第13話 先輩

 とりあえず俺達は自己紹介をする事にした。


「俺、上田彰って言います。よろしくお願いします!能力者で能力は電撃を操ることっす!」


 ビリ男は深々と頭を下げて挨拶をした。

 体育会系なのかな?そう言えば最初会った時、DQNだった気がするけど気のせいか。


「私は浅田七海って言います!よろしくお願いします!魔術師で能力は属性魔力を物体に宿すことです!」


 うん、元気があって何よりだけど先輩がびっくりしてるからやめな?


「僕は名乗る必要も無いかもしれないですけど一応。一条龍太って言います、能力は無いです」


「私は浜崎はまざき佳奈かなっていいます。私は精霊で重力を操る力を持っています」


 浜崎佳奈

 年齢 16歳(高校2年生)

 身長 152cm

 体重 Secret

 赤い髪、赤い瞳のランクAの精霊。

 重力を操る力を宿し、それを聖剣デュランダルに乗せて斬撃を放つ。いっぺんに力を使える人数は10人。

 この学園の生徒で2人目のランクSに到達する可能性がある少女。


「精霊!?ってことは翼は?」


「はい、どうぞ」


 先輩は浅田さんに言われるとスっと翼を生やした。

 蝶の様な白い綺麗な翼だった。


「ってか先輩、重力を操るってなかなかエグい能力持ってますね?」


 ふと、ビリ男がそんな質問をした。

 確かによく考えたらエグいな…50倍とかさすがにヤバいかも。


「でも今私が重くできるのはせいぜい10倍ってところかな…」


 さすがに焦ったぜ…10倍でもキツイけど。


「ではこれから佳奈ちゃんって呼びますね!」


「うん、よろしくね七海ちゃん」


「はぁ、先輩可愛いぃ〜」


「え?どうしたの急に?」


 浅田さんが既に手懐けられただと!?

 なんだこの百合百合しい空間は!浅田さんが先輩に抱きついている!


「とりあえず今日は大人しく帰りましょうか。詳しい話しやらなんやらは明日からってことで」


「「「はーい」」」


 何か収集がつきそうになかったので一度この話を閉めて帰ることにした。

 もちろん先輩も一緒に。


「佳奈先輩!あそこ行きましょ!」


 とりあえずその後ハルを置いてきたビリ男を一発殴って、ハルを回収して下校した。


「ちょっと七海ちゃん…待って…」


 先輩…無尽蔵の浅田さんについて行こうとするから…。

 結局先輩は浅田さんに連れ回されてる。


「あれ?龍ちゃんじゃん」


「あ、琴美ちゃん」


 後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはオシャンなコーヒー店の新作フラッペを片手に歩いている琴美ちゃんがいた。


「何?高校生の青春中?」


「それも間違ってないけど」


「は、はわわ…」


 先輩が完全に固まっている。まるでただの屍の様だ…。

 この人そんなに有名人?


「君達はこの間の体力テストの時の子だよね?」


「は、はい!上田彰と申します!よろしくお願いします!」


「私、浅田七海って言います!よろしくお願いします!」


「私は浜崎佳奈って言います…」


 あら、浅田さんの後ろに隠れてまあ可愛い。

 どっちが歳上なのか分からんくなってきた。


「とりあえずここだと目立つから、どっか店入ろうか…」


 俺達は少し移動して喫茶店に入り、琴美ちゃんに事情を説明した。


「なるほどねぇ…んでどうする予定なの?」


 琴美ちゃんは砂糖とミルクを大量に入れ、さらに蜂蜜を入れたコーヒーを1口飲んでそう言った。


「と言われても、こればっかりは原因とか先輩がどうしたいかとか分からないとどうにも…」


「そうっすよ浜崎先輩、会ったばかりの人に言うのもあれですが、あんたが変わらないことにはああ言う奴らは何言っても変わらないっすよ」


 ビリ男にしてはなかなか的確な事を言いやがる…つかお前いちごミルク飲んで…可愛いとこあんな。


「そうですよね、話さなきゃですよね…」


 先輩はコップの中のオレンジジュースを一気飲みして、事の発端を話してくれた。


「実は私1年生の時からイジメられてたんです…」


 先輩の話を聞くと要はこう言う事だ。

 1年生の終わり、同じクラスの学年の王子様系イケメンを、訓練の最中の失敗で高い所から落ちそうになった。

 そこで先輩が重力を軽くし、そのイケメンを助けたらそのイケメンが好意を向けてきてオドオドしていたら、先程の金髪こと、クラスの女帝の気に触り、段々酷く…とのことだった。


「女子の嫉妬って怖いねぇ…それでえーと、佳奈ちゃんでいいかな?」


「は、はい!」


 何故か急にオドオドモードに戻る先輩を見て少し真面目な話を琴美ちゃんは吹っかけた。


「あなたのやれる事は3つ、1つ目は実力で黙らせる、2つ目はあなたがこのまま我慢する、そして3つ目はあなたが変わる。もっと他にあるかもしれないけど現段階で私が言えるのはそれだけ」


 琴美ちゃんが珍しくお姉さんモードだ…それだけ真剣に考えてくれているってことだな。

 ほんと、昔から変わってないな…。


「私は…」


「先輩、今無理に答えは出さなくていいです。ただその代わりあなたの、先輩自身がこの先困らないと言うか、あなたのためになると考えた答えを出してください」


 先輩は俯いて拳をぎゅっと握っていた。

 分かってる、どんな手段でも一番迷うのは先輩だ。やり返せる実力がありながらそれをしなかった。

 この半年間ずっと、それは先輩が優しくて強いからだ。

 けど、それで先輩が人生を諦めてしまったら…それこそ先輩の優しさと強さが勿体ない。

 これから先、何人の命をも救える優しさと強さは17年で手放していい才能じゃない。


「私、変わりたい…イジメなんかで折れる様な弱い精霊に、なりたくない!」


「うん、その意気だよ佳奈先輩!」


 先輩が涙ながらに決心した。

 その手を浅田さんが優しく包む。

 ビリ男も何も言わないが、あえて何も言わずにいることも大切だ。


「さて、私が出来るのはここまでだよ…あとは高校生で何とかしてね」


 琴美ちゃんはそう言うとコーヒーを飲んで一息吐いた。

 俺の周りは優しさの才能の塊だ、きっとそれぞれにそれぞれの物語とその経験が詰まってる。


「さて、色々あったしここは俺の奢りって事で…」


 仕方ない、俺がここを持ってやろうじゃねえか!


「全員ドリンクバーしか頼んでねえからお前払うのたったの1000円じゃねえか」


「はぁあ!?お前1000円の価値分かってんのか!?何日分の食費浮くと思ってんだ!」


「お、おう…それはすまん」


 ちょっと引いてんじゃねえよ…てめえさてはボンボンだな?

 いいですね!お金持ちは!


「はいはい、落ち着いて…ハルちゃんもいるんだし…」


 琴美ちゃんが俺をなだめてくれた。

 まあ、仕方ない…ここは机の上でミルクを飲んでいる可愛いハルに免じて許してやろう。


「それで、問題は佳奈先輩のイジメの対処法ですよね」


「それもそうだな…んで一条、どうするよ?」


「ちょっと考えるわ」


 俺はそう言うと蜂蜜レモンをストローでゆっくり吸い上げて考えた。


 金髪の目的は先輩を不登校にさせる事と自分の憂さ晴らしだと過程すると、金髪とイケメンが上手くいくしかないんだけど。

 それだと根本的な解決にならない。

 かと言って相手を陥れるやり方は先輩の意に反する…だとすると先輩と金髪が仲良くなるのが一番いい。

 なら…方法は一つだな。


「先輩、一つ質問があります」


「は、はい!」


 一つだけ確かめたい事、それは。


「覚悟はありますか?」


 何のとはあえて聞かなかった、と言うか言葉にするのが面倒なやつなので言わなかった。


「よく分かりませんが…あります…!」


 先輩の目は本気だった。

 怖いけど、やるしかない…そんな目。


「それじゃあまずは、イジメの程度を知って起きましょう。どんな事をされてるかとか覚えてますか?」


「うん…」


 結果から言うと…結構酷かった…。

 しかもじんわり来るタイプ。

 靴に納豆入れられたりとか、バレない様に能力を使って下着だけ濡らされたりとか。

 やべぇ、先輩の前に俺が金髪殴りに行きそう。


「それにその後片付け手伝ってるフリまでするの…」


「「「「………」」」」


 やべぇ、本格的に計画練ってやがるな。

 ライバルを蹴落としながら好きな人への好感度を上げるとてつもなく気持ちの悪いことを平気でやれる根性だけは評価に値する。

 見てみろよ、ビリ男とかトイレで吐いてんぞ。


「とりあえず…先輩、あなたの覚悟があることは分かったのでこれから作戦を言います」


「はあ…」


「単純に先輩と決闘させます」


『はぁあ!?』


 全員がその場で立って驚いた。

 いやいくらなんでも驚きすぎじゃね?


「決闘って一条君本気?」


「ああ、本気も本気だよ浅田さん」


「なんで急に決闘なんて…」


「簡単だ、先輩は強い。それに真っ直ぐな言葉と実力をぶつければ相手は多少心が動かされるはず…動かなかったらもう金髪達は手遅れだ」


 そう、バトル漫画的な感じにしてしまうのだ。

 それに1VS1で話し合って殴りあった方が変に策を講じるよりよっぽどいいと思う…多分。


「龍ちゃんは色々考えた結果脳筋作戦に出ると…ほんと昔から変わってないよね…」


 琴美ちゃんが少しニコニコしながらコーヒーを飲む。


「全く、お前責任取れんのか?」


「え?さすがに学生の内に結婚はちょっと…」


「違ぇよ!誰がそこまでしろっつった!」


「私は別に構いませんよ?」


 おっと?これはもう脈アリですか?そうなったら容赦しませんよ?


「では遠慮なぐぇッ!」


「はーい、冗談はそこまでにしなさい!」


 琴美ちゃんにネクタイを引っ張られてそのままヘッドロックされた。

 くそぅ…。あと少しで彼女いない歴=年齢から脱出出来たと言うのに!


「うふふっ」


「どうしたんすか浜崎先輩?」


「いいや、第2位の人って言ってもちゃんと女の子なんだなって」


「ああ、それは俺も同感っすね」


「私も、それにめっちゃ可愛いし」


 彼らが俺がヘッドロックされている間にそんな話をしていたことは知る由もなかった。

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