第12話 イジメ

 4月の終わり、あと1週間でGWと言うところまで来た。

 桜の花も散って、青々とした草が生い茂るこの季節。やはりと言っていいものか、クラス内にもグループや派閥が出来る。


「はぁ、28℃って…4月の気温じゃないよぉ…暑いよぉ」


「おい、浅田…それ言うんじゃねえよ…余計に暑くなんだろ…」


「浅田さんもビリ男も暑いの苦手なのな。まあかく言う俺も苦手なんだけど」


 俺達は当番制の教室掃除をしながら手持ち扇風機で風を顔に送っていた。

 くっそ、学校が5月に入ったらクーラーつけていいって言うけど…もうつけていいよね?この暑さ。

 保温機能付きの部屋で寝ているハルが羨ましい…。


「クーラーが…欲しい…」


「上田君、それは私も同感」


「でも学校の設備清掃がまだだってよ、今つけたらホコリを撒き散らすだけだぞ2人とも?」


 すると、開けていた窓から涼しい風が入って来た。


「はぁ、涼しい…ってあれ?」


「どうした浅田…ん?」


 2人は窓の外を見て何かを見た。

 なんだ?小鳥か?めっちゃ気になるんだが…。


「おい、2人とも何見て…」


 俺らのクラスの窓の外は中庭に繋がっていて、そして右端には裏路地がここの窓からだけ見える。

 その裏路地で、赤い髪の長いポニーテール女子が金髪のガングロギャルとその取り巻きに何か言われている。


「あれって、大丈夫ではないよね?」


 浅田さんが前のめりになって鋭い顔をした。

 浅田さんは正義感も強いから、こう言うの見逃せないんだろ。

 しかし、ビリ男までそう言う顔するとは意外だな…最初会った時からしたら驚くべき変化だぞ?


「浅田さんはカメラで俺の方撮影しといて、ビリ男はハル見といて」


「え?ちょっ、一条君!?」


「お、お前何して」


 俺は2人を抱えて、窓に足をかける。

 幸いな事に放課後なので誰も見ていない。


「飛び降りるんだよ」


 教室に残ったハルはぶら下げてある玉に夢中で気付かなかった。


「よっと」


 俺は2階から飛び降りてフワッと着地した。


 大きな怒鳴り声が聞こえてくる。

 やっぱり…問題は赤髪が怒鳴ってるのか、金髪が怒鳴ってるのか。


「あんた少し優しくされたからって調子に乗んな!」


「わ、私はそんなつもりは…」


「だったら翔君から離れろ!」


 おっと、男の取り合いか?

 とりあえず止めるか。


「あいつ早くね?」


「まあ一条君だし」


 俺は走って裏路地に向かった。

 あそこまで聞こえてくるほど大きな声、それも放課後に誰も居ない学校だからなのか。

 べ、別に掃除サボってて遅れたとかそんなんじゃねえし?


「おい、あんた達…何があったか知らないけど…1回落ち着いたらどうだい?」


 俺は裏路地に付くなり金髪の方に話しかけた。


「はぁ?あんたには関係無いでしょ?」


「そうだよ、帰れよ陰キャ!」


 うわぁ、なんか典型的な返しが来たぁ…取り巻きもなんか言ってるし。

 はぁ、めんどくさいなぁ。


「それとも何?その女庇ってヒーロー気取りして楽しいの?キモいんですけど?」


 金髪は少し笑いながら俺を貶すと取り巻きも続いて爆笑し始めた。

 あー、これはもう救いよう無えわ。


「くだらねぇことばっか言いやがって…」


「は?」


 反抗的な態度を取って勝った気になっている奴には間違った意識をしていると少し自覚してもらわねば。


「関係ないけどよぉ、あんたらがここで人に罵声浴びせてるのを見てる俺らの気持ちにもなれよ?それともなんだ?人をイジメてるの見られて興奮する新手の変態か?」


「はぁ?何言ってんのか全然理解出来ないんだけど?ってかあんたそのネクタイの色1年っしょ?先輩に逆らっていいわけ?」


 え?先輩なの?俺こんなの先輩とか嫌なんだけど…。

 他の取り巻きも睨みを効かせているだけで何も言ってこない。

 はぁ、変な人に絡まれたねぇ…赤髪の先輩。


「理解出来ないならその程度の知能しか持ってないって事だ。さっき言ったよな俺らが見てたって、もしかしたら…誰か見て撮影とかしてるかもねぇ?」


 俺は浅田さんの方向を指さす。


「ちっ、行くよ…」


 浅田さんの位置はわざとこちら側から見える位置に居てもらった。

 証拠もあるし、何より問題を起こせばマズイって事くらいは理解出来たみたいだな。

 金髪は取り巻きと一緒にどこかへ行った。多分諦めてないな。


「あ、あの…ありがとう」


 そう言う赤髪の先輩は目も赤く綺麗だった。

 夕日に照らされてより赤くなっている。

 つかめっちゃ美少女やないかい。


「いえいえ、僕の友達がいじめを許せない人なので…でも多分まだやってきますよ?」


「うん、分かってる…でもどうすれば」


「それじゃあ、私達と一緒にいましょう!」


 先輩が悩んでいたら浅田さんがどこからか湧いてきた。


「え?あなた達と?」


「はい!私達といれば多分無くなるんじゃないかな…私達と言うか…一条君と一緒にいれば、ですけど」


「い、一条ってあなたまさか!?」


「あれ?俺有名人になってる?」


 先輩が驚いて俺の顔を見た。

 え?俺の顔なんか付いてる?お昼に食べたシュークリーム?


「体力テスト、能力値0なのにコンクリート粉砕して、尚且つ第2位と幼なじみなんて有名人にならねえ方がおかしいだろ…」


 ビリ男が頭を抱えながらそう説明してくれた。

 お前も何時どっから湧いてきたんだよ…。

 まあ、確かにそれもそうか。

 能力無い奴が岩を破壊するなんて冷静に考えたら怖いよな。


「一条君、とりあえずどうする?」


 こいつ全部俺に丸投げしやがった…野郎。


「まあ、でも…確かにいい案ではあるけど…先輩だぞ?そんなずっと俺達と行動出来ないだろ?」


「んー、それもそうか…」


 同じクラスだったら別だけど、さすがに授業の間の休み時間とか授業中まで一緒に居れねえからな。

 んー、あ!いい方法思いついた。


「とりあえず先輩、最初だけ俺達と行動しながら解決方を探しましょう」


「解決って…そんな事出来るの?」


 先輩が上目遣いでこちらを見てきた…可愛い…可愛すぎるぞこの先輩。

 撫でたい。


「ええ、まあやり返すとかはやらないですけど…」


「は?なんでやらねえんだよ?今更綺麗事か?」


 ビリ男が食い気味にそう言ってきた。

 相当怒ってるな…。


「ビリ男、いいか?」


「ビリ男言うな…」


 ビリ男は少し俺を睨んでいるが、あいつもバカじゃない。俺の言うことをしっかり聞くつもりだな。


「正義感が強いのはいい事だ。だけど物事の本質を見失うな…今回の件に関して言えば、イジメを根本的に無くさないといけない」


「だから!」


「いいや、違うんだよビリ男。いいか?俺達がもしやり返したとして、イジメはそれで収まるか?」


 俺がそう問うとビリ男は何かに気が付いた。

 そうこいつもバカじゃないのはそこだ。ヒントがあれば答えを出すのも冷静な判断も出来る。


「え?どう言う事なの?」


「もし俺達がやり返したとしよう」


「ふむふむ」


 理解が出来ない浅田さんは単純な疑問を俺に投げかけてきた。

 まあ、浅田さんは純粋だからここまで捻くれた考えは出ないよな…。


「もしそれを根に持って相手がやり返してくる可能性もある」


「なるほど…」


「そうだ、綺麗事は身を守るためには一番いい。もし復讐するなら相手を永遠に引きこもらせるくらいの覚悟がないとやり返しなんてやらない方がいい…それにもし俺達がやり返しに成功したとて、俺達が恨みを買って先輩1人の時に狙われたらどうする?」


「なるほどね…だからイジメられてる方が変わってイジメてる相手を変えるしか無いってことだね」


「そうだ、だからこそ1周回って綺麗事ってこと」


 ビリ男も納得した様だな。

 さて、とは言ったものの具体的なのはこれからの行動を見てからだな。


「気になったけどよ、お前やり返すなら何をする気だったんだ?」


「ん?証拠を集めてから何も言わずに警察に被害届を出して訴えて大袈裟に傷付いた演技をして賠償金をたんまり親から搾り取る」


「さて、相手に綺麗な心を手に入れさせよう!」


 あれ?なんかビリ男がやる気になってる。

 うん、いい事だ!

 ん?何をコソコソ浅田さんと話してんだろ?


「なぁ浅田!あいつ絶対ヤバいって!」


「良かったよぉ、一条君の味方で良かったよぉ…」


 ま、いっか…さてそろそろ俺達が一番やらなきゃいけないことがある…。


「おい、お前ら…自己紹介まだじゃね?」


「「あ…」」


 この先本当に大丈夫なのだろうか?

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