第2話 雨に打たれて
あたし、実は捨て猫だったの。
まだ仔猫だったころ。あの日は朝からずっとひどい雨だった。
冷たく凍りつくような雨。
段ボール箱の中のあたしは、すっかり濡れてやせっぽちになっていた。
そんな時、ちょうどお店の入り口に錠をかけに外に出てきた柳都があたしを見つけてくれたの。
たまたまお店の裏側に来てくれたから、気付いてくれたみたい。
もしそうじゃなかったら、あたしはこごえ死んでいたかもしれない。
「誰でしょう? 何てひどいことを……」
柳都があわててあたしを拾い上げ、腕に抱きかかえて家の中に入れてくれた。
彼は店の入り口の戸に「本日の営業は終了致しました」の札を下げて内鍵を掛け、その足で奥へと入ってゆく。
タオルでばさばさになった毛の水気をとり、他のタオルでくるんだあたしをストーブの前に座らせてくれた。
「そこで少し待っていて下さいね」
しばらくすると、彼は白いお皿を片手に持って戻ってきた。眼鏡のレンズに水滴がついたまま。お皿にはゆらりと湯気のたつ、白い液体が入っている。
お腹がぐぅと鳴った。そう言えば、昨日から何も食べてなかったわ。
「見た目ほど熱くないから大丈夫ですよ。お腹を壊さないように少し薄めています」
あたしは鼻でその匂いをかぎ、舌をちろりと出してそれをなめてみた。
ミルクだ。ぬるめで、ちょうどいい温度。
おいしい。
ぬくもりがお腹の中から、じんわりと身体中へと広がっていった。お腹がきゅっとなる。
その時、あたしの頭の中を黒いものがふとよぎったの。
何にもない段ボール箱の中。
雨の矢に打たれて。
寒くて寒くて、こごえて。
生まれてすぐ親に捨てられ、すぐ拾ってくれた人間にもすぐ捨てられたの。
今度こそもうだめかと思ったわ。
あたしはなぜ捨てられるの?
左眼しか見えないから?
あたしの一体何が悪いのかしら。
悪いこと何もしてないじゃない!
「みゃーみゃー」
あらやだ。あたしったら、つい口から出てしまったみたい。
柳都は急にあたしを毛布でくるんで膝の上にのせてくれたの。
ふかふかのソファーに腰掛けた膝の上。
毛布ごと抱き寄せてくれた。
ぽかぽかと温かい。
彼はあたしの心の中を見すかしてたのかしらね。
こう優しく言ってくれたの。
「うちにいて良いですよ。あなたが迷い猫でないかどうか、身元は後で調べておきますから」
それを聞いて、あたしの中ですとんと何かが落ちた。
それから先、あんまり覚えてないの。
優しくて大きな腕の中につつまれながら、あたしはいつの間にか眠ってしまったみたい。
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