第11話 体力テスト

 さて、高校生活が始まり、琴美ちゃんにご飯を作るのも、学校にハルを連れて行くのも慣れて、初めての大きい行事…それは。


「今日1日、体力テストを行います」


『はーい』


 そしてクラス全員も先生にはメロメロになっていた。

 4月の終わり、やっと高校生らしい事ができると僕は感動しております。


「うちのクラスは体力テストからです、それでは行きましょう!」


 この能力も含めての体力テストは少し特殊で、機械が自動で自分の種目、及び点数を付けてくれる。

 ちなみに俺は、パンチ力とキック力とピンチ力。

 つまり、殴る力と蹴る力と摘む力ってわけだ。


「それでは始めてください」


 体力テストは1人づつ戦闘練習用体育館で行われる。その理由も個人の能力や能力の洗練度、身長や体重、筋肉量と技量も含めてテストされるためだ。

 ちなみにその他の生徒はガラス貼りの2階で待機する事になっている。

 まあ、俺はどんなけ高得点出しても結局能力無しだから能力値だけ0点なんだけど…。

 クラスのみんなに変に誤魔化したせいでなんか…まあ後で能力ありませんって大人しく言お。

 何故あの時に見えを張って身体能力の向上とか言ったのかなぁ…。


「ヨーイ、始メ」


 機械がそう言うと目の前にコンクリートの壁が出された。

 厚さ8m、高さ8mの正方形といったところだろうか?


「完全防音で良かったな…これなら少しは本気を出せそうだ…」


 イメージしろ、俺の拳は銃弾。

 俺は真っ直ぐに拳を放った。


 パァン!


「コンクリート粉砕ヲ確認」


 彼は身体の脱力と極めを完全にコントロールする事により絶大な力を見せた。

 突きを打つ始め、途中、最後と動作を3つに分解。始めは加速の筋肉、途中は完全に脱力、最後は当たる瞬間のみにブレーキの筋肉と意識をし、そして肩甲骨の動きを最大限に活かし、拳を放つ。

 そしてその威力は、音速を超え、突きを放った場所だけでなく、周りにも、『音』と言う感覚で影響を出すほど。


「あいつ、すげぇな…」


「一条君に殴られたくないなぁ」


 上田と浅田が上でなんか見てる、あれ?これ手振ったほうがいい?


「なんであいつ手振ってんだ?」


「さぁ?」


 続いてキック力、足は手の3倍と言われているので単純にさっきのコンクリートの3倍の量が目の前に出された。

 多分これくらいなら多少やっても大丈夫だろ。


 一方その頃、上では。


「やっほー、美咲ちゃーん!」


「あら南さん、どうしたの?」


『はぁあ!?』


 クラス全員驚きの表情を隠せずに、なんなら声が揃って出ていた。


「ど、どったの?」


「あー、あなた一応有名人でしょ?そんな急に来られてもびっくりするでしょ?」


「あー、そう言えば…」


 南琴美は東京の学生の間では超人気モデル的存在。

 それが普通に母校に遊びに来たのであった。


「まー、いいじゃん!講義も無いし暇だし…」


「はぁ、それで暇つぶしは出来そう?」


「んー、そうだね…龍ちゃんの番かぁ…」


 琴美は窓から会場を見下ろして、楽しそうな表情を浮かべた。


「あら?あなた一条君知ってるの?」


「まあ、家隣だから毎日ご飯作ってもらってるし…あ!ハルちゃん!」


 琴美は浅田の持っているハルのケースを見てソサクサとハルを愛で始めた。


「俺はもうツッコまんぞ…」


「でも上田君がツッコミ役から外れたら…今度は誰がツッコミをするの!?」


「お前がやれ!」


「ほら君達、見てないと終わっちゃうよ?龍ちゃんの体力テスト」


 龍太はぴょんぴょんと飛び跳ねて準備運動をしていた。


「さてそろそろやりますか」


「ソレデハ、ヨウイ始メ」


 突きは肩甲骨を、それじゃあ蹴りはどこを意識するか。

 腰?それも間違いじゃない。

 正しいのは股関節。結果的に腰から出しているように見えるだけで、股関節を動かせば自然と腰が動き遠心力がより加わる。

 あとはさっきの脱力をして蹴る。

 これを無意識で出来るまでに相当時間がかかったなぁ。

 突きのイメージが銃弾なら、蹴りはなんだ?

 俺の答えは、水刃。


「よいしょ!」


 龍太が放った蹴りでコンクリートは、まるで刃物で切った野菜の様に綺麗に切れた。


「破壊ヲ確認」


 どうせどんなに壊しても能力値が0点だからAは取れないんだよなぁ。

 まあ、この世界で能力持ってない判定は俺だけだし…仕方ないんだけどね?

 いや、でも思うわけですよ…能力を消す体質でそれが国家機密で…俺はこの先の人生自分の能力をどう説明しろと!?

 履歴書とかでも能力って欄あるし!


 ※この世界での能力の紹介は、今の世界で言う年齢くらいの感覚である。


「最後ハピンチ力ヲ測リマス」


 今度は水平な5m程の高さの壁が現れた。

 なんで壁…まあ大体予想は付くけど…。


「指ノ力ダケデ登ッテクダサイ」


「はぁ、爪汚れるから嫌なんだけどなぁ…」


「ソレデハ、ヨウイ…始メ」


 俺は壁に手を付け、指を少しめり込ませながら上へ登って行く。

 よく触ると今度はコンクリートではなく、鉄だった。

 経費削減ですかそうですか。


「はい、終わりっと」


 水平の壁を5m登るのにかかった時間、僅か10秒。

 龍太が登って来た場所にはくっきりと手型が残っていた。


「さて、終わり…結果は…Bかぁ」


「おつかれ龍ちゃん」


「あれ?琴美ちゃん来てたの?」


 体力テストが終わると後ろの自動ドアが開き、琴美ちゃんが出てきた。

 この人暇なんか?


「うん、今日講義無かったし…ハルちゃんも心配だしね」


「それじゃあ帰る時ハル連れてってくれるとありがたい」


「うん、そのつもり」


 仲良さそうにしている2人を見てクラスメイト全員は状況を全く理解出来ていない、と言うより理解が追いついていなかった。

 この体力テストの結果の事もあり、一条龍太には逆らえないと言う、暗黙のルールが学校中で広まったのである。


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