの一人が悩んでいて、柳都が相談にのっていた。

 優しそうなお婆さんだった。

 その方は亡くなったご主人様からもらった指輪をなくしたそうで、大いに困っていたようなの。

 たまたま柳都の腕の中にいたあたしは前足をそっと前に出した。

 そのお婆さんは握手のお誘いととったようで、その足を握ったの。

 すると、彼女は大きく目を見開いて動けなくなった。

 

「……柳都さん、今思い出したことがあるの。一旦失礼するわ」

 

「? それは構いませんが、どうされました?」

 

「この猫ちゃんの足を握ったら、頭の中にぱっと浮かび上がったの! 大切な指輪のありかが!」

 

「そうですか。それは良かったです。本当にあると良いですね」

 

 柳都から聞けば、それから彼女の探しものはすぐ見つかったらしいの。玄関のお花に水やりをした時に落としたんだって。

 

 それからこういう“不思議なこと”色々があって、お客さんが少し増えた気がする。

 彼らの狙いはここの品物だけではなく、“探しもの”や“願いごと”みたい。

 お客さん達が言うには、あたしの目を見ながら前足を握ると分かるのですって。驚いちゃった。

 

「ディアナ、あなたは凄い力を持っているようですね。驚きました」

 

 大きな手で撫でられて、あたしは鼻たかだかだった。

 

「お客様が増えることは、お店にとってもうれしいことです」

 

「でも、凄い力はとんでもないことを呼び寄せるきっかけにもなります。用心しないといけませんね」

 

 柳都が言う“とんでもないこと”ってどんなことかしら?

 よく分からないけど、お客さんが増えることは良いことだもの。

 あたしはすごくうれしかった。

 だって、柳都にはいつもやってもらってばかりなんだもの。

 あたしにできることってほとんどない。

 こういうことでよろこんでもらえるなら、あたし張り切っちゃう。

  

 でも、柳都を困らせることはしたくない。

 だから、あたしの目を見ながら前足を握ったりする以外にも“不思議なこと”が色々起きたんだけど、ここでもナイショにしておくわ。


 柳都との約束だから。

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